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学術研究都市の能力保持者達  作者: 和泉 和
転校偏 ~闇夜のカリバーン~ 第一章
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転校偏 第01章 第10話 幕間・男の友情

 一誠から友情の証として、そして、引越祝いとして『紳士の教科書』を受け取った文弥は、自らの保護者のセリフを思い出していた。


「飯とエロそして、音楽。コレが人類全てに行き届いていれば、世界はずっと平和だ。もしお前が、このドレかを他人からもらったら、必ず返礼しろ。できれば同じもので自分が最高だと思うものを贈れ」


 と。


 なるほど。


 美味しいいちごを貰ったのなら、大好きなももを返す。


 おすすめのCDを貸してくれたのなら、自分のおすすめのCDを貸す。


 そして今回は――


 


「くそっ。こんな事のために能力を使うとは……やっぱり、あんなおっさんの言うこと聞くんじゃなかったぜ。うどんかそばにしておけばよかった。前に見た魔王がバイトする本でも、うどんを送りつけてたしな。引っ越しっつったら麺類だろ」


 紆余曲折あったが、無事商品を入手できた文弥はぶつくさ言いながら帰りを急いでいた。


 何があったかは、文弥が語る気になったら語られるだろう。そんな日が来るとは思えないが。


文弥(ふみや)くん文弥くん」


 呼ばれて振り返ると、優羽(ゆう)伊織(いおり)文寧(あやね)の三人が立っていた。


「おう」


 と片手を上げて挨拶をすると、三人がまとめて駆け寄ってくるが、


「じゃあ、俺は用事があるからな」


 と踵を返す。


 ―――が


 


 ガシッ


 


 と、腕を取られる。


 躱そうと思えば躱せたが、恐らくはより一層面倒なことになるし、何よりも今は荷物を持っている。


 書籍のため、壊れたりすることはないが、人に贈るために買った為グシャグシャにするわけに行かない。


「まぁまぁ。そう急ぐ必要もないじゃない」


 と、伊織。


 ふぅ。と息をついて、


「つってもよ。プレゼントを持って行く途中でな」


 と、肩をすくめる。


「ん?プレゼントってそれ?」


 と、伊織は文弥が手に持っている、本屋の袋を指さした。


 二重の紙袋に入れられ、更に不透明のナイロン袋に入れられ、中身が一切見えない状態になっている。


「ああ。男子寮の隣の生徒が、一誠だったんだ。何やってるのかしらねーけど、あいついっつもいねーから、隣は空室だと思って挨拶してなかったんだが、居ることがわかったんで、挨拶しとこうと思って。つっても、先に向こうが遊びに来て知ったんだけどな。向こうは、俺が引っ越してきたの知ってたらしい」


「ああ、あいつ、運動神経()()は良くて、いろんな部活に駆り出されて手伝ってるからね」


 なるほど。やたらと演習時に頼られていると思ったが、それが理由か。と得心がいったように頷くと、


「んでどうした?」


「夕飯、一緒に食べないかなーって思って」


 言われてみると、少し早いがちょうど夕飯の時間だ。


 もう少し後になると、部活組がどっと押し寄せて、混雑が始まる。


「構わんけどな。とりあえず荷物を置きに行かせてくれ。かさばるし重いんだコレ」


「なんだか、随分それ置きたがってるわね?何を買ったの?」


「ふむ。遊びに来た一誠が、お近づきの印と言ってとっておきだという書籍を置いていったからな。同じものを返すよて・・・」


 


 ヒュバン!


 


 と、大きな音を立てて、手に下げていたナイロン袋が断ち切られた。切断面に向かって空気が流れ込み、突風が生じる。そして―――


 こんな場所で突風が発生すると……


「「きゃあ!!」」


 と、声を上げて、優羽と文寧が声を上げ慌ててスカートを抑える。


 ――黒と白か。


 そんなことを思いながら、ただ一人悲鳴を上げなかったホットパンツ姿の裏切り者――優羽と文寧にとってだが――が奪い去る紙袋を、諦観して見送った。


「ちょっと、伊織ちゃん⁉なんてことをするの!アヤさんはとっても怒っていますよ?」


 と、『黒』が食ってかかり、


「ぱぱぱぱ、ぱんつ。ぱんつ」


 と、『白』が泡を食っている。


「ちゃんと名前で呼んだほうがいいと、アヤさんは思いました」


 ――地の文に突っ込むのはやめよう。


「白と黒は落ち着け。そんで、ピンクはとっととそれ返せ」


(ブルー)よ!」


「そうか。ブルーか」


「図ったわね。孔明(こうめい)!」


 と言いながら、紙袋を振り回す。


 が、それくらいでは、あの中身が見えないくらい丈夫な紙袋は破れない。お約束は起こらないのだ。


「いいから、それ返せよ。女子供(おまえら)が見るようなもんじゃない。()()の為の本だ」


「伊織ちゃん。アヤさんはとっても怒っていますよ?」


「…………」


 アヤの言葉と、優羽の無言の抗議に、伊織はバツが悪そうに頭を下げた。


「ごめんなさい」


「文弥くんにも。あとそれ、返してあげて?」


「むぅ」


 まだ涙目ではあるが、少し立ち直った優羽に強く言われて、紙袋を文弥に返す。


「ったくよ。ひでーことするじゃねーか」


 と、文弥。


「だって、えっちなほんだと思ったのよ」


 


