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プロローグ

初投稿になります。稚拙ですがよろしくお願いします。


 視界がゼロに近い猛吹雪の雪原を一台の戦車が雪を巻き上げながら走り抜ける。車体には多数の黒焦げた爆発の跡が残っており、激しい戦闘に巻き込まれているのが分かる。


「くそったれが……」


 悪態をつきながら戦車長兼砲手の竹中は座席の周りに所狭しと並べられたパネルに視線を巡らす。車外の様子を幾多のカメラで映す全周囲モニターは猛吹雪を相変わらず垂れ流している。


「やっぱダメか……」


 竹中の指揮する38式軽戦車には最新の電子装備を搭載しているが、各種センサー類のパネルも反応を示さない。《アイスレクイエム》と呼ばれるこの猛吹雪の中では強力な磁気も発生しているため、電子の眼も意味がなさなかった。


 だがそれでも竹中の38式は執拗な攻撃を受けている。新たな敵弾が近くに着弾し、車体を激しく揺らす。こちらを確実に捕捉している証拠であった。


「こんな天候で有視界戦闘なんてできるかよ!」

『しゃ、車長! まだ前進ですか!?』


 操縦手の今にも発狂しそうな声がヘッドセットから脳内に響く。


「当たり前だ! ドンドン走れ! 敵弾にぶち当たるなよ!」

『り、了解!』


 怒号のような竹中の指示に操縦手が怯えた声で返事を返す。いつも変異体と呼ばれる怪物や領土侵犯をしてくる国籍不明部隊と死闘を繰り広げているベテランにはあるまじきうろたえようだった。


 だがそれも致し方ないことだろうと竹中は思った。今の状況は異常すぎる。


「何でこんな事に……」竹中はぼやいた。


 それはほんの五分前の事だった。竹中の率いる日本国自衛軍の戦車小隊は一仕事を終えて基地へと帰還していた。だが突如、小隊の一両が爆散した。全周囲モニターに映った砲塔を吹き飛ばされ炎上する僚車の姿に竹中は目を疑った。竹中の居た地域は安全圏内とされており、攻撃を受ける事態などありえなかったのだ。

 だが驚いている間にもう一両の僚車が爆音と共に吹き飛んだ。僚車二両を立て続けに葬り去られた竹中は即座に戦闘機動を操縦手に指示。立て続けに起こる攻撃を何とか回避していた。立て続けに戦車二両を屠った正体不明の相手をするほど竹中は馬鹿では無い。


 竹中は苦肉の策として近くで発生していたアイスレクイエムの猛吹雪へと自ら飛び込んだ。自殺行為としか思えない行為だが黙って死ぬわけには行かなかった。


 だがそれでも敵はアイスレクイエムを物ともせずに迫ってきている。


「しかし相手は誰なんだ……」


 相手は明らかに対戦車用の火器を使用している。この天候なら対戦車ミサイルはもとより、対戦車砲の類いもレーダーを使用するはずだがアイスレクイエムの中では電子機器は使えないはずだ。


「直接照準で狙っているわけであるまいし……新型兵器か?」


 竹中がそう呟いた瞬間に爆音と共に車体が大きく揺さぶられ、停止する。


『履帯損傷! 動けません!』


 操縦士が上げる絶望の声。戦車は履帯を失えば動けない。


 チェックメイトだ。


「くそったれ!」


 竹中は近くのモニターに拳を叩き付ける。その衝撃でモニターにひびが入り、竹中の拳に破片が突き刺さった。


 だが竹中はその痛みを感じなかった。そんな物は些細な問題だった。


『うわぁあああ!』


 操縦士の精神が崩壊した。発狂の叫びを上げた、直後にハッチを開ける音がしてヘッドセットに猛吹雪の音がなだれ込んでくる。どうやら車外へと逃げ出したらしい。


「馬鹿が……」


 アイスレクイエムの中では生身の人間は無力だ。数分で凍死してしまうだろう。竹中は耳障りな音しか発しないヘッドセットを放り捨てる。


「……やってやろうじゃないか!」


 絶望を振り切るように竹中は叫び、敵が新型の戦闘車両であるとの判断して、手元のタッチパネルを操作する。竹中の操作に従い、砲塔内部の自動装填装置が搭載されている砲弾で一番の貫通能力を誇るAPFSDS弾を100ミリ砲へと装填する。自動装填装置の連続した金属の作動音が車内に響き、竹中は装填が完了したことを液晶パネルで確認する。同時に砲塔を旋回させ、敵が迫ってくると思われる後方へと向ける。


「来いよ……」


 竹中はトリガーに指を掛けて敵を待つ。心臓の鼓動がこれ以上無いくらい高まっている。


「……!」


 そして竹中はこちらに迫ってくる得体の知れない何かの気配を感じた。各種センサーに反応は無く、車外モニターには相変わらずの猛吹雪が映っているだけだ。


 だが竹中は敵を感じていた。呼吸を落ち着かせて視界の先を見つめる。


「……巨人?」


 迫ってくる巨大なシルエットは二足歩行をしており、どう見ても巨人にしか見えなかった。動きは遅いもののゆっくりと確実にこちらに向かってきている。手には巨人の大きさにサイズアップされたバズーカ砲のような物を携えている。


 得体の知れない物を目の当たりにして、竹中の脳裏に故郷に居る妻と子供の顔が浮かんだ。心の奥底でもう生きては帰れないと悟っているようだった。


「こなくそが!」


 だが最後まで諦めはしない。竹中は照準内にその巨人を捉えてトリガーを引き絞った。100ミリ砲が雷鳴のような咆哮を上げて発射され、すぐさま自動装填装置が次弾を装填しに掛かる。


「嘘だろ!?」


 だが竹中は砲弾が発射されると同時に巨大なシルエットが消えたのを確認していた。砲弾はむなしくも遙か遠くの雪原に着弾しただろう。


「上か!?」


 この戦車には上面を見る車外モニターは無い。竹中は砲塔上部に設置しているリモコン式の機銃を真上に向け、その照準画面で戦車の真上を確認した。


「な……」


 吹雪の中から現れる赤黒く変色した巨人の手。それが竹中の最後に見た光景だった。

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