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学術研究都市の能力保持者達  作者: 和泉 和
転校偏 ~闇夜のカリバーン~ 第二章
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転校偏 第02章 第07話 事情聴取

 昼休み。


 四時限目の授業が宗像(むなかた)教諭授業だったため、文弥と一誠はフライング気味で教室を後にし、二組へ向かった。


 いつものメンバーには、昼休みに一誠と用事があるとすでに伝えてあるため、恐らく文弥を除いたメンバーでこれから昼食だろう。


 二人が駆け込んだのは、丁度礼が終わった直後らしく教師はまだ退席しておらず、生徒も全員揃っていた。授業自体は終了しているためか、教師は眉をひそめただけで何も言っては来なかった。


 目的の人物は、先に教室に入った一誠をみて何事かと目を見開いた後、続いて入室した文弥を見てその表情を険しくさせた。


「よお。山崎」


 と、一誠は教室一番後ろ端の生徒に声をかけた。


 彼が山崎と呼んだ生徒は、髪を五分刈りにしたガタイの良い生徒だ。それが部活の決まりによるものなのか、本人の趣味なのかはわからない。


 どこの部活にも所属せず、ただのヘルプとして様々な部活に参加している一誠は、細やかな各部活のルールとは無縁だ。


「ヘルプに来てくれ。ただしその茶髪はバリカンで刈ってくれ」


 などという依頼をしたところで、断られるのがオチだからだ。


 危険があるからだろう。ピアスホールは、学校にいる時に限り透明の物を使用しているようだ。


 その反動か、寮で見かけるたびに違うピアスをしているが。


 耳はピアスだらけなのに、他には開けないのかと聞いたところ、


「痛そうだからヤダ」


 と言っていた。


 


 


 


 そんなことはおいといて。


 


 


 


 山崎ににこやかに近づく一誠とは違い、彼の表情は険しいままだ。


 敵意を向けてくる相手に、振りまく愛想など存在しない文弥はただひたすらに無表情だ。


 ああ、三雲文寧は確かに久城文弥の妹なのだ。


 と思わせる。見事な無表情っぷりである。


 別に機嫌が悪いわけではなく、これが素なのだ。


 普段はコミュニケーションを円滑に行うため、ワザと大げさに、しかもワザとらしさが出ない程度に、感情表現をしているだけで、愛想をふりまく必要のない相手だと文寧以上の無表情っぷりだ。


 まるで、自分が人間扱いされていないかのような。その瞳で見つめられたなら、人間以下に落とされてしまうような。感情が見えず、底冷えする瞳。


 山崎に意識が向いているため、一誠は全く気がついていないが、山崎はその表情にあてられたのか、不機嫌そうな表情が少しづつ恐怖の色に染まっていく。


 一誠がどう考えているのかは分からないが、文弥が行うのは、下手に出てちょっと話を聞かせてもらうという平和的な手段ではない。


 誤解だろうがなんだろうが、大過(たいか)なく学校生活を送ろうとしている文弥の障碍(しょうがい)でしか無い。


 守ると決めた人間に類を及ぼすものに対しては、容赦はしない。


 故に、洗いざらい話させ、全てを叩き潰し、その上で二度とくだらない妄想をし、その妄想を広げようなどとしないよう、しっかり()()する。


 が、それにしても怯えすぎな気がする。


 前もって、恐怖を植え付けられていたかのように。


 険しい表情。怒りの表情は、その恐怖から抗うために作っていた虚構(きょこう)であったかのように。


 妙なことだと思いながらも、結局やることは変わらない。


「一組の久城だ。一誠から話は聞いた。闇討ちをされたらしいな。心当たりはあるのか?」


 目の前まで辿り着いた瞬間。唐突に切り出す。


 山崎は少しの間を置いた後、


「とっ……、とぼけるな。その心当たりから言ってお前らしか居ないんだろうが」


 どうやら、その心当たりとやらは言う気はないらしい。


 チラチラと一誠を見ているところを見ると、一誠には知られたくない内容みたいだと判断し、ソコを尋問するのはとりあえず諦める。


 別な方向から攻めたほうが手っ取り早そうだ。


「闇討ちにあったのは事実のようだな。相手は《能力(スキル)》を使ってきたのか?」


「ああそうだ。持っていた鉄パイプが急に発熱して大やけどだよ!」


 そう言って、痛々しく包帯が巻かれた右手を突き出す。


 話を聞いて思い出すのは、先日の文寧との会合だ。


 ニクロム線を使ってお湯を沸かしていた。


 ニクロム線。つまりは電熱線だ。高圧で電流を流しその物体が持つ抵抗によって発熱させる。


 人体に感電させないように電流を操作すれば、手に握られた鉄パイプでもそれは可能だろう。


 だが、回りくどすぎる。


「電流を流して鉄パイプを発熱させた。とそう言いたいわけだな。ワザワザ、感電させないように表面は絶縁させて。んで、彼女がそれを行う動機に文弥が関わっていると。ちょっと回りくどいやり方に聞こえるんだが」


