転校偏 第01章 第03話 剴園高校ツアー
文弥は優羽に連れられて学生課で剴園学園施設内で使用できるIDパスと生徒手帳を受けとった後、来週から通うことになる教室の前まで案内されていた。
剴園学園とは、剴園幼稚舎、剴園中等部、剴園高校の三つを合わせた総称だ。
図書館などの剴園学園内の施設を利用する際には、このIDパスが必要となる。
IDパスは厚みのあるセラミックのような素材で出来ており、生徒手帳に収納できるようになっている。案内役の優羽に先ほど聞いた話によると、普段持ち歩く必用があるのはこのIDパスのみで、生徒手帳は生徒全員が同じものを持っており、ただのパスケースとして配っているだけなのだそうだ。
校舎内はいっさい部活動には関係が無いため、平日とは違い現在は閑散としている。
事実、現在この校舎内に居るのは教師を除けば二人だけだ。
学校の歴史自体が浅く未だに増築を繰り返しているため、この校舎自体も築五年程度でまだ真新しい印象だ。一般の高等学校とは違い清掃はすべて業者が行って居るためか、掃除が行き届いており、それがより一層真新しさを強調している。
優羽は自分の上履きを使用しているが、文弥は来客用と書かれたペラペラのナイロン製スリッパを履いているため、歩くたびにリノリウムの床がペタペタと音を発て、閑散とした廊下に響き渡っている。
剴園高校は他に中等部、幼稚舎を同じ敷地内に備える広大な敷地が有り、クラス数も一学年二十クラス。約2400人が生活する超マンモス校だ。
中等部で一学年三十クラス、幼稚舎で一学年四十クラスもあるため、幼稚舎や中等部に通っていた生徒のすべてが剴園高校に進学できるわけではい。
法律上十六歳から十八歳の《能力保持者》は、学術研究都市及びそれに付随する施設で教育を受ける義務がある。十六歳以上というこの法律のお陰で能力教育を施せる学校施設が、高等教育よりも上の教育機関に集中している。
特に初等教育機関は極めて少なく、ここ関東でも《能力》の初等教育を行っているのは剴園高校の他に二つあるだけだ。
他の地域で見ても、関西に二校。九州に一校。四国で初等教育を行っているのは小豆島にあった金鵄教導のみだ。それ以外の地域には存在すらしない。
受験のために個人で《能力》を教える民間事業者も存在するが、公的機関として国に認められて教育を与えているのは前述の教育機関のみとなる。
通常は、法定通りに高等教育から能力教育を受ける。
剴園高校では、中等部からの持ち上がりは一切無く外部受験のみの入学となり、中等部に通っていた生徒も一般受験を通過しての入学となるし、高校進学と共に別な高校を選択する生徒も多いため、幼稚舎からの持ち上がりがほとんどの中等部とは違い、高等部から剴園高校に通う生徒が過半数だ。
高校一年最初のゴールデンウィーク現在では、ようやく人間関係が構築され始めた頃愛だろう。
古くからの馴染みだらけの中に独り放り込まれて、人間関係構築に四苦八苦する……と言った心配はなさそうだ。
道すがらにあれこれ説明してくれる優羽の話を聞きながら、文弥はそんなことを考えていた。
「――で、私は幼稚舎からの受験組なんだけど……っと、ここが、来週から文弥くんが通う教室。一年一組。改めて来週からよろしくね!
あ。言い忘れてたけど、クラス委員をやってます。だからってわけじゃないけど、お節介かもしれないけど、迷惑じゃなければ、学校のことでもそれ以外でもいいから困った事があれば相談してね!」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。何分田舎から出てきたばかりなものだから、そう言ってもらえると嬉しいよ」
本心からそう答える。新生活に別段不安はないが、十年近くも人里離れた場所で生活していた後の急な都会暮らしだ。意図しない事故があるかもしれない。買い物などの情報も知っている人から聞いたほうが有用な情報が得られるだろう。端末の地図や、ネットワーク上の情報ではそういった有用な情報は得られないものだ。
最も有用な情報は、これだけ文明が進んだ今もなお、人から人へ伝えられる。
「とりあえず、中に入ろっか」
優羽がドアにIDをかざすと、ピピッという電子音が鳴り次いでガチャリと鍵が開いた。
休日であるため、念のため施錠されていたのだろう。優羽はそのままドアを開け先導して中に入ると、「どうぞー」と文弥を招き入れた。
中に入ると、五個づつ八列に行儀良く机と椅子が並んでいた。机の上には、埋込み型の情報端末が備え付けられている。事前資料によるとコレを使って課題を提出したり、学校からの案内を受け取ったりするらしい。
この辺りは、金鵄教導と変わらないもんだな。と文弥は手近にあった机を軽くなでた。
「この学校ってさ、成績順にクラス分けされるんだろ?一年一組といえば優等生の集まりってわけだ。その委員長ってよく考えたらすごいよな」
「ややや、そんなことないよ。押し付けられただけだし」
慌てて手を振り振り否定する姿を見て、まぁそうだろうな。と思う。
「優羽はお人好しっぽいもんな。察するに俺の案内も体よく押し付けられたんだろ?悪いな」
「文弥くんのことはね、押し付けられただなんて思ってないよ?文弥くんいい人っぽいし、先にお話出来てちょっとお得?転校初日とか、みんなから質問攻めにあったりとかして、お話できないかもだし」
「まぁ、漫画とかだと、転校生の転校初日って質問攻めに会って大変だ!ッて感じだよな」
――俺の場合はそうはならないだろうが。と心のなかで付け加える。
「ふふ。確かにそんなイメージだね。さて……一応先生からは学生課の後教室に案内して、その後適当に校内を案内して、男子寮へ連れて行って欲しいとだけしか言われてないんだけど、他にどっか行きたいところあるかな?」
「いや。今日これからあれこれ案内してもらうには、この学校は広すぎる。つっても、施設の情報なら予め調べてきたし、さっき貰ったIDで学校内の地図情報・位置情報にアクセスできるようになったからな。明日以降生活しながら色々覚えることにするよ。
ただ、少し腹が減ったな。ずっと移動だったから、朝からほとんど何も食べてなくてよ。ちょうど昼時だし、学食にでもいかないか?それとも、もう昼飯食べちまったか?」
「んー昼食はまだなんだけど、休日は学校の食堂はお休みで、寮の食堂だけなの。部活の生徒たちは、予め弁当を作ってもらってるんだけど、前日までの予約だから……もしよかったら、寮に戻る途中に料理も美味しい喫茶店があるからそこに行かない?」
「いいな。そこに行こう。せっかくの休日にわざわざ案内してくれるんだ。昼食ぐらいごちそうするよ」
そうして、優羽は急な依頼をにもかかわらず、結局は予定通りの喫茶店へと向かうことになった。
一人でもないし、読書のためでもなかったが、それは全くと言っていいほど気にならなかった。