第六話 愛しい君は・・・
土曜日。
いつもなら、ダンスを見終わってくだらない話をしているはずの頃。
俺とバイオレットは黙ったままでいた。
「……」
やっと会えたのに、なにを話せば良いのか分からない。くだらない話題も今日は出てこない。何故だかバイオレットも話し掛けてこない。
『学校に居なかったでしょ? 見付けられなかったんだけど』
訊きたい。でも、そんな事を言ったら探していた事がばれてしまう。
どうすればいいんだ……。
「……やっぱり……、塚松君はあたしのこと、見つけられませんでしたね……」
「え……?」
「この前の月曜日もその前の月曜日も、もう一週間前の月曜日も……、お友達と運動場のベンチに座ってましたよね……? あたし、……見てたんです」
「え!?」
見てた……?
「やっぱり、気が付いてなかったんですね……。実は、ぶつかったりも、してて……」
「――……」
どうして? あんなに探したのに。あんなに会いたいと願ったのに。どうして見付けられなかったんだ?
だって、バイオレットは居なかったじゃないか。バイオレットは……
「塚松君……」
「……あ……」
目の前には、小窓の奥には、いつも通りバイオレットが居た。
長い茶色の髪は今日も綺麗で、顔は、やっぱりおかしな方向を向いていて……
……『見てた』?
バイオレットは目が見えないんじゃないのか?
バイオレットは、バイオレットは……?
彼女は一度も自分は目が見えないなんて言ってない……
でも、俺の事は一度しか見てないって。そう言ったじゃないか。
なんなんだ? 『見る』って?
どうして? 俺には、目の前のバイオレットが見える。なのに、外ではバイオレットを見付けられない。
『塚松君は、あたしの声しか知らないから……』
「塚松君……、あたし……聞いたんです……」
混乱する俺に追い討ちをかけるように、彼女は言葉を放つ。
今日の彼女の声色は少しおかしかった。
怒ってるとか、そう言うのじゃなくて……だけど、なにか……違和感があった。
「弟さんの、事……」
弟? 浩介? 浩介の事?
「浩介……? あいつなら、今日も見舞って来たけど、別に……」
「――……、……」
? どうかしたんだろうか?
浩介は、ずっと入院してるけど結構元気で。ほら、だって、さっきもあいつの病室で……
病室で……?
「――浩介、は――……」
頭がおかしくなりそうだった。
毎週土曜、俺は、浩介のお見舞いに来るために病院に来ていて。
そう、バイオレットに会いに来るのも、その、ついで、で……
『ほら、あの子……可哀相ね、また来てるわ……。あの日から、あそこに通ってるみたいなんだけど……』
あの日……あそこ? 小窓……最初に来た日も、俺はお見舞いの帰りで……。
違う。
あの日は――……
「――っ!!」
「つ、塚松君!? 大丈夫ですか!? あ、あたし……っ」
「バイオレット……!」
気が付いたら、彼女の手を引いて、庭を抜け出していた。
彼女が小窓を越える時、声が聞こえたような気がしたけど……そんなもの、俺には聞こえなくて。
愛しい君は、今俺の手の中。