転校偏 第04章 第04話 仇敵の狂笑
「《可能性ノ自分》か…全く嫌ナ響キのする《能力》だゼ。最強最強最強ッてナ、他者ヲ寄セ付ケず、ただ蹂躙スル《能力》。全クうラやまシスギて反吐が出るゼ!」
叫ぶように、あざけるように、不快な声音で久城研璽はわめく。
文寧は気がついていた。
あの男が、かつて母親を強姦し、殺し、そして自分を殺そうとしたが、剣に文寧の血がつくのを嫌ったが為に、殺さずに去って行った男だと。
怒り。恐怖。悲しみ。復讐相手に会えた喜び。
そのすべての感情が、複雑に絡み合い、彼女をことさらに無表情にさせる。
横からかっさらうように、澪に倒されたときは、敵を勝手に倒されたことに怒りを覚えた。
あの男を倒すのは、自分か、兄以外はあり得ない。
と、文寧は思っている。
そうして、無関係な澪に焼かれ、無関係な優羽に凍り漬けにされていた仇敵は、自らの力でそれから脱出し、こうして目の前に立ちはだかっている。
自身は、蛇に縛られ、未だ動くこともままならないが、それでも兄は立っている。
兄なら、敵を取ってくれる。
文寧はそう考え、うれしさのあまり思わず破顔する。
しかし、その笑顔は、次のセリフによって凍り付くことになった。
「最強最強でもてハやサれテ、こウヤッて女ニ囲マれてヨ。どンナ気分ナんだ?日の当タる場所ッテノはよ?光がアル場所ッテどんナ気分なんだ?
――ソレが壊サレる瞬間って、ドんナ気分ナんダ?
教えてクレヨ、最強ノ出来損なイよォ!」
叫びながら、久城研璽は王を選定する剣の、支配の力を解き放った。
支配者にふさわしい、神々しい光が、あたりを包む。
支配者にはふさわしいが、使用者にはふさわしくは無かったが。
文弥は、《可能性の自分》により無効化される為、支配の力は及ばない。
凛々子は、その能力特性上、文弥以外の支配は受けない。
「お前ニはキカねェケどよぉ、ソれ以外のオ仲間ハ、こレを無効化出来ネぇヨなぁ?悲シいなァ、お前の親父ト同ジク、女ヲ奪ワれて、寂シク生キるンだなぁッ!
こいツラは、見タ目ダけハイいかラヨォ、オ散々犯してカら、ブっ殺シテやルさ。
お前ラの母親ノヨうにナァ。けハハはははハキクこケハ――」
王を選定する剣の放つ光の中、久城研璽の狂笑だけが響く。
一誠がいくら未来を見ていたとしても、動くことが出来なければ、この王を選定する剣の支配の力を避けることは出来ない。未来を見る力が無い、少女達は何を況やだ。
澪が慌てて蛇を解除するが、もはや間に合わない。
神々しい光の魔手が、文弥の幼なじみ、二人の妹、クラスメート、そして、隣のクラスの新しい友人を包み込んだ。
「――やはり、思った通りのくそ野郎だったよ、お前は。救えねぇ。救う気もねぇ。クラウ・ソラス!」
同じく、文弥もクラウ・ソラスを抜刀する。
透明化は行わず、代わりに、王を選定する剣以上の神々しさを持つ光を放った。
「――金鵄教導最強をなめるな!」
文弥が告げると、王を選定する剣の光も、クラウ・ソラスの光も、収束し、ただ静寂のみがそこに現れた―――




