盛夏戦編 第01章 第02話 再試験
振るう度、敵を屠る度に加速する剣は、一つまた一つと人型の忌形種を屠っていく。
サイズと形こそ人型だが、そのすべては骨のみで動いている。音速の壁を切り裂く勢いで放たれる剣は、一撃で骨を切り裂き、生まれた衝撃波で、バラバラに砕く。
それでも、死を恐れぬ忌形種の群れは、大挙を成して彼へと襲いかかる。圧倒的な一対多だが、全く危な気なく消滅させていく。
忌形種は死を迎えると、ただただ黒い灰へと代わり、いずれは灰すらも消滅する。
しかし、灰の消滅が追いつかないペースで切り裂く彼は、まるで黒い台風だ。
黒髪黒目。同年代の少年と比べても、身長は高い部類に入るが、それによって動きが阻害されるわけでもない。
実年齢は15歳だが、母性本能をくすぐる少年タイプではなく、精悍と呼ばれるタイプの容姿だ。
ある意味では、女性受けの良い容姿だろう。
彼――久城文弥が、ちょうど三百の忌形種を葬った時、途端に忌形種の出現が止まった。
完全に止まったのを確認して、構えを解き手の中の剣を左右に切り払うと、剣は光の粒子へと変わり、ポケットサイズのセラミック製IDカードへと変わった。
「お疲れ様、スポーツドリンクのお届けでーす」
ペタペタと駆け寄ってきたのは、黒髪の少女だ。
つり目がちの双眸だが、一切キツい印象を受けない、柔和な笑みを浮かべている。
美少女と言う称号を与えることに、なんの抵抗も感じないほど、美しい少女だ。
「今日は優羽が持ってきてくれたのか。ありがとうな」
文弥は優羽から、スポーツドリンクを受け取ると、礼をのべながら、キャップを切った。
優羽も文弥に倣って、持参した紅茶のペットボトルに口をつけた。
「うん。本当は、毎日私でも良いんだけど、交代制にするってみんなで決めちゃったからね」
そういって、少し残念そうに笑う。
優羽は事あるごとに、文弥のお世話がかりを自称し、そして、その自称の通り世話を焼きたがる。
文弥の日課である早朝トレーニングの手伝いもかって出てくれていたのだが、基本的に『軽いトレーニング』で済ませる事にしている、早朝トレーニングでは相手が必要になるような訓練は行わない。
そう断ったところ、休憩時に飲み物の差入れのにきてくれるようになったのだが、それは諸事情により同居する事になった他の三人の女子生徒も同様で、一時間程度のトレーニングで、合計四本のペットボトルが届く事態となったため、彼女たちの中でローテーションを組む事にしたらしい。
因みに、文弥はどう言う密約が交わされて、そう言う順番で彼女たちが現れるのかを知らない。
「俺としては、別に自分で持ってきても構わんのだけど……」
それは紛れもない本音だった。
「そうしたら、温くなっちゃうからね。スポーツドリンクは冷たい方がおいしいよ」
「常温の方が体にはいいらしいけどな」
肩を竦めて、返す。
「う……今度から、持ってくるの常温のやつにする?」
少し上目がちになりながら優羽は文弥に訊ねる。
計算してやっているならずいぶんとあざとい所作だが、残念ながら彼女のこれは天然だ。
さらにいえば、元の趣旨と話が変わってきている事に、どうやら気がついていないらしい。常温で良いのであれば、文弥自身が出かける際に持ってくればいいのだ。そもそもにおいて、元々はそうしていたのだ。
文弥は改めてそれを気づかせてやる事もないかと、思い直した。
「いや、せっかくだし冷たい方がいい。
――何だかんだでちょうどいい息抜きにもなるしな」
「そう?邪魔になってるんじゃないかってたまに心配になる時があるけど。そう言ってもらえると嬉しいかも。
それにしても、いつ見てもすごいね。今の全部クラウ・ソラスの幻影でしょ?本当に便利だよね、それ」
より正確には、切った時に実体を感じ取れるよう、幻覚も織り交ぜた複合技なのだが、そこまで細かい指摘をする事はない。
「なんだ、優羽。お前もやってみるか?」
