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学術研究都市の能力保持者達  作者: 和泉 和
転校偏 ~闇夜のカリバーン~ 第三章
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転校偏 第03章 第10話 予選終了

 伊織(いおり)にに助けられた文寧(あやね)は、その礼を告げる前に言葉を失った。

 

 兄である文弥(ふみや)が、超高熱の炎に包まれたからだ。

 

 叫び声を上げること無く、その炎を見つめる。

 

 地面は、その高熱を視覚的に伝えるがごとくマグマへと化し、炎は赤というよりむしろ白い。

 

 

 

 結果から言えば、取り越し苦労だった。平然と炎の中から、余裕のある声が聞こえ、その後、ヒントまで寄越したかと思うと、やる気を失ったように座り込んでしまった。

 

 一体、何があればあれほど強くなれるというのか。

 

 文寧には、文弥がどうやってあの炎を防いだのかは分からない。

 

 伊織のように、空気分子の加速を抑えるならば、そもそも炎は起こらない。

 

 生半可な強化能力者であったならば、着ている戦闘服までは守れないし、分子間結合を強化したところで、熱による変質は防げない。そして何よりも強化能力では、操作系統《能力(スキル)》の炎は消せない。

 

 しかし、どうやって防いだかはどうでも良かった。彼女の兄は強い。それを認識できたから、彼の無事を認識できたから、彼女は安堵した。今の兄を殺すことなど出来はしないのだと。

 

 そして、次に激高した。

 

 とにかく、兄の無事を改めて認識すると、文寧は卑劣な手によって兄に牙を向けた目の前の敵に激しい怒りを覚えた。

 

 たとえ、操られていての事だったとしても―――

 

 ――そんなことは、相手の事情なのだ。

 

 

 

 ようやく再開できた、最愛の兄に牙を向けたことは、いかなる理由を以てしても、万死に値する。

 

 

 

砂鉄の超電磁砲(パウダーレールガン)!」

 

 磁力で集めた砂鉄を、ローレンツ力によって飛ばす文寧の大技。それを、なんの前触れもなく放つ。

 

 予選一回戦で敵チームを瞬殺した、あのときの威力よりも数段高い威力だ。

 

 あのときは、怪我はさせても大怪我はさせないように。万が一にも殺すことはないように。

 

 しかし、今は殺しても構わないと思って放っている。

 

 広範囲に、灼熱と電撃の混ざった砂鉄が、秒速約1300mで撒き散らされる。

 

 が、《青》が放った水圧の盾によって防がれ、《青》にその砂鉄が届くことはなかった。

 

「うざってぇですねっ!」

 

 叫びながら、超高圧の電撃の槌を《青》にぶつける。

 

 だが、それすらも防がれる。

 

 水流で防いだとしても、水が電気を伝えるはずなのだが……

 

 しかし、防がれたことにより、かえって頭が冷える。とはいえ、頭が冷えることと、怒りが冷めることは別問題だが。

 

「理論純水は不導体。水を生成する力は私にはないが、純水から、理論純水を生成する程度のことは私にも出来る」

 

(操られていても話せるんですね。アヤさん的に言って、意識とか無いものだと思っていましたが。と言うか、水使いって言うのは、純水で電気を防ぐってことしか思いつかないんですかね)

 

 防がれたと言っても、完全に防がれたわけではない。

 

 超高圧の電撃が持つのは電流だけではない。それが伝わることによって、空気が超高熱を帯び、純水の盾を蒸発させる。

 

「電撃の熱だけで、私の純水の盾を減らすとは……しかし、減ったら足せばいい」

 

 《青》はそう言うと、ペットボトルから水を取り出し、彼女の純水の盾にその水をばらまいた。

 

 おそらくは、そのばらまく過程で、純水から完全純水へ変えているのだろう。

 

 しかしそれは逆に、文寧に攻略手段を与えてしまった。

 

「じゃあ、今から同じように攻撃しますので頑張って防いでくださいね。アヤさん的に言って、もう詰んでると思うのですが」

 

 言いながら文寧が放ったのは電撃と《砂鉄の超電磁砲(パウダーレールガン)》の波状攻撃だ。

 

 電撃は理論純水に弾かれ、《砂鉄の超電磁砲(パウダーレールガン)》は理論純水の水流に防がれる。

 

