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学術研究都市の能力保持者達  作者: 和泉 和
転校偏 ~闇夜のカリバーン~ 第三章
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転校偏 第03章 第09話 予選最終戦開始

 転送されたのは、滅びた町だ。

 

 滅びた街と言っても、五回戦のあの街とはずいぶんと趣が違う。

 

 五回戦で外に見えていた街は、破壊の後はなく、ただただ風化に身を任せるような、荒廃した滅びの街だったが、今回の街は、何か大きな災害にでも、巻き込まれたばかりと言ったようで、破壊の爪痕が消えないまま色濃く残っている。

 

 それほど高いビルは存在しない。なぜなら、ある程度高いビルなどは、途中でたち折れているからだ。

 

 元は、街と自然が共存していたのだろうが、今は、元、自然。元、街だ。すべての木が炭と化し、又は腐食し、又は、根本から抜け落ちている。

 

 地面はガラガラに砕け、割れているが、草などの一切の植物は生えていない。

 

 その景色を見て、文弥は表情を険しくした。

 

「ここは……小豆島か。大会委員もなかなか、いいセンスしてやがる……俺をここに送るとはよ?

 

 ――と言いたいところだが、空間がねじ曲げられてるみたいだ。どうやら、ここはフィールドじゃなく、実際の小豆島らしいな。

 

 おい、お前ら。ここで怪我したり死んだりしたら、どうなるかわからねぇ。気をつけろ」

 

 そう言って、文弥は前に出る。

 

「兄さん?何をしてるんです?予選は、アヤさんたちに任せるのではなかったのですか?」

 

「いやいや、見れば分かんだろ。あんな、学校指定の戦闘服も着てないような奴らが予選に居るかよ。仕掛けてきたんだよ。分かれよ」

 

「まぁ、どっちにしても文弥の出る幕はないわね」

 

「そうだね。まだ、仕掛けられたって完全に決まったわけじゃないし。敵だったら倒しちゃっていいし、敵じゃなかったとしても、それなら試合だから倒しちゃっても問題ないよね。うん」

 

 そう言って、伊織と、優羽も前に出る。

 

 文弥はため息をついて、

 

「どちらにせよ、空間がねじ曲げられてて、何が起こるか分からんっていうのは事実だからな。大怪我だけはするなよ?」

 

 そう言って渋々といった様子で、引き下がった。

 

 いざとなったら、まとめて守ればいい。

 

 彼にとってはそれだけのこと。その程度のことだ。

 

 それに……

 

「大丈夫です兄さん。アヤさん達は、兄さんが思っているよりも十分強いですから」

 

 ということだった。

 

 

 

 

 

 敵はどうやら二人のようだ。

 

 ペアの、都市迷彩服。ただし、覆面がド派手で、迷彩服の意味を成していない。

 

 片方が、真っ赤な覆面。もう片方が、真っ青な覆面だ。

 

 チーム久城の、本来の対戦相手がどうなっているのか、(はなは)だ気になるが、今は目の前の敵をなんとかするのは先決だ。

 

 そうでなければ、剴園高校へ戻って報告もできなさそうだ。

 

 《青》が、地面を滑るように文寧に向かってまっすぐ突進をする。坂道でもないのに、スキーのように移動して、文寧に水の刃を放つ。高圧で放たれた水は、鋼鉄すらも切断する。

 

 だがそれは、伊織の生み出した空気の壁によって遮られた。

 

「―楯縫っ!」

 

 空気の分子結合を完全に固定し、強固な盾とする。伊織の十八番(おはこ)だ。

 

 強化系では一切行うことのできない完全固定。それによって、いかなる者も、その空気の壁を越えることはできない。

 

 しかし、敵も()る者だった。

 

 全員の意識が文寧達の方へ向いた瞬間、文弥の体が炎に包まれた。

 

 炎からは、数十メートル離れた位置にいる彼女たちにまで、恐ろしいほどの熱気が伝わる。

 

 文弥の周りの地面が一瞬で溶岩へと変化すのが見える。マグマの中へダイブしているようなものだ、あれを生身の人間が受けたのであれば、骨も残らないだろう。

 

