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学術研究都市の能力保持者達  作者: 和泉 和
転校偏 ~闇夜のカリバーン~ 第三章
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転校偏 第03章 第08話 彼女たちの献身

 優羽と恵美が気遣い、文寧は黙々と食事を続け、伊織と凛々子がはしゃぐ。

 

 デザートを平らげる段になれば、ある程度は打ち解けたようで、幾分和やかな雰囲気となっていた。

 

 文弥はずっと端の席に居たが、それ以外の女性陣はころころと席を移動し、席なんてあってないような状態になっていた。

 

 それでも、DNAに書き込まれた(さが)なのか、デザートを前にすると、腰を落ち着けて舌鼓をうっている。

 

 文弥自身も、ゆずのシャーベットとコーヒーで胃と舌を落ち着けると、改めて凛々子と恵美に話しかけた。

 

「さて、そろそろ、話を聞かせてもらおうか。例のお前らの前に現れた、変な男についてなにかわかったことがあるんだろ?」

 

「はい。ですが、佐伯さん達は何が起こっているのかわからないはずですので、まずはそこから説明させてください。実際にわかったことに関しては、その後に凛々子(りりこ)から説明してもらいます」

 

 そう言って、恵美が2~4組の一部の連中が、文弥を闇討ちにしようとして、文弥以外の第三者に逆に闇討ちにあっていた事。バラバラに行動していた彼らの前に、突然現れた亜麻(ああさ)と名乗る男が彼らをまとめあげ、集団で文弥を襲うように仕向けたこと。

 

 それでも失敗したこと。

 

 恵美が文弥を興味本位で遠見の《能力(スキル)》を使って見ていたところ、そのことで脅されて、そのグループに入れられていたこと。

 

 その時に、友人である凛々子もそのグループに入ったが、文弥に感づかれて逆に呼び出され、そこで凛々子が仕掛けるが、あっけなく返り討ちにあって、見逃された。

 

 せめてものお詫びとして、謎だった亜麻の情報を収集したので、それを渡したい。

 

 と。

 

 優羽達が、そのグループ連中を闇討ちにした犯人だと疑われている事は黙ったまま、説明を終えた恵美は凛々子に目配せをした。凛々子は、それを受けて頷くと、説明を引き継いだ。

 

「わかった情報は、三つかな。居場所と、ずっと彼の隣に居た覆面の正体と、亜麻の目的。後は不確定な情報が一つ。コレは亜麻が言っていたんだけど、襲撃犯の正体かな。まずは、居場所だけど……文弥、端末を出してくれる?」

 

 言われて文弥は、普段携帯電話と同じように持ち歩いている情報端末を取り出した。

 

 非接触データ通信で何やらデータを受け取ると、それは位置情報データだった。

 

「なるほど、取り壊し予定になっている《円卓の騎士(ナイツオブラウンド)》所有の実験施設か。いかにもだな」

 

「ええ、ここからほとんど動くことはないみたいね。根城にしてるみたいだから、しばらくはここに居ると思う」

 

「で。目的っていうのはやっぱり俺の命か?」

 

「それもあるけど、妹の命も狙ってるみたいね。あと、『バスターズ』って人も殺そうとしてるみたい」

 

「ああ、《出来損ない(バスターズ)》ってのは俺のことだな。金鵄教導(きんしきょうどう)でそう呼ぶ奴らが居たんだ。《多重能力(デュアルスキル)》研究をやってた金鵄教導では、俺は出来損ないだったからな。つっても、俺も含めて《多重能力(デュアルスキル)》なんて成功しなかったんだけどな。俺だけ、そう呼ばれるってのも理不尽なものさ」

 

 と溜息をつく。

 

「なんか、文弥も苦労してるのね。で、襲撃犯の正体だけど、入学式前に退学した一組の専用器もちの生徒みたい。どうやってるのかはわからないけど、亜麻って男が操ってるみたい。恐らく、《能力(スキル)》か、専用器の力で」

 

 同様の《能力(スキル)》を持つ凛々子のいうことだ、恐らくその推測に間違いはないだろう。

 

「で、不確定な情報だって言ってた、襲撃犯の正体は誰だったんだ?」

 

 文弥自身も、大体の推測はついていたが。

 

「久城 文弥の妹だと……亜麻は言っていたわ」

 

 凛々子のセリフで、文弥以外の視線が文寧に集中する。

 

 文寧の表情には動揺は見いだせなかった。いつものように、感情の乏しい顔をしているが、文弥の方をじっと見ている。

 

「なるほど。じゃあ、()()()が犯人なんだろう。まぁ、そっちの犯人は正直誰でもいい。自業自得だしな」

 