 だが―――

 

「あらあら、砂鉄が混じってしまいましたね。ところで、自分で理論純水を一から生み出すことは出来ないんですよね?アヤさん的に言って、その砂鉄はアヤさんの制御下にありますから、貴方程度の制御能力で除去はできませんよ」

 

 文寧は余裕たっぷりに告げる。

 

 最初に展開した純水の盾こそ、あらかじめ仕込まれていた大量の純水から作成した物だったが、仕込みのない《青》にできるのは目減りした理論純水を継ぎ足すことだけだ。

 

 しかし、《青》も余裕を失っては居なかった。

 

「砂鉄を水に混ぜただけでは不純物は溶けない、混ざらない。不動態の性質に変化はない」

 

 そう余裕を含んだ声音で述べると、砂鉄混じりの水を水の刃へと変えていく。

 

「ふう、なんでアヤさんがが《砂鉄の超電磁砲(パウダーレールガン)》を使うときに、砂鉄を()()()()()()か考えなかったんですか?」

 

 言われて、今度こそ《青》は表情をこわばらせた。

 

「お前……っ、まさか、塩を混ぜたのか……?」

 

「自分の弱点に対する対策くらいは、誰でもうちますよ。大体、自分で水を生み出せない水使いなんて、アヤさん的に言って、パケモンのタイキングみたいなものです。さあ、存分にはねてください!」

 

 言い終わると同時に、《青》を爆発が包み込んだ。

 

「丁度砂鉄が入りましたからね、電気分解で水素を作らせていただきました。やっぱり、悪党の最期は、爆発だとアヤさんは思いました」

 

 文寧は爆風に目を細め、なびく髪を雑に整えながらつぶやく。

 

 どうやら怒りは完全に収まったらしい。

 

 客観的にみれ悪党ではなく、ただ操られているだけの被害者なのだが、文寧にとってはただの悪党なのだろう。

 

 文寧は伊織と違い、水素自体を操作することはできない。水素が肺に取り込まれていれば、小規模ではあれど体内からも爆発する。すぐに治療が必要なレベルで、肺にダメージを負っているはずだ。

 

 それでも、警戒を解かないまま見据える。コレ以上抵抗するなら、殺すことも視野に入れようと覚悟を決める。

 

 だが、その未来はやって来なかった。

 

 《青》は転送の光に包まれ、そのまま戦場から離脱していった。

 

 優羽の方も戦闘は終了しているらしい。

 

 通常なら、コレで試合終了でこちらも転送されるはずだ。

 

 暫く待つと、チーム久城の勝利アナウンスが流れ、文寧達を転送の光が包むと、戦いのフィールドから、元の学校へと転送された。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 戦闘を終了し、剴園(がいえん)高校へ転送された文弥(ふみや)達を待っていたのは、奥村教諭だった。

 

「久城くん達!大丈夫でしたか?

 

 本来の対戦相手の選手が、監禁されていたのを、先ほど武田先生が見付けまして、さっきの戦いに何者かの横槍があったことが判明したんです。ステージも本来予定していた場所とは違う場所になっていましたし……

 

 あれ、小豆島ですよね?現実の。あそこで、大けがしたら大変なことになっていました……恐らく、フィールドによる保護は効いていなかったでしょうし」

 

 どうやら、不手際があった事は教師陣も知るところとなったらしい。

 

「横槍があったとして、さっきの試合はどうなるんでしょう……?」

 

 優羽が訊ねる。もっともな疑問だろう。この状況で、再戦もしくは、別なチームともう一戦となると、次はどんな横槍が入るか分からない。

 

「残念ながら、無効試合となります。しかしながら、勝利したのは事実ですので、3ポイント付与はされます。本来の対戦相手に黒星が付かないだけです。よって、チーム久城はこのまま本戦出場となり、これ以降の試合はありません」

 

 なるほど。大会本部が考えたにしてはベストな結果だ。別に、チーム久城はぎりぎりの試合をしているわけではない。むしろ、早々にマッチングから外れてくれた方がうれしいチームが多いだろう。

 

 そして、運悪く久城 研璽(けんじ)の犠牲となってしまったチームに関しても、本来ならば敗退濃厚だったチーム久城との試合が無効となったおかげで、チャンスが増えたわけだ。

 

