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学術研究都市の能力保持者達  作者: 和泉 和
転校偏 ~闇夜のカリバーン~ 第一章
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転校偏 第01章 第04話 Cafe Roaldへようこそ!

 校門を出て、坂道を下った()ぐ外にその店はあった。


 Cafe Roald(カフェ ロアール)と書かれた看板がかかっている、西洋風の白い二階建ての店だ。


 中庭は(ひさし)(おお)われたテラス席になっている。


 ビルが整然と並ぶ狡神(こうがみ)市にあって、珍しく戸建て(こだて)風の建物だ。ビルは多いが高層ビルが殆ど無いためか、採光に問題はなく、五月の陽気も手伝って明るくモダンな雰囲気となっている。


 店内も、日光を多く取り入れるような作りになっており、照明を落としているのにもかかわらず、外と変わらず非常に明るい。


 テラス席ではなく店内の席に通された二人は、二人でメニューを(のぞ)きこんでいた。


「すごいな。カフェなのに、カレーにミックスフライ、とんかつに、マグロ丼まであるなんてよ。コレが都会か……」


 メニューはファミレスのような節操のなさだ。


 その割には周りを見ると、パスタや、ホットサンド、デザート以外は見かけない。おそらくは女性客が多いせいだろう。


「ふふ。マグロ丼を頼んでる子は見たことないけどね。んー私は、本日のパスタセットにしようかな。文弥くんは決まった?」


「ああ、決まった。無難に『ミックスフライ定食~陸海空メガミックス盛り~』にしておく。この、『牛たんとろろ定食~麦飯って美味しいよね~』も捨てがたかったけど」


 メニューにサブタイトルをつけるルールでもあるのかと疑問に思ったが、「コレが都会か」と納得しておくことにする。


 無事注文が終わり、しばらく他愛もない話をしていると、注文した料理が届いた。これまた、他愛のない会話をしながら、お互い食事を平らげていく。


 陸がコロッケとメンチカツ。海がアジフライとエビフライなのは納得できるが、空がチキンカツなのは若干納得がいかない想いではあるが、それも話題の一つとして消化されていく。


 基本的には、優羽が剴園高校と狡神市での生活についてあれこれ話し、文弥がそれに質問をしたり、相槌を打つ形だ。


「基本的な買い物なんかは、この剴園学園前通りで大抵のものが揃うし、食べ物系のお店もたくさんあるから、普段はあまり電車に乗ってどこかに行くってことはないかな?」


 とか、


「ここで揃わないようなものなんかは、電車で三つほど入ったところに大きなショッピングモールとか、デパートとか、洋服専門の百貨店とかがあってそこに行く感じかなー」


 とか、


「女の子なんかは、みんなワザワザそこに行って買い物してるよ」


 とか、


「中学の時は相部屋でルームメイトが居たんだけど、高校になると一人部屋になるから、ちょっとさみしいかも」


 とか、


「中学の時のルームメイトがおしゃれさんで、よくアドバイスを頼まれて、デパートに行ってるみたい。私も付き合って行くんだけど、結局私もアレコレアドバイスしてもらってて役に立ってないっていうか……」


 とか。


 そうして、量も多ければ食べるのも早い文弥の食事がほとんど終わり、優羽の食事も半分ほど終わった頃。


 文弥はふと真面目な顔をつくると、


「優羽はいいヤツだな。四国や、小豆島の話題避けてるだろ?」


 そう切り出した。


「えへへ。バレたか。気になるといえば気になるんだけど、大きな事件だったし、文弥くんにあれこれ聞いたら、悪いかなって……」


「気にし過ぎだ。確かにみんな死んだかもしれないけど、運良く助かった俺がくよくよしてたら色々申し訳ないだろ?あれからしばらく経ったし、もう大分吹っ切ったよ。ありがとうな」


 本当は、身近な連中はどうせ生きているだろうと踏んでいるからだが、それを言うと「かわいそうな奴」だと思われるだろう。


(――特に、あいつは殺しても死なないからな)


 と、そんなことを考えていたせいだろうか。優羽が一瞬浮かべた複雑な表情に文弥が気づくことはなかった。


「強いんだね。文弥くんは」


「んなことはねぇよ。だからほら。気にするな。死国(しこく)焦土島(しょうどしま)から来た転校生だぜ?委員長的に言って、聞きたいこと山盛りだろう?」


「ふふ。そりゃあ、聞きたいこといっぱいあるけどね。いろんな噂があるから。そうだなーやっぱり《能力(スキル)》は絶対秘密って感じなの?」


 おかしそうに笑いながら、訊ねる。


 金鵄教導(きんしきょうどう)出身の文弥だけでなく《能力(スキル)》を秘匿(ひとく)したがる人はいるし、秘匿したがっている他人の《能力(スキル)》を根掘り葉掘り聞くのはマナー違反とされている。


 それでも、校内大会や実習などで他人の目に触れて、ある程度はバレてしまうのが常であるし、大会のために他人の《能力(スキル)》について間接的に(時には直接的に)調査するのは暗に認められている。