「文弥くん⁉」

 

 優羽が叫び声を上げる。文寧と、伊織は声も出ない。

 

「ああ、大丈夫だ。お前ら、油断したな。まぁ、いきなりあのレベルが来るとは思わんか。今までがイージーモード過ぎた」

 

 炎の中からなんの気負いも無い文弥の声が聞える。強化で防いでも熱は防げない。体表面を何かで覆ったとしても、熱風で体内から焼かれる。

 

 そういうレベルの炎だ。そんな炎の中、平然と突っ立っている文弥の姿は、頼もしくもあったが少し異形でもあった。

 

 それでも優羽達はほっと息をついた。

 

 無事で良かった。三人共が、そう思った。

 

 そうこうしている内に、文弥が手をふると、彼を包んでいた炎が掻き消えた。先ほどまではマグマ化していた地面すらも、既に熱を失っている。

 

 優羽達には、文弥がどうやってあの超高熱の炎から身を守ったのか、皆目見当もつかなかったが、それ以上にゆゆしき自体が発生していた。

 

 今の攻撃で、文弥の目が据わっている。

 

「で、俺も混じっていいんかよ?」

 

 文弥が凄惨な笑顔を浮かべると、操られてるはずの覆面二人組みが動揺を見せ数歩下がる。

 

 だが、

 

「油断したのは確かでこっちが悪いんだけど、おとなしくしてて。で、ちょっと余裕ないかもだから、身を守るくらいはしてて。さっきみたいに」

 

 それを、伊織が止める。

 

「しょうがねぇな。んじゃー口くらい出させてもらうぜ、その赤いやつは、分子運動を加速させるタイプのパイロキネシスだな。操作系統だろう。青い方は、水流の操作がメインの、水の操作だな。まぁ頑張れ」

 

 そう言って、文弥はやる気を失ったように座り込んだ。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 文弥が座り込んだのを見ると、優羽は伊織に指示を出した。

 

 もう油断は禁物だ。相手は、今までの予選で相手をしてきたような生ぬるい相手ではない。

 

 むしろ、こちらが一切の怪我を負わず、向こうにも大けがをさせないように手加減をするとなると、三対二でやった方がいいだろう。

 

「じゃあ赤い方は、私がやるね。火は水で消えるもの。伊織ちゃんは、そこで戦況を見て必要があったら、防御して」

 

 これで、防御を伊織に任せて戦闘に集中できる。

 

 きっと、文寧にも今の会話は聞こえていただろう。

 

 ――もちろん、敵にも。

 

 そうして、既に交戦に入っている文寧の方をチラッと見ると、優羽は先ほどのお返しとばかりに水の刃を放つ。

 

 だが、その刃は相手に届く前に蒸気と化して消えた。

 

「炎でも水を消せるんだよ」

 

 マスクで表情は見えないが、得意げな声だ。

 

「何だ、話せるんじゃないっ。っていうか、あれ操られてるだけの、生徒なんだよね……?殺すわけにはいかないし……どうしよう」

 

 呟きながら、《補助器(デバイス)》を武器化し、矢を放つ。

 

 三本中二本は、粉々に砕け残りの一本は矢の形を保ったまま赤に襲いかかる。

 

 広範囲に散った細かい氷の粒子は、《赤》の持つ炎の威力を以てすれば一瞬で焼き切られるだろうが、そこまで炎を広げたのなら、氷の矢本体は防げないはずだ。

 

 だが、優羽のあては外された。

 

 《赤》が持つ炎の鞭によって。

 

 そのしなる鞭に、小さな氷の刃も、本命の氷の矢も、そのすべてを叩き落とされた。

 

「あれが専用器?」

 

 入学前に退学した生徒二人は、専用器持ちだと聞いている。専用器を出してきたとなると、厄介なことになりそうだ。

 

 速攻でけりをつける必要がある。

 

(でも、文弥くんのやつを見た後だからかな……汎用器と対して変わらないような……)

 

 専用器には、汎用器とは違う《能力(スキル)》のような力が備わっているが、目に見えては何も起きていない。

 

「いや、たぶんアレは汎用器だな」

 