「スキル使えば、問題ないけど、文弥くんみたいにスキルなしであれをやるのはちょっと無理かも」
「まぁ、優羽は武器が弓矢だからな。近寄られたら、弓だけじゃなんともならんか」
「そこが課題だよね」
弓兵に近接戦闘の能力は必要ないだろうと言うのが、文弥の本音だったが、あるに越した事がないのも事実なので、同意を込めて大きく頷き、アドバイスを送る事にした。
「体術を鍛えるのがいいかもな。他の武器を持ち歩くよりも、よっぽど現実的だからな」
「なるほど……弓持ってても、なんとかなるような体術か……打撃メインだよね?あんまり得意じゃないなぁ……」
「蹴り技をメインにすりゃ大丈夫だろ。ちょっとコーチしてやろうか?金鵄教導仕込みの体術をよ」
「先生!よろしくお願いします」
言って、丁寧で綺麗なお辞儀をする。
「おう、まかせとけ!」
文弥はそう答えると、早速脳内でトレーニングメニューを検討し始めた。
◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇
「前から思ってたんだけど、文弥の専用器って、どこから出してるの?」
問われて、文弥は口に運ぼうとした四個目のおにぎりを下ろした。
トレーニングも終わり、部屋に戻りシャワーを浴びて朝食。
これが、ここ凱園高校へ転入してきてからの文弥の生活だ。
朝食は、二人の妹である文寧と澪、幼馴染の伊織、そして自称お世話係で、クラス委員の優羽の、同居人全員揃ってとるのが常だ。
興味深そうに訊ねてきたのは、幼馴染の片瀬 伊織だ。
見た目的にはこの中において、一番セクシーアピールが強いスタイルをしているが、元々男同士のような付き合いをしており、それは今も変わらない。
事情により十年ほど会っておらず、先々月、久方ぶりに再開したのだが、幼い頃の印象から、ずっと男だと思っていた文弥は再開と同時に多いに驚いたものだった。
彼女は、文弥にとっては家族についで近い人物と言える、古くからの友人だ。
「え?そのネックレスがそうなんじゃないの?てっきり小型化してネックレスにしてるもんだと思ってたんだけど……」
優羽が、首をかしげながら、文弥の首元にぶら下がっている二本の剣をかたどったネックスを見つめながら言うが、妹二人は興味なさげに食事を続行している。
文弥が《能力保持者》として教育を受け始めてから、ずっと一緒にいる澪はもちろん真実を知っている。
彼女の能力を体で表すかのような真っ赤な髪色が特徴的だ。
そして、文寧はいつも以上に無表情であるため、伊織はなんらかの手段で、情報を仕入れているのだろうと、勝手にあたりをつけた。
こちらは、全体的に色素が薄く、白い少女だ。白い髪、白い肌。同じ妹でも、受ける印象はずいぶんと違う。
もちろん、兄である文弥とも印象が違うのだが。
澪と文弥に血縁関係はないが、文寧と文弥は双子だ。二卵性であるため、イメージが違ってもおかしくはないのだが、それにしても全く似ていない。
文弥は、漆黒と言える程の黒髪で、肌の色も健康的に日焼けしているのに対し、文寧の髪色は白く、肌も白い。
最初の出会い故か、澪と他のメンバーは最初の頃こそいがみ合っていたが、気がつくといつの間にか、それなりに話す程の仲になっていた。
いがみ合っている時期から、こうやって三食を共にしているのは変わらない。
「いや、こいつはダミーだ。俺を狙ってくるやつは大抵最初に武器を奪いにくるからな。絶刀剣舞を相手にしたくない連中や、それしか《能力》を知らない連中は特にな。基本的に俺は、《能力》を偽装したり隠蔽してるからな、いろいろ推測をはたらかせてあれこれしかけてくるもんさ。これが狙われたら、要注意って事だな」
「狙われる事はあっても、奪われた事などないですよね。兄様」
楚々とした姿で口元をぬぐいながら、澪がツッコミをいれてくる。
「それは、狙われたら注意してるからだな。作戦成功ってやつだ」
「で?本当はどこに隠してるのよ?澪は知ってそうだし、もし秘密って言うんなら後でこっそり澪に……」