「いや、秘密ってわけでもないけどな。もう、金鵄教導もなくなって秘密を守る義務はなくなってるし。ただまぁ、十年弱の刷り込みの結果で自分からあれこれ《能力(スキル)》の話を話すのには抵抗がある。それに、チョットわかりにくい能力だしな。一応常時発動可能で発動するデメリットもないから、今も発動してるけどよ。ぱっと見どんな能力かはわからんだろ?」


「うん。私は知覚系統じゃないから、全然だめ。奥村先生みたいに、オーラの色を見る《能力(スキル)》とかなら、発動してるかどうか位はわかるんだろうけど。


 ――じゃあ、代わりにと言ったらなんだけど、私の能力(ちから)を見せとこうかな」


 言うと同時に、氷が溶けてぬるくなり始めていた文弥のコップの水が、適温まで冷やされた。さらに、その中は透明な氷で満たされていた。


(《補助器(デバイス)》なしでこれか。さすがは、剴園(がいえん)高校の委員長ってところだな)


 レベルの低い《能力保持者(スキルオーナー)》は《補助器(デバイス)》とよばれる、《能力(スキル)》の発動を補助する補助器具を使用しなければその能力(ちから)を行使出来ない。


 補助無しで能力の行使ができるようになったとしても、複雑な処理や、強力な処理を行うときは《補助器(デバイス)》を使用する。どこまでその補助なしで能力を行使できるのかは本人次第。


 生まれ持ってきた力と努力によって、その幅は広がっていく。


 その《補助器(デバイス)》なしで、常時能力発動をしている自分を思い切り棚に上げてそんなことを思いながらも、口にしたのは別なことだった。


「水の操作。いや、水の概念操作か。温度操作に、水流操作と、水中の気体操作で透明な氷を作る……か。水流操作しかできない能力者や、温度操作しか出来ない能力者もいるのに。大したもんだ。それに芸も細かい」


 掛け値なしに賞賛(しょうさん)を送ると、優羽は少し照れたように、


「《能力名(スキルネーム)》レヴィアタン。能力は水の概念操作。なんだけど……すごいね、よくこれだけでわかったね」


「ああ。似たような《能力(スキル)》を見たことがあるからな。それも、強力な概念操作だった」


 七系統ある能力区分のひとつ、操作系統。


 操作系等は、特定の現象を自由に操る《能力(スキル)》の総称だ。操作できるのは、自然現象だけではない。未だ科学的に解明されていないはずの次元の壁を操作し、別次元上に物を無制限に保存したり、物体の高次元上における座標を変更し瞬間移動(テレポート)を行ったり。人や動物の精神を乗っ取ったり、支配して操ったり。そういった《能力(スキル)》も、分類上は操作系統とされる。


 直接的な戦闘力・攻撃力で言えば、他の系統――例えば強化系統――に劣る部分もあるが、単純な暴力の強さだけが《能力(スキル)》の強弱というわけではない。


 その中でも最強とされているのが、この概念操作である。現実にあるものをただ操るのではなく、その概念そのものを操作する能力。


 水の概念操作ということは、通常の操作系統では不可能な『水を生み出すこと』も可能だろう。


 概念操作能力持ちが、のんびりクラス委員をやっている。


(なるほど。これが、剴園学園か)


 転入以降どんな《能力保持者(スキルオーナー)》に出会えるのか。そんな事を考えると、ワクワクしてくるのだった。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 その後も、他愛もない会話を続けメインの食事が終わり食器が下げられたあと、デザートメニューを受け取り、会話は食後のドリンクとデザートへと移っていた。


 遠慮をする優羽を「一人で食うのもあれだから、大人しくご馳走されておけ」と説得し、デザートとドリンクの検討をしていた二人に、からかうような口調の女の声が聞こえた。


「あれ?優羽じゃん。どうしたのこんなところで?もしかして、デート?」


 文弥の後ろから声をかけられたため、振り向いていない文弥からは顔は見えないが、優羽からは顔が見えたのだろう。顔を赤くしながら、慌てて答える。


「ちっ、ちがうって、先生に頼まれて転校生の案内をしてて、おなかすいたけどしょくどうがあいてなかったからそれで……」


 意外と免疫がないのだろう。さっきまでのどこか落ち着いた雰囲気が消し飛び、おもしろいように取り乱しながらまくし立てるように話す優羽をなだめながら、からかった本人は文弥の顔が見える位置まで移動する。


「どーどーどー。落ち着いてー。わかった。分かったから。途中からひらがなになってるし。中学の時からいろんな男子に声かけられてたのに、一切浮いた噂がない優羽だもん。ちょっとからかっただけ……って、文弥⁉なんであんたがここに居るのよ?」


 文弥の顔を見た途端、吃驚(びっくり)して声を荒げる。


「とにかく伊織ちゃん。そうやってからかうのは私はともかく、文弥くんにも失礼だよ。文弥くん、彼女は幼稚舎からの友達で、中学時代は私とルームメイトの、片瀬(かたせ) 伊織(いおり)ちゃん。今もクラスメートなんだけど……知り合い?」


