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学術研究都市の能力保持者達  作者: 和泉 和
転校偏 ~闇夜のカリバーン~ 第一章
12/62

転校偏 第01章 第12話 新入生対抗戦発表

 襲撃を受けた翌日の朝。


 昨日と同じように、優羽、伊織、文寧の三人が文弥の部屋の前に立っていた。


 これまた、昨日と同じようなやりとりがあった後、文弥からこんな提案がされた。


「個人用の携帯端末の連絡先を交換すれば、色々な問題が解決すると思うんだけどよ。どうだ?」


 


 無事連絡先を交換した四人は朝食を摂りながら、話に花を咲かせていた。


「新入生対抗戦の概要発表遅いわね。先輩の話によると、毎年ゴールデンウィーク前には発表されてたってはなしよね」


金鵄教導(きんしきょうどう)から専用型《補助器(デバイス)》がかなり回収されたらしく、それを賞品として大盤振る舞いするために、一旦決まったものを白紙にして決め直したと、アヤさんは小耳に挟みました」


「新入生対抗戦ってなんだ?」


 聞き覚えのない単語が聞こえたので、聞き返す。


「六月の頭から、一週間かけて新入生最強を決めるイベントがあるんですよ。兄さん。夏休みにある盛夏戦の新人戦枠の選考も兼ねているので、見学者も多く入学式後初めての大きなイベントというわけです。特に、一位の商品に専用助器が含まれていることもあって、みんなの本気度は高いです」


「ちなみに、他の商品もかなり豪華よ。半年待ちがざらにある、あのスカイデッキの指定席を一年間専有できたりするのよ」


 文寧の説明を、伊織が補強するが、文弥は首を傾げる。


「専用器ってそんなに目の色変えるほどのものか?思い切り人を選ぶし、訓練はすげー大変だし。その割に、能力自体の演算強度は変わらないしでそんなに良いもんでもないぞ?」


「それは、文弥が専用器を持ってるからよ。普通にしてたら、先ず手に入らない代物よ?この学校に居たって手に入れるチャンスが有るのは、一年に一回あるか無いかで……しかも、今回のコレは競争相手に上級生が居ないからね。超大チャンスってわけ」


「ちなみに、新入生対抗戦の優勝者はその後三年間主席であることが殆どですし、国立大学の受験が免除されるという噂もあります。とアヤさんはまだ納得できてなさそうな、兄さんが心配になってきました」


 ここまで言われても魅力を感じない。スカイデッキのほうがまだ魅力的だ。


 ――ところで、


「優羽?どうした?なんだか調子悪そうだな?」


 と文弥。先程から、全く口を開いていない優羽に話しかける。


 よく見ると、いつもより顔色が悪い気がする。


「えっ?うん。ちょっと、体調悪いかな。お腹が少し痛いかも」


 と、少し顔を赤らめ、焦ったように優羽。


「そうか。まぁ、色々あるだろうからな。あんまり辛いようなら、薬飲んどけよ」


「うん。ありがとう」


 向けられた笑顔は、多少精彩(せいさい)を欠いていたが、それでも魅力的なものであった。


 


 


 ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇


 


 


 あれから、特に襲撃も受けず平和な日々を過ごしていた。


 相変わらず監視の気配は感じるが、距離をおいて監視をされているため犯人には接触できていない。仮に、犯人の顔を見ることが出来たとして、ひと目で誰だったかがわかるわけでもないが。


 初めての演習授業以来、クラスメートとは、挨拶がてら雑談をする程度の仲にはなっていた。その中でも、優羽、伊織、文寧の三人と、前の席で寮では隣人の一誠は気のおけない仲になっていた。


 不調そうだった優羽も、三日もすればモトの元気を取り戻していた。


 


 そんな五月も後半に近づいてきたある日の、SHR(ショートホームルーム)