「あら、伊織。兄様が秘密だと言う事を私がベラベラしゃべるとでも思っているのかしら?たとえ拷問されたとしても話すわけがないわ。
――もっとも、そうなる前に最大限抵抗させてもらうけど」
屈託なく笑う澪だったが、彼女の実力を知っている伊織は背中に嫌な汗をかくのを感じた。
目の前の少女も、文弥と同じあの金鵄教導出身で、その実容赦の無い性格であることを、一度相対して知っているのだ。
「いや、別に秘密ってわけじゃねーよ。知ったところで、誰も奪いに来れないしな」
――もっと言えば、奪ったところで使う事は不可能だろうけどな。
と心の中で付け加えて、軽く笑った。
興味を隠そうともしない伊織と、同じく隠しきれていない優羽の表情を見て、話を続ける。
「こいつはちょっと特殊でよ、呪術的な力で、俺の体内に寄生してるんだよ。俺の呼び出しに応じて、姿を見せるわけだから、寄生っていうか間借りさせてる感じだな」
通常の専用器は、汎用器と違い、ある程度までしか小型化できない。
むしろ、小型化可能な専用器の方が珍しく、大抵の場合は、そのまま持ち歩く事になる。
「金鵄教導って、そんな特殊な専用器まで用意してたんだね」
「……兄さん、今日はいつもより早めに登校する日だったと、アヤさんは、記憶しています。そろそろ、食べ終わらないとまずいのでは?
「ああ、そうだった。そろそろ、行かないとな。悪いけど、俺だけ先にいく事にする。お前たちはゆっくりくると良い」
そういって言って、おにぎりを押し込み、慌ただしく立ち上がり、カバンを手に取ると、さっさと食堂を出て行ってしまった。
それを見て、優羽は首をかしげながら、
「文弥くん、今日学校でなんかあったっけ?」
と、訊ねた。得てして答えたのは、発端である文寧ではなく、澪だった。
「兄様は、この間の学期末テストで、オール満点を取られたでしょ?それで、カンニングを疑われたらしく、簡単な再試験を行う事になったのよ。
この学校のレベルが低すぎるだけだと言うのに、お兄様にそのような手間を取らせるなんて……」
憤懣やる方ない口調で、澪が答えると、優羽と伊織は、苦笑いを浮かべた。
今朝からどことなく機嫌が悪かったのは、それが原因だったのだろう。
「全教科すべて再試験と言うわけではなく、一時間程度で終わる内容に凝縮した試験になるそうだから、アヤさん達が登校するころには、兄さんの再試験も終わっているでしょう」
文寧も相変わらずの無表情ではあるが、澪同様に、兄が不正を疑われた事に対して不満を覚えているようだ。
「まぁ、全教科満点って言うのが衝撃的だったんだよ。これで疑いが晴れたら、二度とこう言う事もないと思う」
伊織が、苦笑いを浮かべながらフォローする。
「長文回答や、論文回答なんかは、カンニングのしようがないのに、そんな事もわからななんて、ここの教師達はボンクラにも程があると思うわ」
皮肉屋なところもあるが、普段はここまで毒を吐くことはない澪だが、今だけは違うようだ。
「うーん。まぁ、これで文弥くんがまた満点とったら、先生たちも流石にごめんなさいするんじゃないかな……」
と、今度は、優羽がフォローする。
「なんでも、それをネタに盛夏戦に出ないで済むように交渉すると言っていました。アヤさん的に言って、一緒に出られないのは非常にさみしいのですが……」
先月頭に開催された新入生対抗戦で、好成績を修めた者は、夏に開催される全国の研究都市間で行われる対抗戦である、盛夏戦への出場が決定する。
成果戦は、主に二年三年で構成される本戦、その代表者で行われる選抜戦。そして、新一年生のみで行われる、新人戦。この三つで構成される。
本戦は、各地区各学校から集まった五十名程のメンバーで行う、大規模な運動会のようなものだ。
内容も、綱引きや、玉入れ、棒倒しと言ったような競技が採択されている。
普通の運動会と違うところとしては、《能力》の使用が許可されている点だ。