 友人の伊織が取り乱したため、逆に少し落ち着いた様子の優羽が文弥に伊織を紹介する。


「ああ。幼なじみだ。幼なじみなんだが。俺が知ってる片瀬 伊織は、男だった気がするんだが……


 ――うん。どう見ても女だな」


「あのね。私は昔から女だっての。そりゃ、あんたと居たときは髪の毛も短かったし、男の子に混じって遊んでたからね。そう思われても仕方ない…か。


 って、んなわけあるか!失礼にも程があるでしょうに!あの頃から、ちょっとおかしいなって思ってたのよね。まさか本当に男だと思っていたなんて!」


 ムキーっと額に怒りの四つ角をを浮かべて叫ぶ。


「そもそも、伊織なんて男の名前なのが悪いんだろうが……宮本武蔵に謝れ。まぁうん。先入観って怖いよな。済まなかった」


 そう言って軽く頭を下げると、改めて上から下まで観察する。


 最後に会ったのは小学校低学年の頃だった。この街からいなくなる直前まではよく遊んでいた。


 その全てが、男の子の遊びだったが。


 男だと思っていた程に、ボーイッシュだったあの頃の面影を残してはいるが、髪はあの頃より随分伸び、女性らしくなっている。


 うっすらと化粧をしているのだろう。(ほお)はうっすらとピンク色をし、唇はほんのり濡れているようにみえる。


 そして、首から下は、髪の長さよりもなによりも、より一層女性らしくなった部分があった。


 優羽も()()()()()()が、伊織のそれは群を抜いていた。


「なっ、なによ……?」


 黙りこくってしまった、文弥を警戒するように胸を抑えて身構える。


「ふむ。綺麗になったな。伊織。そこに一番驚いた」


 真面目な顔に、真面目な口調。伝えられた言葉に、伊織は一瞬で沸騰し、優羽はなぜか(あくまで文弥主観ではあるが)機嫌を損ねる。


「ばっ、バカなこと言わないでよ!そう言って誤魔化そうってしても、そうはいかないから!」


久城文弥(くじょうふみや)さん。女の子のまえで、他の女の子を褒めるのはマナー違反ですよ?」


 先ほどの優羽よりも真っ赤になってまくし立てる伊織。


 口調は丁寧だが、目は笑っていない優羽。


(ってあれ?なんで私怒ってるんだろ?)


 文弥は、店員が気を利かせて隣のテーブルを寄せ四名席にしてくれたのを見計らって、立ち上がると、優羽の隣の席の椅子(いす)を引いて伊織を座らせ、二人の前にデザートメニューを広げた。


 優羽の心の声に文弥が気づくこともなく、声に出された二人の抗議は聞こえなかった事にした。


 下手にツッコミを入れると、長引きそうだと判断した為だったが、それをおくびにも出さず、自分は手早くホットコーヒーを注文すると、


「まぁ、優羽にはもともと約束してたけどよ、二人ともここは俺が出すから、デザートでも食ってふたりとも機嫌をなおせ」


 そう言って、自分の席に戻り腰掛けた。二人ともなにか言いたそうな顔をしていたが、それでも結局はデザートメニューに釘付けになった。


 なんとかごまかされてくれたようだと思いながら、文弥は昔のことを思い出していた。


 ――遠い昔に置いてきて、今ではたったひとりしか居ない肉親のことを。


「で?なんであんたは、久城なんて名乗ってるのよ?」


 思考に意識を完全にとられていたせいか、彼女たちが何を注文したのか聞いていなかったが、自分に向けられた質問で思考を現実に戻す。


「まぁ、色々あってな。三雲(みくも)の名前は捨てたんだ。戸籍上も、三雲文弥って人間は存在しないことになってる。俺は、はじめから久城文弥だ。だから偽名ってわけじゃない」


「あんたが、それでいいて言うならそれでいいけど。アヤはどうするのさ」


 伊織につきつけられた名前に、文弥は一瞬眉をひそめかぶりを振った。思考を読まれている気分だったが、それをおくびに出すことはない。


 代わりに告げたのは、冷たい言葉だった。


「こっちに戻ってきたことは、言うつもりはないし、会うつもりもない」


「それは無理なんじゃないかなー」


 優羽が小声でなにやら突っ込むが、文弥は十分聞こえていたようで、


「どういうことだ?」


「んーごめん。話が見えてないのに、割って入っちゃって。間違ってたら悪いから、聞かなかったことにして?もし間違ってなかったのなら、直ぐにわかると思うし。


 あ、デザート来たよ!(くらー)い話やめて、食べよ?」


 そう言って、店員が運んできたティラミスに目を輝かせる。


 文弥は「まぁいいか」と口に中だけで呟いて、同時に運んできたコーヒーをそのまま口に運んだ。


 女の子のデザートタイムを邪魔してはいけないと、かつて口を酸っぱくして言われていたためだが、それは功を奏したようで先ほどまでの微妙な雰囲気も、その前の彼女たちの怒りもすべて鳴りを潜め、消え去ってしまったようだ。


 そして、喫茶店の本領たるコーヒーのすばらしい出来栄えに、文弥は美味しいコーヒーが飲みたくなったらここに通おうと心に決めた。


 


 


 


 



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