転校偏 第02章 第11話 幕間・彼女たちの独白
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。よろしければ、ご意見、ご感想をよろしくお願いします。
二章はこれで終りです。
次からは三章となります。
学研都市リーガカールトンホテルの一室。
まだ夕方だというのに、部屋の中は闇いままだ。高級ホテルの遮光レベルは、真っ昼間でも真暗闇を作り出せる。
平日昼間は、睡眠に充てているため、今日まで監視はしていなかったが、なんとなく予感にかられて、目が覚め確認してみると、とんでもないことになっていた。
ノリノリで、女子生徒にセクハラをしていた兄は後でお仕置きするとして、当面の問題は……
「最初から、気づかれてたみたいだったし、彼女達じゃ無理ないか」
そうつぶやき、ベッドに潜り込む。
隠れ蓑にしていた、もう一人の監視者が兄に接触してしまったらしい。
直接視線を送るタイプの監視方法では、勘の鋭い兄には気づかれてしまう。
彼の目をごまかすには、広範囲を同時に監視し多数の監視対象の中に混ぜ込む、木を隠すなら森の中という方法しかない。
あくまで間接的に監視をしていた自分のことには恐らく気がついていないだろうが、このまま長く続けると気づかれてしまう可能性がある。この自分にしか出来ない監視方法は、あの兄もよく知っている。
コソコソと、暗躍しているような妹だとあの兄が知ったらどう思うだろうか。
嫌われレしまうだろうか?
(すべてが片付いた時に、全部話して謝ろう)
そう心に決める。
あの兄なら、きっと分かってくれるはずだから。
(それにしても、モヤモヤしますね。こうして見てることしかできないというのも)
今はまた、違う女子生徒と一緒にいるであろう兄を想う。
人に囲まれるのは、力のあるものの常だと彼女は考えている。あの兄の本来の性格がどうであれ、そうなってしまうのは仕方のないことだ。
そんな兄をむしろ誇りに思っている。
それでも――
「何なのですかね。もやもやします」
彼女の独白は、誰にも聞かれることのないまま人工物の作り出す闇に溶けた。
◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇
――やっとみつけた。
華月 凛々子は、歓喜に震えていた。死を受け入れさせられたのにもかかわらず、生きていたからではない。
自分の推測が間違っていなかったからだ。
男を嫌い、男を蔑む。
そんな、彼女の気質は、ある一点に通ずる。
王にすべてを捧げ、王以外を拒絶する。従者の気質だ。彼女には王は居ない。だから、王を探すためにすべてを拒絶した。バカにして蔑んだ。どうあってもそれが出来ない人物。それこそが自らの王なのだと。
先天的、後天的問わず、房中術を身に宿す者に共通した気質。たとえその身が汚されようとも、支配を受けず、逆に支配する。
それを可能とするのは、自分が所有物であるという意識。物はいくら汚されても、何も思わない。何も感じない。ただただ、役目を全うするだけ。
それが可能になるのは、王を見つけた後。王の物になった後。
凛々子は、そんな自分に与えられた性質を受け止めていた。いや、従来の気質を、《能力》のせいにして無理矢理受け入れているのかもしれない。
凛々子にとって、それはどちらでも良いこと。
どちらであっても変わらないこと。
戦闘向きの能力でもないのにもかかわらず、あるていど腕力がモノを言うここ剴園高校に入学したのもそのためだ。
剴園高校は、項目こそ戦闘技能に偏っているが、基本的には加点式の採点方式だ。
何かに突出していれば、それだけで高評価を得ることが出来る。逆に、平均的な能力だったしても、全てが平均的であれば、それもまた高評価を得ることが出来る。
だが、それこそ凡百。自分が探すのはすべてが突出している人物だ。
優れた人物を探す。ひいては王を探す。そのために彼女はここへ来た。
だが、入学して早々に落胆した。一年の中に、王となる候補者が一人も居なかったのだ。
上級生はもちろん、強力な力を持っているだろう。
それは、ただ一日之長だからだ。一年の時点では、今と左程変わらないだろう。
もちろん、突出したタレントを持つものは居る。だが、それは全て女性だったのだ。
彼女が。彼女たちが王として求めるのはすべて異性。同姓では、王としては認められない。
そのため、彼女には不名誉な噂が立ち始めていたが、事実無根として切り捨てていた。
ここに王が居ないのであれば、他で探すしかない。
盛夏戦には各地区の強力な《能力保持者》が集まる。
そこへ参戦し、王を探す。ただし、卑怯な真似はしない。だけど、友達を見捨てることはもっとしない。
そう思い、初めて彼の情報に触れた時、バカにすることが出来なかった。
少なくとも書類の上では。
彼を知る期会が遅かったのは、彼の転校からしばらく凛々子が演習を休んでいたからだ。
クラスが違う彼女と彼との接点は、演習授業しかない。
普通なら演習を見学するのだが、すでに新一年生に興味を失っていた彼女は、教室で自習をしていた。
恥ずかしながら、一般教科の成績が芳しくなくそれを取り戻そうとしていたのだ。
女性の能力者には、決定的な弱点がある。
月経により力が弱まることがあるのだ。普通の《能力保持者》であれば、一日二日でその期間を脱する。
だが、房中術を《能力》の一部として持ってしまったために、彼女はその期間《能力》をまともに行使することが出来ない。
こんな時期の転校生なのだ。もっと早くに興味を持って接するべきだった。
もっと早くに接触できていれば、もっと別な結果になっていただろうと、今は後悔しかない。
だが、こうして王に謁見する機会を得た。
恐らく自分より、この力に詳しい素振りを見せた彼ならば全てに気がついているだろう。
その上で、不敬を赦し、教えまで与えたのだ。
だから。挽回しなければ。
なんとしてでも。
そう、何番目でもいい。利用する価値があると思わさなければ。
――それこそが自分の望みなのだから。