 ………


 ………………


 ………………………


 


 伊織のその言葉を聞いて、優羽と文寧がぴくっと反応する。


 そして、20秒ほどの沈黙を置いて、文寧が重い口を開いた。


「おにいちゃん?アヤさんは、その厳重な紙袋の中身がとても気になります」


 優羽もそれに続く。


えっちな(紳士のための)ほん()だっけ?私も気になるなー」


 しかも目が座っている。


 文弥は、ふぅと溜息をつくと、紙袋の中から何冊か本を取り出して見せた。


「メンズ non-n○」「sm○rt」「S○murai magazine」etc。


 それらは、いわゆる代表的な男性ファッション誌だった。


 立ち読みを防ぐためだろうか?紐で縛られ、中が見れないようになっている。


女子供(おまえら)が見るようなもんじゃない。紳士服を選ぶ為の本(しんしのためのほん)だ」


「男性は、そういう本を買う時、サンドイッチと言われる手法を取ると、アヤさんは聞いたことがあります。他のも見せて下さい」


「それ、人にあげるもんだからな、紐とか切るなよ?」


 言いながら、紙袋ごと渡すが、中身はすべて男性ファッション誌だった。


「ぐぬぬ」


 と、何故か悔しそうにしながら、伊織は紙袋に本を戻し、文弥に手渡した。


「まぁ、勘違いってのは誰にでもある。気にするな。取っ手付きの袋が破れちまったから、とりあえずこれ渡してくるわ。飯はその後でもいいだろ。すまんが食堂で待っててくれ」


「うん。わかった。疑ってごめん」


 文弥は肩をすくめ、「いいってことよ」と言いながら、自室がある階に向かっていった。


 優羽だけが、「なんでファッション誌なら配送にしないんだろう?」と首を傾げていた。


 


 


 ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇


 


 


 呼び鈴を鳴らし、暫く待つ。


 文弥は、引越し祝いのお返しを携えて、一誠の部屋の前に立っていた。


 カメラに映るように、少し離れた位置で。


『おー文弥か。開いてるから入ってきてくれ。』


 招かれて、ドアを開ける。


「さっきは良い物をくれたからな、お返しを持ってきた。残念ながら、もともと持っていた奴は、全部なくなっちまったからな。さっき本屋で仕入れてきた。さすがにコレを、学生寮にデリバリーできんからな」


 言いながら、紙袋を開ける。


 外を包んでいた本屋のビニール袋は、諸事情によって破られてしまったが、中身は無事だ。


 色々ヤバかったが。


「巨乳好きの年上好きと聞いたからな。そういう趣向で半分と、JK物と、コレは俺の趣味だが、着エロものだ」


 言いながら、紙袋から取り出したのは、えっちなほん(紳士のための本)だ。


「着エロとはまた、いい趣味だな」


「そう褒めるな」


「しかし、文弥がここまで話がわかるやつだとはな!俺は、嬉しいぞ!」


「俺は、オープンを装ったムッツリだからな」


 ドヤ顔である。


「このまま語り合いたいところだが、そろそろ飯だな」


「ああ、そうだった。妹達を待たせてるんだった」


「例の三人組か?」


「ああ、一誠も一緒に来るか?」


「いや、俺は、遠慮させてもらうわ」


 少し考えた後、一誠はそう断った。


「そうか。んじゃあ、俺は行かせてもらう」


 そう言って、文弥は妹達が待つ食堂へ向かったのだった。


 


 


 ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇


 


 


 人波乱あったが、一誠に引越し祝いのお礼を渡し終わって、文弥は三人組と合流し食事をとっていた。


 男子寮の食堂で。


 男一人


 女子三人と。


 注目されている。


 心なしか、睨まれているような気もする。


 なるほど。一誠が断ったのはコレが原因か。


 まぁ単純に、今日手伝った部活の連中と食事をとる約束をしているのかもしれんが。


 ほんわか、癒し系の、優羽。


 明るく陽性の美少女、伊織。


 陰性のの美しさがある、文寧。


 文弥から見ても、『逸材』揃いだ。


 元からの知り合いと、お世話係を任された委員長ながら、最近割りと一緒にいるせいもあるのだろうと、自己完結した。


 等の女子組は、男子寮だから単純に女子が目立っているのだろう程度にしか思って居なかった。


 敵意は、全て文弥に向いているのだから。


「文弥、あんまり食べないのね?食欲ないの?」


 文弥の前にあるのは、本日の「麺類・わかめうどん」だ。


 食べ盛りの、高校生としては少ないといえる。


「ああ。夜中にトレーニングに行くからな。食べ過ぎると、いろいろつらい」


「兄さんはいつも、夜中にトレーニングをしているのですか?」


「ああ、朝もやってるけど、朝は流すだけだな。基本的に学校での演習は明るい場所での訓練がほとんどだからな。視界に制限がある状態での訓練は夜中しか出来ねー」


「でも、どこでやるの?学校の施設は使えないよね?」


「海にでも行ってやろうかと思ってる。海上なら多少無茶してもいいだろうしな」


 言って、ニヤリと笑った。


 


 


 


 


 

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