ここ、狡神市では、入学難易度の高い順の上位五校から、二十名、十名、十名、五名、五名と言った形で選抜される。
そして、剴園高校は狡神市において最も入学難易度が高く、二十名の選手を送り込むことになっている。
選抜戦は、五十名の中から数名の代表者で《能力》の使用を前提とした競技を行うもので、毎年その競技内容は変わるとされている。
しかし、ここ数年は、その競技内容に変更はなく、今年もご多分に漏れず同じ内容になっているという。
そして、新人戦は、選抜戦を新一年生のみで行う内容となっている。
彼らが出場するのは、もちろん新人戦だ。
成果戦の出場メンバーは、新入生対抗戦ベスト十八に入ったチームからの選抜となるが、一位のチームメンバーは全員問答無用で選抜される。
現在はまだ内定の状態で本決定となってはいないが、文弥、伊織、優羽、文寧の四名は新入生対抗戦において、チーム優勝をしたため、このまま行けば揃って本戦出場となるだろう。
身近なところでは、文弥の友人である、一誠や、凛々子、恵美のチームが新入生対抗戦で三位というか好成績を収めたため、揃って成果戦への出場が内定している。
「そうだねぇ、文弥ってば、ずっと成果戦で夏休みを潰されるの嫌がってたよね」
「お忙しい方ですから……長期の休みは貴重なんですよ。……いろんな意味で」
「何だかんだ言いながら、結局は出場する羽目になりそうだけどね……」
伊織のセリフは正鵠を射ているように、彼女達は漠然と感じていた。
◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇
文弥が臨時の補講試験と言う名前の、再試験を受け終えて、試験会場となった生徒指導室を出ると、廊下の様子に流石の文弥も辟易した。
妹二人と、幼馴染と、自称お世話がかりが外で心配そうに待っていたところまでは予想の範囲だったが、そこにクラスメイトで元隣人であるところの、一誠や、隣のクラスの凛々子や恵美、そしてクラス担任まで居たのには、思わずため息が出る勢いだった。
テストの最中も、外からの息がつまりそうな気配にさらされて居たため、見るまでもなく、廊下の様子は知っていた。
「お前ら……それに、奥村先生まで。どうしたんだ?」
友人達は心配して集まってくれたのだろうが、奥村に至っては、再試験を科した側だ。
ここにいる理由がわからなかった。
「私は、この試験には最後まで反対でしたからね。というか、一年の先生は久城君の人となりを知っていますから、反対したのですが、他学年の先生たちの突き上げがひどくて……守りきれなくてごめんなさい」
――道理で。
と文弥は思った。
再試験を監督した教師は皆、文弥の知らない教師だったのだ。
「今回の試験も、私達に監修させてもらえなくて、彼らが作ってしまったので、私達は内容を知らないんですよね。大丈夫でしたか?」
心配そうに、眉を顰める奥村。
教師も一枚岩ではないらしい。文弥はそう思い直すと、誠実そうな顔を作って応えた。
「多少範囲外の問題が出ましたが、幸いと知っている範囲のことばかりでしたので、問題ありませんでした。テストの点数は教えていただけませんでしたが、自己採点では満点を取れたのではないでしょうか」
実際は、99%範囲外の問題だったのだが、この場には教師の目の前だと言うことを忘れて殴り込みに行きそうな奴らが揃っている。
わざわざ、殊更に波を立てることもないだろう。
「「あれ程の好成績を取れるんだ、範囲外の問題でも、解けるはずだ」とか言って、混ぜたんじゃないの?ばからしいよね」
伊織が胡散臭そうにいうと、奥村肩身が狭そうに方をすぼめた。
「あ、いや、先生が悪くないのは知ってますから」
伊織が、慌ててフォローするが、奥村は力なさげに笑うだけだった。
「ちょっと、私の《能力》で潰してこようか?」
凛々子が冗談めかして言うが、その場にいる誰もが冗談と受け取れなかった。