 本当にどうでも良さそうに文弥。若干頭の構造に問題がありそうな、人間の妄言だと思っているのか、本当に正体なんてどうでもいいのか。

 

 おそらく「正体は優羽である」と言われても、「正体は伊織である」と言われても、はたまた、「奥村教諭だ」と言われても、彼の態度は変わらないように見えた。

 

 その姿を見て、文寧に集中していた視線が凛々子に戻る。

 

 文寧自身の視線も、凛々子に戻った。

 

「ああ、他になんか言ってなかったか?亜麻って男は」

 

「『あの女に全然似なかった。殺すくらいしか価値はない。』って言ってたわね」

 

 それを聞いて、文寧は首を傾げている。

 

「あの女っていうのが、母さんのことだとすると、アヤさんは、父似だったのですか?」

 

「いや、きちんと母さんにも似てるさ。まぁ何考えてるか分からん奴の言うことなんて気にするな」

 

 そう慰める。

 

「結局、正体まではわからなかったんだ。申し訳ない」

 

 そう言って、凛々子が頭を下げる。

 

「いや、居場所がわかっただけで十分だよ。正直、こんなに早く居場所がつかめるとは思ってなかった。ありがとうな。凛々子。それに、正体ならだいたい推測できている」

 

 ありがとうの言葉に、一瞬頬を染めるが、すぐにいつものような余裕のある表情に戻る。

 

「どういたしまして。と言っても、居場所の探知を頑張ったのは恵美なんだけどね」

 

「そうか。恵美もありがとうな」

 

「いえいえ、こちらこそ。こんなことでお詫びになるとは思わないけど、役に立てなら良かったです」

 

 こちらは、素直に照れくさそうにする。

 

「ところで、亜麻の正体に気がついているみたいなこと言ってたけど、一体誰なの?」

 

 と、伊織。

 

「ああ、恐らくは……だけどな。久城 研璽(けんじ)。俺の叔父に当たる人物だろう。口調や特徴が酷似しているからな。だから、完全に身内のいざこざに巻き込んでしまった感じだな。と言っても、俺自身殆ど面識もない男なんだが。恐らく、俺の保護者がなんかやらかしたんだと思うが……いま連絡つかねーんだよな」

 

「文弥くんが、前に『迷惑かけるかも』って言っていたのはコレの事だったんだね」

 

「ああ、犯人の素性に関しては予めなんとなく予測がついていたからな」

 

 と優羽に答えてから、すっかりぬるくなったコーヒーを口に含む。

 

「で、どうするのですか?このままの流れで殴りこみますか?アヤさん的に言って、対立・即ブッ(ころ)でも、ある程度は許される気がするのです」

 

 文弥は、たまに言葉遣いが乱れる妹に溜息をつくが、出てきたのは別な言葉だ。

 

「どれくらい時間がかかるのか分からんからな、少なくとも予戦が終わってからだな。本戦出場は確定しているが、それでもまだ試合はあるからな。

 

 それに、今まで影からコソコソが基本だった奴が、いきなり大人数が居るところで堂々と攻めてこないだろう。敵に回す人数が多すぎるからな」

 

「なるほど。まぁとりあえず目下のところは、新入生対抗戦を頑張るってことか。目下のやることは変わらないわけね」

 

 と、伊織がうんうん言いながら頷く。

 

 最終的には、伊織の単純さに救われ、優羽と文寧だけでなく凛々子と恵美までも新入生対抗戦への闘志を燃え上がらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 文弥が用意した食事と十分な休息によって、優羽達は完全にリフレッシュを済ませ、予戦最終戦を迎えていた。

 

「勝っても負けても、コレで予選は終了だ。だけど、どうせなら勝って全勝で本戦に行こうぜ!」

 

 文弥の(げき)によって、皆の士気が向上する。

 

 伊織はわかりやすく「おー!」と声を上げているし、文寧も目には強い闘志が宿っている。

 

 優羽自身も、負ける気はない。

 

 このまま、文弥の手をわずらわせることなく本戦出場を決める。

 

 それが出来ないと、今度は久城 研璽(けんじ)との戦いに置いて行かれる。

 

 そんな、強迫観念にも似た感情に突き動かされ、歪ではあるが、それでも一層戦う意志を強めていく。

 

 優羽の本来の性格として、戦い自体は好きではない。だが、理由は分からないが文弥が戦いに行く時、そばで彼を(たす)けたいと思うのだ。

 

(私は、文弥くんのお世話係……だから、佐けて、助ける)

 

 

 

(――そしてその為には、力を見せる)

 

 

 

 改めて、胸中で誓いを新たにした瞬間、優羽達を転送の光が包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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