「新入生対抗戦の、ルールが決定しました」


 SHRが始まって開口一番の奥村(おくむら)のその一言で、クラスメートが一斉にざわついた。


「四人一組でのスイスドロー方式の団体戦です。


 詳しくはみなさんの端末に配布した資料を確認して下さい。内容の決定が遅れてしまって申し訳ないのですが、チームのエントリーは三日後までです。それまでにエントリーされない場合は、こちらで自動で割り振られることになりますので注意してください。新入生対抗戦は、盛夏戦の新人戦出場者選別を兼ねていますので皆さんがんばってくださいね」


 奥村の話が終わると、机に備え付けられた情報端末に、資料受領の通知が現れた。これでIDカードさえあれば、どこの端末でもこの資料にアクセスできるようになった。


 早速開いて確認する。簡単に言うと、勝つと3点、負けると0点、引き分けで1点で点数を競うルールのようだ。対戦相手は、同じ点数か近似点数内で決定されるというルールらしい。


 賞品の目玉は、伊織達と文寧が力説していたところによると、専用型の《補助器(デバイス)》だ。


 他には、学校に聞ける範囲でわがままを聞いて貰える権利や、部屋が広くなるようなものあるようだ。


「お願いを増やすお願いはできません」とわざわざ書いてあるところを見ると、過去にそういう猛者(もさ)が居たのだろう。


 聞いて欲しい願いもなければ、すでに専用器を所有している彼からすれば、特に魅力を感じない。


 部屋が広くなっても掃除が大変になるだけだろうな……などと詮なきことを思いながら、資料を確認していると、インスタントメッセージ受信のアイコンが点滅した。


 開封してみると、優羽からだった。


 通常、授業中はインスタントメッセージの送受信はできないようになっているのだが、文弥の面倒を見る名目上、期間限定、相手限定で許可されているのだ。


 だが、事今回にいたっては――


『一緒のチームになってくれませんか?(〃∇〃)』


 思い切り私的なメッセージだったが。


 少し考える。


 ざっと見たところ、正直優勝賞品に魅力的な賞品はない。自分のパーソナリティ上負けず嫌いの為、結果的に優勝は狙うだろうが、必死になるつもりもない。


 ただルールを見ると、全敗する以外の方法だと、全勝するほうが結果的に試合数が減り楽になる仕組みだ。


 楽をしようと思うならば、結局は勝つほうがいいのだ。


 優羽の能力は折り紙つきだが、優勝を狙えるレベルではない。


 そう思う。


 文弥にとっては非常に驚いたことだが、専用器を使用している生徒はほとんど居ない。


 と言うか、一組から四組の合同演習授業でも使用している生徒は、文弥を含めてもゼロだ。授業で必要ないのだから仕方ないといえば仕方ないが。


 それでも、物によっては、高次能力と同じかそれ以上の厄介さを誇る専用器を所持している生徒がいたならば、大怪我をするかもしれない。


 腕がちぎれても、ちょっと体に穴が開いても、治療能力と能力保持者(スキルオーナー)の生命力ならば命に別状もなく、直ぐに回復するだろう。


 更に今回は、円卓の騎士(ナイツオブラウンド)の出資により特殊なフィールドが使用され、死んでも大丈夫らしい。


 ――だが――と。文弥は思う。


(痛いものは痛いんだよな……身近な女くらい守らねーとな)


『わかった。文寧と伊織も誘おうと思うんだがどうだろう?』


『ありがとーm(_ _)mもともと、もしチーム戦になったら同じチームがイイねって話してたから、大丈夫だと思う(・∀・)ちょうど、四人だしラッキーだね。SHR終わったら改めて声かけてみるよ(〃∇〃)』


 顔文字が散らばった、インスタントメッセージに苦笑しながら、改めて資料に目を通す文弥だった。


 


 SHRが終わるとともに、前言通り優羽は伊織と文寧の元へと向かった。


 文弥と優羽の席は隣同士。伊織と文寧の席は前と後ろ(文寧が前の席で、伊織がその後ろとなっている)だが、文弥たちの席からは少し離れているため、あれこれ話し始めた彼女たちが何を言っているのかまでは聞こえない。先ほど奥村が話した新入生対抗戦の話題でどこももちきりだからだ。