 作戦に失敗した久城研璽以外は、誰も損をしていない結果だ。

 

 文弥としても、その大会本部の決定には別段の文句はなかった。

 

 他のチームメートを見ると、文弥の様子をうかがっており、どうやら文弥の一言でいかようにも変わる雰囲気だ。

 

「そうですね。予選通過できたのなら、こちらとしては先ほどの試合に関しては、どうとでもしていただいて結構です」

 

「他の皆さんも、それでいいですか?」

 

 文弥の回答をうけて、奥村が改めて訊ねるが、他のメンバーも異議はないようだった。

 

「それでは、別段意義も内容ですので、チーム久城の皆さんは、このまま寮へ帰ってお休みしていただいて結構です。そして、明日、明後日は一年生の皆さんは休校となります。これは、36時間ぶっ続けで戦闘を行ってもらった為の、調整です。ゆっくり休んで、本戦に備えて下さいね。他に何か質問ありますか?」

 

「はいはーい」

 

 伊織が元気よく手を上げる。

 

「はい、片瀬さん」

 

 教室でそうするように、奥村が伊織をさした。

 

「どうせ後で、休みにするなら、どうして予選を四日間開催にしないんですか?」

 

「ああ、そのことですか。それはですね、本戦前に一日以上の休息を入れたかったのですが、そうすると土日を挟む試合運用になってしまうので、日程の都合上厳しいんですよね。平日の夜中一日だけで、準備を完了させないといけませんし、前倒しにすると、余計に準備が間に合いません。かといって、後ろにずらすと、今度は盛夏戦の日程に支障が出ます。というような事情ですね」

 

「あと、それと、極限状態での戦闘訓練を兼ねているんだろうな」

 

 と文弥が付け足すと、奥村は額に汗を浮かべた。

 

「そうですね。そういうのもありますね。今回は例のフィールドがありますので、そこまで極限といった感じはないんですが、例年はまさにそんな感じですね」

 

 奥村はそうごまかすように言うと、「それではー」と言って去って行った。

 

 文弥にとっては、目的を隠して訓練させての意味が無いだろうに……という気持ちだったが、余計なところをつついてしまったらしい。

 

「それじゃあ、帰りましょうか。アヤさんは疲れてしまいました」

 

 そう言って、文寧はあくびをかみ殺した。確かに彼女たちにとっては、密度の濃い戦いだった。

 

 それを聞いて、彼女たちが寝静まったあとに久城研璽の元へ乗り込んで、さっさと倒してしまいたい衝動に駆られるが、連れて行くにしても、置いて行くにしても保険は必要だろう。

 

「いや、ちょっと待ってくれ。久城研璽の件について、おまえ達に話がある。こうやって仕掛けてきたんだ、おまえ達も標的になると考えて間違いない。というか、文寧は初めから標的みたいだけどな」

 

「じゃあ、凛々子(りりこ)ちゃん達にも声かける?」

 

 先日の食事会ですっかり仲良くなったらしい、優羽が提案をする。

 

「いや、凛々子は大丈夫だろう。久城研璽の人を支配する力は、凛々子には効かない。あいつの《能力(スキル)》はそういう物だからな。一誠も……あいつの能力は、未来視だったな。襲われるならその未来が見えるだろう。それに、あいつは連休になると外出許可取って、実家に帰っているらしくてな。姉がとんでもなく強いといっていたし、問題ないだろう。となると……問題は恵美くらいか」

 

 恵美は、久城研璽に面も割れているし、人を支配する力への耐性もない。

 

 そう考えると、チーム久城の面々を除けば、一番被害似合いそうなのは恵美だ。

 

 文弥としては、あまり庇護対象になる人間を増やしたくはないのだが、

 

(こいつらに係らわせちまった時点で、仕方ないか……それに、いろんな意味で世話になったしな)

 

 と胸中でつぶやくと、

 

「わかった、一誠と凛々子それに恵美に声をかけよう。色々あったが、こいつらに何かあったら、俺も寝覚めが悪いからな。色々調べてもらったしよ」

 

 そう言って、頭を()く。そのとき、文弥の携帯端末が電子メールの着信を告げた。

 

 

 

 

 

 送信者は―――

 

 久城厳一郎。

 

 久城文弥の戸籍上の父親であり、現在の保護者。

 

 そして、久城研璽の兄であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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