第八話 哀玩人形
「……バイオレットは、人形……?」
「君は、誰……?」
「あたしは……あたしは、菫、です……」
「そう……。スミレ……」
菫はなぜかとても哀しそうな顔をしていた。声には全く力が無かった。
彼女の手には、バイオレットのものと思われる、人形を操るための取っ手のような物があった。
でも、そんな事はどうでもよくて。
「人形……? 駄目だ……違う……! バイオレットは、バイオレットは……っ」
触れた髪は? 唇は?
可愛いと、愛しいと思ったのは、やっぱり腕の中にいる彼女。
頬を撫でる。冷たい、人形の感触。
それでも、やっぱり……
「……っ」
涙が出た。
崩壊でごまかしてた涙が。
崩壊を愛おしいと思う涙が。
人形でも構わない。
やっぱりバイオレットが好きで、好きで……。
きつく抱きしめると、バイオレットの体はぎしぎしと変な音を立てた。
漠然と、分かったことがある。
俺は絶望に襲われて。
壊れた俺は、狭い、狭い小窓の奥に踊る人形を見つけて。
人形は俺の逃げ場所になった。
彼女を好きでいる事で、俺は現実を忘れ、癒されていた。
でも結局、
自分はさらに崩れてしまって、絶望にはなんの変化も無かった。
ただ、いつの間にか、本当に彼女が愛しくて愛しくてたまらなくなっていて……
哀しい気持ちは、愛しく玩ばれる人形を作ってしまった。
哀玩人形