「ようやく決まったかって感じだな」


 前の席に座る一誠が椅子に逆向きに腰掛け、話しかけてくる。


「俺自身は、先週くらいにさらっと聞いたくらいで、よく知らねーんだよな」


 改めて資料を確認していた文弥は、端末から目を離し肩をすくめた。


「そうなのか?今回は、専用型の《補助器(デバイス)》が多めに配られるて噂があったせいか、みんな(うわ)ついてアレコレ言ってたんだがな。まぁ、優勝チームに所属するメンバー四人全員に権利があるっていうんだから、噂は事実だったってことだな」


「アレコレって?」


「実は、最近闇討ちが流行ってるみたいなんだよ。まだ、うちのクラスで襲われた奴は居ないから、このクラスではあんまり話題になってなかったかもしれないけど。俺は、いろんな部活に出てて他のクラスの連中と話す機会も多いからな。隣のクラスなんて、すでに五人もヤラれたらしい。こっぴどくヤラれてはいるけど、命に別状はないみたいだけどな。だけど、かなりビビっちまってるらしい。襲われた理由も、この新入生対抗戦が原因だってのが有力な説だな。一部の被害者がそう言ってたってのもあるけど。まぁ、何にせよお前も気をつけろよ」


 言われて思い出すのは、一週間ほど前に夜中のトレーニング途中に(おそ)われたあの事件だ。


 しつこく襲われたわけではなく、ちょっと抵抗したら()ぐに逃げていったので、別段誰に報告するわけでなく放置していた。


 自分以外に被害が出ていたのは意外だった。てっきり、金鵄教導(きんしきょうどう)出身なのが原因で襲われたのだと思っていたが、認識を改めなければいけないらしい。


「そうなのか。新入生対抗戦が原因か……。有力な生徒をあらかじめ闇討ちして、少しでも有利になるように……ってことか?ソコまでやるってのがいまいち信じられん」


「ここのクラスは、強力な能力者が揃ってるからな。専助器が無くても好成績が取れるし、努力次第で好成績を維持できるだろうけどな。そういう奴らばっかりのクラスにいるし、文弥自身は専用型持ってるもんな。だからイメージつかないかもしれないけど、ここが剴園とはいえそうでない生徒のほうがやっぱり多いんだ。そういった生徒にとっては、専用器ってのは、どんな手を使っても欲しいものだと思う。自前の《能力(スキル)》が脆弱(ぜいじゃく)でも、《補助器(デバイス)》自体が強いとそれだけで脅威(きょうい)だからな」


 もたざるものの苦悩というものだろうか。


 それは単なる甘えではないか?


 そういう風に思わないでもないが、《能力(スキル)》は持って生まれた才能がモノを言うのも事実だ。もちろん、努力なくしては、宝の持ち腐れだ。


 強力な才能を持っていても、凡才でも努力を積み重ねている、《能力保持者(スキルオーナー)》にはかなわない。だが、いくら努力をしても強力な才能を持ちながら、更に努力をしている人間にはかなわない。専用器は銀の弾丸ではないが、努力の天才がより一層努力が報われるようそれを強く欲する気持ちは想像できるような気がする。


 しかし……


「でもなんで、このクラスの連中は襲われないんだろうな。成績順でクラスが決定されるこの学校的に言って、このクラスは成績優秀者ばかりなんだろ?このクラスの連中潰したほうが、優勝に近づけるんじゃないのか?そりゃあ、新入生対抗戦直前に潰したほうが効率的だと思うけど、それでも今まで一度も潰しに来ないってのもおかしいと思うんだよな。さすがに」


「それについても、色々噂があるみたいだな。うちのクラスで戦闘向きの《能力保持者(スキルオーナー)》には、たとえ闇討ちであっても勝てないって判断して、現在準備中ってのが有力な説らしい。他はチョット愉快じゃない噂もあるな」


