転校偏 第03章 第05話 幕間・狂唱組曲
きぃきぃと。きぃきぃと。きぃきぃと。
ガラスを爪でひっかくような、不快な声響く。
むか~しむかし。あるところに、出来のいい兄と出来の悪い弟が居ました。
兄は、いつも陽の当たる場所に。
弟は、いつも日陰に。
兄は、才能に恵まれた。
弟は、才能を認められなかった。
兄は、努力した。
弟は、ただただ世界を呪った。
光ある方から闇は見えない。
闇から光ある方はよく見える。
兄は、いつの間にか弟を気にしなくなっていた。
弟は、それでいいと思っていた。
その方が都合がいい。
すべてのキッカケは、兄が一振りの剣を手に入れたところから始まった。
それは、王を選定する剣。
王を象徴する剣。
過去人類の歴史に姿を表し、その後ひっそりと葬られた伝説の王の剣。
だが、その剣は不完全だった。
少なくとも、この現代では。
中程から裁ち折れ、刃だけとなっていたのだ。
それは、歴史上でも語られている。
その剣の片割れは、半世紀以上にわたって捜索されたが結局は見つからなかった。
折れた剣は、稀代の専用器制作者である兄によって修復された。
専用器は自らの持ち主を自ら選定する。
ソコには、作者の意思も、《能力保持者》の意思も関係ない。
結局、その王の剣は兄を所有者として認めてしまった。
伝説の剣。王者の剣。
それを手に入れた、兄はこの時代でも王となった。
兄は、才能に恵まれた。
弟は、才能を認められなかった。
弟は、才能がなかったのではない。ただ誰にも認められなかっただけだ。
弟は、孤独だったのではない。ただただ自由だったのだ。
弟は手に入れていた。王の剣の片割れを。
弟は持っていた。兄と同じ種類の才能を。
すなわち、王の剣を扱う才能を。
王の剣本来の能力は、弟の持つ柄と、刃元に宿っていた。
兄が修復した剣は、兄が与えた力を持つのみで本来の力は使えない。
王となった兄は、一人の女を妻とした。
非常に美しい女だった。
闇に沈んだ弟が、闇の裡で震えるほどに。
だから全てを壊す事にした。
やがて、兄と妻の間には子供が生まれ、幸せの絶頂を迎える。
生まれた子供は、双子だった。
男女。兄と妹。
妹は取り立てての問題もなく、妻に似て美しく育つだろうと思われたが、兄の方に問題があった。
その問題を解決するため、兄は驚くべき行動をとった。
0歳児の兄を連れて、問題解決の為旅に出たのだ。
実際にはアテもない旅などではなく、助ける方法がきちんとあり、そのための旅だったのだが。
しかし、それは弟にとって千載一遇の好機となった。
兄を、陽の当たる場所から引きずりおろし、自分がその場所に行くために。
妻は、《能力保持者》ではなく普通の女だった。
ならばこそ、より御しやすい。
彼の剣の能力は『《支配》』。
王の力によって他者を支配し、意のままに操る能力。
ただ人を破壊するのにはうってつけと言えた。
だが、今の彼ではその剣の能力を扱いきれていなかった。
《能力保持者》は未だ支配できず、一般人に対しても暗示を与える以外のことは出来ずに居た。
忘れ去っていた弟が暗示をかけて、兄の妻を強姦殺害した程度では何も変わらない。
必要なのは、まずは奪うこと。
第三者に奪わせることだ。
モラルハラスメント、ドメスティック・バイオレンス、そして多重債務者。
いつの世にも、腐った人間はどこにでも転がっている。
数え役満のような男ですらも、簡単に見つかる。
彼は、『数え役満男』にあの女には何をやってもいい。と暗示をかけ。妻には、『数え役満男』には逆らえないと暗示をかけた。人為的な共依存の完成である。
娘は《能力保持者》であったため、《支配》では何も出来なかったが、0歳児に母親を守る力は無い。
そうして、帰ってきた男は、息子を連れて旅に出てしまったことを理由に離婚を切り出された。
そうして、帰ってきた男は、最愛の妻の浮気が原因で離婚をすることになった。
兄は妻の浮気には気がついていたが、その原因が弟にあることには気がついていなかった。
存在を認識していないのだから、気がつくはずもない。
そうして兄は、子供を失い、妻も失って一人孤独に玉座へ戻った。
だが、それこそが序曲。
弟は更に闇に潜む。
いつか、我が願いを成就せんが為。
そして、今すべてが整った。
王の剣の能力は最大限に引き出せるようになり、今や能力者であろうと自由に支配できる。
それも継続的に。
軍隊も揃った。
ついでに、既に用済みとなった、あの女はさんざん犯してから殺してやった。
あれ程までに美しかった彼女は、もうソコには居なかった。
それがたまらなかった。
何度も何度も、陵辱を繰り返し、何度も何度も刺して殺した。
殺してからも、陵辱を繰り返した。
ナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモ
妹もあの女と同じように犯してから殺そうと思っていたが、あれはダメだ。全然似なかった。殺すくらいしか価値はない。
首をはね、目玉をくりぬいて、兄に送りつけてやろう。
そうして、ますます壊す。
ますます、壊れる。
それこそが、前奏曲。
間奏曲も終わり、そして、そろそろ、終曲に差し掛かる。
ようやく夢が叶う。
彼は命ずる。彼の傀儡に。
「あノ、《出来損ない》を殺セ。仲間と、妹もまとメて。」