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哀玩人形  作者: ちぐ
6/12

第六話  愛しい君は・・・

 土曜日。


 いつもなら、ダンスを見終わってくだらない話をしているはずの頃。

 俺とバイオレットは黙ったままでいた。


 「……」


 やっと会えたのに、なにを話せば良いのか分からない。くだらない話題も今日は出てこない。何故だかバイオレットも話し掛けてこない。


 『学校に居なかったでしょ? 見付けられなかったんだけど』

 訊きたい。でも、そんな事を言ったら探していた事がばれてしまう。

 どうすればいいんだ……。



 「……やっぱり……、塚松君はあたしのこと、見つけられませんでしたね……」

 「え……?」

 「この前の月曜日もその前の月曜日も、もう一週間前の月曜日も……、お友達と運動場のベンチに座ってましたよね……? あたし、……見てたんです」

 「え!?」

 見てた……?

 「やっぱり、気が付いてなかったんですね……。実は、ぶつかったりも、してて……」

 「――……」



 どうして? あんなに探したのに。あんなに会いたいと願ったのに。どうして見付けられなかったんだ?


 だって、バイオレットは居なかったじゃないか。バイオレットは……



 「塚松君……」


 「……あ……」


 目の前には、小窓の奥には、いつも通りバイオレットが居た。

 長い茶色の髪は今日も綺麗で、顔は、やっぱりおかしな方向を向いていて……

 ……『見てた』?

 バイオレットは目が見えないんじゃないのか?


 バイオレットは、バイオレットは……?


 彼女は一度も自分は目が見えないなんて言ってない……

 でも、俺の事は一度しか見てないって。そう言ったじゃないか。


 なんなんだ? 『見る』って?



 どうして? 俺には、目の前のバイオレットが見える。なのに、外ではバイオレットを見付けられない。


 『塚松君は、あたしの声しか知らないから……』




 「塚松君……、あたし……聞いたんです……」

 混乱する俺に追い討ちをかけるように、彼女は言葉を放つ。

 今日の彼女の声色は少しおかしかった。

 怒ってるとか、そう言うのじゃなくて……だけど、なにか……違和感があった。



 「弟さんの、事……」



 弟? 浩介? 浩介の事?


 「浩介……? あいつなら、今日も見舞って来たけど、別に……」


 「――……、……」


 ? どうかしたんだろうか?


 浩介は、ずっと入院してるけど結構元気で。ほら、だって、さっきもあいつの病室で……


 病室で……?




 「――浩介、は――……」


 頭がおかしくなりそうだった。

 毎週土曜、俺は、浩介のお見舞いに来るために病院に来ていて。

 そう、バイオレットに会いに来るのも、その、ついで、で……



 『ほら、あの子……可哀相ね、また来てるわ……。あの日から、あそこに通ってるみたいなんだけど……』



 あの日……あそこ? 小窓……最初に来た日も、俺はお見舞いの帰りで……。






 違う。





 あの日は――……




 「――っ!!」


 「つ、塚松君!? 大丈夫ですか!? あ、あたし……っ」


 「バイオレット……!」









 気が付いたら、彼女の手を引いて、庭を抜け出していた。




 彼女が小窓を越える時、声が聞こえたような気がしたけど……そんなもの、俺には聞こえなくて。








愛しい君は、今俺の手の中。





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