 妥当な判断だろう。そう思う。いくら強力な能力を持っていたとしても、まだ新入生なのだ。先日武器化(アームド)を習ったばかりだ。技術面から言っても、精神面から言ってもはっきり言って未熟だ。突然の襲撃者に対して手加減をするほどの精神的余裕がなかった場合、過剰に防衛され逆に返り討ちに合うだけならともかく、命を失うこともあるだろう。


「愉快じゃない噂か。犯人は、この一年一組だとかそんな感じか?」


「まぁ。そんなところだ。と言っても、このクラスの連中からすればバレた時のデメリットのほうが大きすぎるからな。あんまり考えにくくはあるな」


 珍しく真面目な顔になる一誠につられて、文弥の表情も少し深刻なものになる。


「探偵のマネをする気はないが、身内が傷つくのは嫌だからな。機会を見て被害者に話を聞きに行くか。一誠。悪いがその時は紹介してもらっていいか?」


「ああ、任せろ。いつでも言ってくれ。俺も気になるからな、一人で行くって言ってもついて行ったさ」


 快く受けてくれた一誠礼を言って、話題をチームの話に転換した。


「顔が広いと、こういう時逆に大変だな。あちこちから声がかかってるだろ?」


「そうなんだよ。さっきから、IMインスタントメッセージの着信がひっきりなしだ。まぁ、どこのチームに入っても角が立つからな。俺は、運営の自動振り分けかな。文弥と一緒なら優勝まちがいなしなんだろうけど――」


 言って、ちらっと優羽たちの方をみる。


 つられて文弥も優羽たちの方を見ると、優羽と目があった。そのまま目をそらすのも愛想がないと思ったので、雑に手を振ると視線を一誠に戻した。


「悪いな。先に誘われたから受けちまった」


「いいってことよ。彼女たちは色んな意味で注目株だからな。あの三人が集まるだけで、優勝候補筆頭だし単純に容姿(みため)で言っても、男子人気高いからな。それに、女子人気もだ。いいんちょーは、面倒見が良くて優しいし、片瀬はアレでファッションマスターであれこれ相談受けてるって話だしな。三雲さんは学年一位の秀才だからな。男子が勉強聞きに行ってるのは見たことがないけど、女子はよく質問しに行ってるな。あのチームに、男子生徒が入ったとなったら……昼休みには上の学年まで話が回ってるんじゃないか?」


 口調こそ冗談めかしていたが、なぜか冗談には聞こえなかった。


 


 


 ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇


 


 


 無事文弥とチームを組む約束を取った優羽は、SHRが終わるとともに伊織と文寧の元へ向かった。


 文寧の後ろの席が伊織となっているため、自分だけ席が離れている格好だ。


「予定通り、同じチームでいいかな?」


 と話しかけると、二人とも笑顔で頷いてくれた。


「三人が収まる人数になってくれて、アヤさんは安心しました」


「よろしくー。三人でかかれば優勝まちがいなしね」


 幼稚舎(ようちしゃ)からの長い付き合いの三人組だ。お互いの能力も力も知り尽くしている。敵になると非常に厄介だが、その分味方になると、息を合わせやすい。この三人なら、()った作戦など必要ないだろう。


 


 優羽の、水の概念操作。レヴィアタン。


 伊織の、気体の概念操作。フレースヴェルグ。


 文寧の、電気・電磁の概念操作。雷神(トール)


 


 操作系最高位の概念操作能力(スキル)保持者が揃っている。他の系統が一人も居らずバランスが悪いが、それを補って余るチート具合だと思う。


 


 


