転校偏 第03章 第04話 戦闘の後で
チーム久城が六戦を終えた時、コレ以降二十時間から、二十四時間の間マッチングがない旨の通達があった。
試合自体は、三十六時間ぶっ通しで続けられるため、文弥達は特別措置なのだろう。
文弥以外の三人が奮戦したため、ここまで全戦全勝。
加えて、進行上勝ち点が近いチームが試合が終わったタイミングで、自動でマッチングを行い戦闘開始する方式を取っていたため、試合数もまちまちなのだ。
特に文弥達は、快進撃とも言える速度で敵チーム屠ってきた。
あまりにもあっけがなさ過ぎて、観覧席からクレームが来るのではないかと思うレベルである。
勝ち点18点。
ダントツ一位の状態で、予選突破まで後一歩というところで止まった状態だ。
引き分けがあったり、どこのチームも勝ったり負けたりしているため、現状13点以上のチームが文弥達を除いて一チームも居ない。
特に引き分けが多く、上位チーム以外の点数に差がつかないのだ。
その上位チームも、Aブロックでチーム久城が全勝してダントツになっている以外は、他もBブロックCブロックでもほぼ団子状態だ。
唯一、Dブロックに二引き分け三勝(三人チームのため、勝ち点+3点スタート)のチームが居るのみだ。このチームも、あと一勝、多くても二勝したなら、休憩を言い渡されるだろう。
例年の状況に照らし合わせると、全勝者二組及び全勝者のみに負けている状態で並び、全勝者同士の戦いで、21点先取のチームが確定する流れだ。
もちろん、過去の例はこれらはすべて一組の生徒で構成されていた。
だが、今年は二組から四組の生徒たちが奮戦し、混戦状態になっている。
一組の生徒達は圧倒的に勝利を重ねるというわけでもなく、苦戦を強いられているようだ。
特に、リーダーを狙い撃ちされ、そのあと時間切れまで逃げ回られる作戦を取られ、試合時間が長引き疲労を蓄積させられ、その結果次の試合でも振るわないといったような悪循環に陥っている。
もちろん、今年が初めての団体戦であることも起因しているのだろう。
戦闘向けの生徒たちこそ一組に偏っているが、とも団体戦となれば、腕力があるイコール勝利とはならない。相手の位置を調べて確実に逃げまわる。そういう戦いでも、今回のルールでは勝利を収めることが出来る。
引き分けありのルールなので、いっそ引き分けでもいい。
まぁ、本戦ともなれば、そう甘いことはないと思われるが。
これまでのチーム久城の戦闘時間は、すべて短期決戦というのも生ぬるいほどの電撃決戦で終了している。しかし、対戦相手があっさり勝負を決めてくるわけでもなく、ポイント調整や試合数調整も今回が初めてではないため、それでもまるっと五時間ほどは経過していた。
試合の合間に他チームの試合内容を確認したが、次どこのチームとあたっても、今までどおり電撃決戦で3点取得し予選突破を決めるだろう。
そもそも、スイスドローのルールにおいては、全勝チームが試合回数が一番多い文弥達のみになっている時点で優勝は確定し、それにあわせて予選突破も確定している。
最後の一試合は、最終的な点数計算の為の消化試合だ。
恐らく、このまま行けば予選突破の八チームのうち21点獲得するチームは現れないかもしれない。
それどころか、時間内に全試合工程を終了できないかもしれない。
同点チームが現れた場合、それまでに戦った相手チームの獲得ポイントも点数に加えられ、順位付けが行われる仕組みだ。
残りの試合はそのための調整で、文弥達にとっては消化試合以外の何物でもなく、ワザと負けたとしてもなんの問題もない。しかし、ここに来て黒星を付けるつもりはチーム久城のメンバーの誰にもなかった。
「という訳で、チーム久城はこれから長い休憩に入るわけだが、本当に結局俺が何もしないまま予選突破を決めちまったからな。あと一試合残しちゃいるが、ここは一発祝勝会でもやっとこうぜ。優勝祈願も兼ねてよ」
「兄さん、それは名案です。アヤさんは、お肉が食べたいです」
「お肉か、いいわね。今日は朝ごはんも昼ごはんも抜きだったから、お腹ペコペコ」
「優羽はどうだ?」
「私もお肉の話聞いてたら、お肉が食べたくなってきちゃった」
三人の希望が合致したところで、夕食兼祝賀会の内容が決まった。
「肉か……なら、いい店知ってるからそこに行こうぜ。顔が利くから多分個室に入れてもらえるはずだ。結局俺は何もしなかったからよ、支払いは気にせずガンガン食うといい」
「あはは。そんなガンガンってほどは食べられないと思うけどね」
「私は食べるわよ!って言ってもあれね、先に着替えてシャワー浴びたいわね」
という伊織の提案に皆で頷き、一時間後に寮の下で集合と相成った。
「兄さん。ちなみにそのお店とはどこのお店ですか?」
「リーガカールトンホテルの上に、鉄板焼きの店があってよ。そこだ」
「へぇ。ホテルなのに、鉄板焼き肉のお店があるのね」
「……いいんですか?兄さん?」
嬉しそうな伊織に、心配そうな文寧と優羽。
「ああ。言っただろ?支払いは気にしなくていいし、顔が利く店だって」
文寧は改めてその言葉を聞いて、甘えることにしたようだが、優羽は返って恐縮してしまったようだ。
仕方ないと、文弥は思い直し。
「優羽、本当に気にすることはない。それでも気になるようだったら……そうだな、多分近いうちに迷惑かけるだろうから、その迷惑料の先払いだとでも思っててくれ」
「そうよ。優羽。焼き肉はまぁ、高校生の私達からしたらちょっと高いけど、そこまで遠慮しちゃかえって悪いわよ?」
「伊織ちゃん。鉄板焼きっていうのは焼き肉じゃなくて……ってまぁいいか。うん。迷惑料ってのはよくわからないけど、せっかくだしね。あと、私はお世話係だから、迷惑かけられてなんぼなんだよ?だから気にしないで」
そう言って、今度は晴れやかな笑顔を向けた。
だが、文弥の言う『迷惑』は文弥の予測を超えた早さで彼らの前に姿を現すのだった。