 と後方から文弥の、のんびりした声が聞こえてくる。

 

(汎用器なら、そこまで警戒する必要は無いよね。とりあえずは、やけどとかしたくないから、鞭には当たらないようにしないと)

 

 恐らくあの炎の鞭に触れたなら、やけどでは済まないはずだが、優羽はそう気楽に考えることにした。

 

 どのみち、あの程度の鞭さばきでは、優羽に鞭を当てることはできない。

 

 鞭の真骨頂とは、その速度と、手首の切り返しによる変幻自在さだ。

 

 一流の使い手であれば、その軌道を読み切るのは非常に難しいし、絶えず振り回される鞭は、結界も同然だ。例え読めたとしても、軌道上へ入ることすら不可能だ。

 

 しかし、相手は鞭という武器に対しての練度が著しく低い。

 

 まるで、元々は別の武器を使用していたかのように。

 

 恐らく文弥の言うことは、正鵠(せいこく)を射ているのだろう。

 

 右から左から迫り来る鞭を危なげなく躱しながら考える。鞭の先はついに音速を超えて、パンと弾ける音が聞こえる。しかし、手元までは音速を超えるわけではない。

 

 ここ最近の演習授業では、手元すら追うことの出来ず、姿を捉えることすら難しい、文弥の相手をずっとやっていたのだ、この程度の相手なら、考え事をしながらでも十分躱せる。

 

 こちらは、鞭以上の遠距離攻撃武器なので、そもそもにおいて、間合いに切り込む必要も無い。時たま踏み込んで放たれる、テレフォンパンチ的な攻撃を易々と躱す。

 

 文弥に対しておこなったような、空気分子を一気に加速させ超高熱の炎に捲く力を、合間合間に仕掛けてくるが、伊織が優羽の周りの空気を制御下に置くことによりすべて妨害されている。

 

 それは通常であれば、不可能なことだ。気体全般を自由に扱えるような、汎用性の高い能力は、分子の加速という一点突破の能力に対し、その干渉力において一歩譲るところがある。

 

 しかし、こと守備において伊織は、その一点突破の《能力(スキル)》よりも数段高い干渉力を発揮する。何かを守りたいと願い、《能力保持者(スキルオーナー)》となった彼女らしい力といえる。

 

 おかげで優羽は目の前の鞭にだけ集中していれば良い。しかし、そろそろ戦闘の方向性を考えなければじり貧だ。

 

(うーん。そういえば、青の子は水流とそれに付随する水の操作だったよね……それで、あんな事を言ったのかな……?)

 

 ならば。と、作戦は決まった。

 

 

 

 

 

「――水使い最強の《能力(スキル)》が、水の概念操作だって言われる理由を教えてあげる」

 

 

 

 

 

 そう言って、生み出した水を加圧して放つ。生半可の能力者では、その圧力を生み出すのに、数秒から数十秒はかかる圧力だ。

 

 それを、優羽は一瞬と言える間に完了させた。

 

 なんの備えもなくぶつかれば、四輪車に衝突された程度の衝撃があるだろう。

 

 《赤》は、先ほど水の刃を防いだ時と同じように、加圧された水を蒸発させた。

 

 だが――

 

 そのまま加圧された、蒸気圧によって吹き飛ばされる。

 

 指向性があった水圧とは違い、蒸気の爆弾は赤の周辺ごと大きくえぐりとった。

 

 気を失っているようだが、《能力保持者(スキルオーナー)》は普通より身体能力も、生命力も高い。

 

 しかも、相手は熱量を扱う《能力保持者(スキルオーナー)》だ。あの程度の熱と衝撃で命までは失うまい。骨の何本かは折れていると思うが。

 

 水流操作では、蒸気までは操れない。あの、《青》を相手にするのであれば、水を蒸発させてしまえばそれで事足りたのであろうが、優羽相手では役不足だったようだ。

 

 注意深く観察していると、転送の光に包まれどこかに消えていってしまった。

 

 文寧を助けに行こうと文寧の方を見ると、丁度あちらからも爆発が聞こえ、青の覆面が転送の光に包まれて離脱するのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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