ショートカットに切りそろえられた髪は、活発さを印象づけるが、それ以上に異様に色気のある女子生徒だ。しかし、今はその色気すらも迫力となっている。
彼女の《能力》を考えれば、それも納得できるかもしれないが。
「で?文弥は本当に盛夏戦に出ないのか?」
「ああ、一応そんな風に交渉しているからな。学校への貸しを作っておくのも悪くはないと思うが、この分じゃ取りっぱぐれそうだからな。取れるうちにとっておこうかと思ってよ」
ついでに言えば、非公式とは言え既に円卓の騎士のメンバーで一級戦力として活躍していることを考えると、新一年生だけの新人戦に出ることは大人げないとも言える。
このメンバーの中では、澪だけが、選抜試験を兼ねた新入生対抗戦後に入学したため、盛夏戦への出場の義務がない。
新入生対抗戦で予選を突破した生徒は、期末試験の実技試験は免除されるが、それもなく通常通りの実技試験を受け、圧倒的な成績を修め、さらに筆記試験においても、文弥に次ぐ成績を修めた。(文弥とは、80点以上離れ、三位の文寧とは数点差ではあったが)
新入生対抗戦へ出場していたら、恐らく成果戦への出場枠に入って居ただろう。
文弥と同じく、既に円卓の騎士で仕事をしている澪も、成果戦へ出場することになっていたとしても、本気で戦うわけにはいかないだろうが。
「まぁ、お前がいいならそれで良いんだけど、多少夏休みが潰されたところで、それ以上のメリットがあると思うんだけどなぁ」
言いながら、一誠が、首を傾げる。
彼が言うメリットとは、夏休みの課題の免除と、素行点を除く二学期の成績がオール満点となると言うものだ。
素行が悪いと、その分だけ点数を減らされるため、そのまま学園をサボるわけにはいかない。
「まぁ、罪もない生徒を疑って再試験など、本来は許されるべきではありませんからね。成果戦において重要な戦力を失う程度の罰則があってもしかるべきですし、久城君ができる学園への罰則の中で、これが一番効果的ですね。凱園高校のOBで、教師の私としては、非常に残念なのですが……」
母校で、職場でもある凱園高校への愛校精神だろうか、心底残念そうに奥村がぼやく。
「この事実なり、経緯なりは公表されるのでしょうか?」
「残念ながら、公表はされませんが、人の噂に戸は立てられませんからね。公表などしなくとも、皆の知るところとなるでしょう」
恵美の質問に、肩を竦めながら、奥村が答える。
「兄様を疑って、今回の結果を招いた教師達は、OBからも、現役生徒からも白い目で見られるわけですか……」
いい気味だとばかりに、澪が言い捨てる。
「そうですね。職員室内での今後の発言力は無くなると思います。私と同じくOBで愛校心の強い先生が多いですから」
「まぁ、俺としては誤解が解けて何よりだ。ついでに言えば、二度とこんなこともなさそうだし、茶番に付き合っただけで、割りとメリットが大きかったな」
「アヤさん的に言って、兄さんの力に嫉妬しての嫌がらせだったんじゃないかと疑っているんですが」
「流石に、そんな事はないんじゃないかな……」
悪し様に言う文寧を、優羽がたしなめるが、
「うーん。この学校の先生は、一度軍なり円卓の騎士なりである程度活躍した人が多いから、より強い力に嫉妬すると言うのはあるかもしれませんね。私みたいに、元々戦闘向きの能力では無い先生や、研究者肌の先生などにはそう言う感情は薄いかもしれませんけど」
と、奥村のセリフですべてが台無しになった。
「そろそろ、予鈴が鳴るな。校内に居たのに遅刻なんてしたら目も当てられないからな、さっさと教室へ移動しようぜ。
――奥村先生も心配してくれてありがとうな」
文弥はそう言って、皆の肩をポンポンと叩いて促した。
「いえいえ、他の先生方を諌められなかった私達の責任でもありますから。それでは、、皆さん、後ほど教室で」
奥村はそう言って、生徒指導室の隣にある職員室に戻って行った。
「じゃー私たちも行きましょうか」
伊織のセリフに皆で頷いて、教室へ向かうのだった。