 と一誠。


「そっそうだ!」


 とやけくそのように山崎が叫ぶ。


「普通なら、分子加速操作能力(パイロキネシス)とか、炎具現化能力(ファイヤースターター)とかを疑うもんじゃねーのか?」


 と文弥も一誠に追従する。


 文弥に対する反論は、山崎からじゃなく一誠からもたらされた。


「この闇討ちが新入生対抗戦に関係あるっていう前提で話をすると、それは難しいな。分子加速操作能力(パイロキネシス)とか、炎具現化能力(ファイヤースターター)とかは、操作系具現化系の中でメジャーな能力ではあるんだけどよ、一年生の今の段階で、一瞬で金属を灼熱させるほどの温度を作り出せる《能力保持者(スキルオーナー)》は今のところ一人も居ないんだ。もちろん上の学年にはいるし、何人かの強化系の《能力(スキル)》と合わせれば可能かもしれないが、聞いた話だと襲ってきた犯人は一人って話だからな」


 新入生対抗戦と名を打っては居るが、実際に戦闘に耐えうる能力を持っているのは、一組から四組くらいまで。さらに、そのクラスに所属している全員が、戦闘に向いた《能力(スキル)》を所持しているとは限らない。


 それ以下のクラスともなると、分子加速を行っても、ハロゲンヒーター程度の熱量しか得られず、発火すらしなかったり。


 ライターのほうがまだましというレベルでしか、炎を具現化出来ないだろう。


 《補助器(デバイス)》がアレば、もう少し強力な能力になるかもしれないが、それでも劇的に変わるものではない。


 更に下位のクラスになると、《補助器(デバイス)》を使用してその結果だろう。


 また、有用な非戦闘スキルを持っている生徒も、好成績と認められ上位のクラスに入れられる。


 一瞬で金属を灼熱させるほどの能力ともなれば、確実に一組の生徒となるだろう。


 だが、一組には、分子加速操作能力(パイロキネシス)も、炎具現化能力(ファイヤースターター)も居なければ、長距離から、他人の《能力(スキル)》を十倍以上の単位で強化できる《能力保持者(スキルオーナー)》も居ない。


 気体を操作できる伊織であれば、あるいは似たようなことが出来るだろうが、山崎は最近同じチームになった妹と仲のいい女子程度にしか認識していないだろう。


 間接的なつながりなのだと。そう思っているに違いない。


 もしくは、もたらされた恐怖によって思考停止してしまっている可能性があるが。


「闇討ちに対する心当たりは、新入生対抗戦に関係有ることだけなんだな?」


 と文弥。


 返事は返ってこないだろうと思ってたが、


「とぼけるな。違うとでも言うのか?」


 と、怒りに任せて肯定してくる。


「なるほど。大きな声では言いたくない心当たりが、自分の中にあって、それが原因で闇討ちされたと。で、その証拠は闇討ちされたと言う、お前自身の証言と、しょぼいやけどを負ったその右手だけか。お前自身犯人を見たわけではなく、状況から推測しただけと。なるほど、なるほど」


 と少し声を張り上げて言う。


 口調こそバカにしたような口調だが、山崎を見据える表情は一切替わらない。


 一番角の席で影に隠れるようになっているため、ワザワザ覗きこまない限り文弥の表情は見えないだろう。


 そして、周りからはっきり見える山崎の驚愕した表情は、見方によっては『自作自演がバレた』ように見えるかもしれない。


 一誠はどう思っているのか分からないが……


(頃合いだな)


 そう思うと、文弥は、


「邪魔したな。一誠行こうぜ。多分コレ以上何も出てこねーよ」


 と、先ほどまでとは打って変わった、人間らしい表情を浮かべて促した。


 昼休みが始まって、まだ10分ほどしか経っていない。


 二回行動で昼食をとっても時間がまだ余るだろう。


「ああ、そうだな。邪魔したな山崎」


 そう言って文弥に続く。


 教室のドアを開ける瞬間。


「ちょっと飯食いに行こうぜ。もう一回」


 と文弥が誘い、


「俺も、誘おうと思ってたぜ」


 と、一誠が承諾し、連れ立ってスカイタワーへ向かった。


 


 


 


 



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