 戦うまで相手がわからない形式になってしまったため、事前の作戦などまともにたてられないだろうが。やれるとしても、せいぜいがコンビネーションの練習くらいだ。


 そう。このメンバーなら、伊織の言うように優勝も出来るかもしれない。


 優勝賞品の目玉は、やはり専用器だろう。


 以前どこかでちらっと話題になったときには、文弥はピンときていなかったようだが、専用器を手に入れられる機会はめったに無い。球数(たまかず)自体が少ないからだ。


 今回のようなチーム戦でチーム全員に権利があることなど、おそらく今までなかったはずだ。せいぜいが、対抗戦自体が個人戦になるか、チームの中で一人のみ権利があるとかだろう。


 その上で、専用器の恩恵は学生生活において大きすぎるほど大きい。


『専用器保持者は国立大学への入学試験が免除になる』という噂があるが、それ以前に高次能力と同等かそれ以上と呼ばれる力を供給してくれるそれは、単純に言って毎学期末の対抗戦で大きな武器になる


 。扱えるかどうかは本人次第だが、入学したてのこの時期に手に入れられたのならば、非常に有利になるだろう。


 毎学期末の対抗戦も、この新入生対抗戦程豪華ではないが、賞品もある。力を持つものが、どんどん力をつける。それが、この学研都市の側面である以上、殆どの生徒が必死で優勝を狙うだろう。


 しかし、優羽自身はあまりそれに興味はなかった。


 身に余る力を手に入れても、しかたがないと思っているし、何より《補助器(デバイス)》は補助器(ほじょき)といいう名前が付いているのにもかかわらず、能力操作を補助する機能がついていない。


 併用すればいいように思うかもしれないが、複数の《補助器(デバイス)》を使用するのは、両手でそれぞれ違う絵を緻密に書くようなもので、ほぼ不可能とされている。


(でも、もしも……優勝できて、専用型を手に入れることができたら、文弥くん色々教えてくれるかな?うん。なんか名案な気がしてきた)


 優羽自身は、何が名案なのかわからないまま、うんうんと頷いていた。


「――兄さんも誘いたい、アヤさんは思いました」


 思考がそれていたせいか、前半部分がうまく聞き取れなかったが、重要な部分だけは聞き取れた。


「あ、もう声かけてあるよ?いいんちょー特権で!」


 えへんと。胸を張る。


 服が苦しい。気がする。また少し大きくなったような……


 ――伊織ちゃんほどではないけど。


 と、伊織の方を見ると、何やらニヤニヤしている。


「ほう。紅一点……いや、白一点ですな。リーダーは文弥に決定ね。アヤが心配してた、まだ能力を隠したがってる云々ってのも、まぁ、問題ないでしょ。よし、早速エントリーしちゃおう」


 聞き逃していた部分は、そんな事を心配していたらしい。言いながら、伊織は早速端末に向かい登録を始めた。


 優羽自体は、自分から文弥に話して入るが、伊織と文寧は伝えていないはずだ。


 何度か目の前で能力(スキル)を使用しているので、気がついている可能性はあるが。


 自分が言いたくないから、他人にも聞かない。


 非常に彼らしいと、優羽は思った。


 ちらっと文弥の方を見ると、一誠(前の席の生徒)に話しかけられていた。ふと、目が合うとやんちゃな少年のような笑顔で、あとは任せたと言うように手をふっていた。


 新入生対抗戦のチームに誘われているのだろう。先に声をかけておいてよかった。と思いながら、声を抑えて文寧に話しかける。


「文寧ちゃん。例の件は問題無さそうだった?」


「いえ、(かんば)しくないです。手段を選んでいる場合ではないとアヤさんは思いました」


 正直戦いは好きではない。この学校がそれを奨励していたとしてもそれは変わらない。


 それでも、目の前の友達のためにできる限りの事をしようとそう思った。


 自分のためにも。


 と最近はそう思うようにもなった。


「きつい戦いになると思うけど、今までどおりなんとかなるよ」


 と、エントリーを終えた伊織が二人をねぎらった。


「そうだね。本当はこんなだまし討みたいなやり方はどうかと思うんだけど、仕方ないか」


 と優羽は諦めたように言うと、続きの言葉を飲み込んだ。


 


 ――文弥くん、怒らないかな……


 


 


 


 

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