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哀玩人形  作者: ちぐ
11/12

第十一話 ・あたしの崩壊・

 「たた、たんたん、たんたん、たたたん、たたたん、たた……」





 静かな廊下。響くのは彼女の唄声。





 座ったまま、壁に寄りかかってバイオレットを見る。


 なんとか繋いだ糸は、思ったよりも上手く動いてくれている。





 「こんぺい糖……」





 バイオレットは前よりもずっと上手に踊れていた。

 いつも足が糸に絡まって倒れていた所も、もう失敗しない。





 そういえば、彼女が唄うのを聞くのは初めてだ。


 うっすらと自分が微笑んでいるのが分かる。



 優しい唄声。


 哀しい唄声。












 「たん……。終わりです……」


 「……上手くなったね。頑張って練習したもんな……」


 「……」






 ♪




 きしむ音。




 奏でられるのは無音の旋律。

 最初に見た、あのリズム。





     ♪       ♪




 「あたしは……自分に自信が無くて……」

 「……?」

 「いつも、怖くて……なかなか出来ないあたしを、否定されるのが、辛くて……。そんな自分自身が嫌で、嫌で……いつも、誇れない自分に謝って……」

    ♪

 「不器用で、無配慮で……友達も少なくて……だから、自分で自分を、戒めるようになって……何も、主張が、出来なくなって……人とも、顔を合わせるのが怖くて……」

 「うん……?」

 バイオレットは舞い続ける。

 「……でも……塚松君が来てくれてからは……少し、安心できるようになって……。いつもいつも、あたしを元気付けてくれて……優しい言葉をくれて……自虐的になりそうになると、いつも止めてくれて……ちょっとずつ、頑ななあたしを、崩してくれて……」

 ……気付いてたんだ……。

 「いつか、顔をだそう……って、思ってたんです……。会おうって言われて、嬉しかったんです……! でも、やっぱり、ただ……怖くて……。あなたは凄く綺麗な人だから……もし、本物のあたしを見たあなたが、失望した顔をしてたらって、思ったら……どうしても出来なくて……。会えなくて……」

 「……」

   ♪

 「優しい人を、失いたくなくて……」


           ♪




 「でも……――」



 ♪ ――……がしゃんっ



 「あ・――……っ!!」



 突然、唇を塞がれた。


 触れた君は、とても温かく……





 「……っ……やっぱり……あたしのこと、見て……? あたしは、あなたが、――好きだから……っ……」

 菫は俺の手を握った。温かい。温かい。

 「小窓ごしじゃ、嫌なの……! 怖かったけど、会って、話す方が、ずっといいよ……なのに……ねぇ、どうして……そっちばっかり、見てないでよ……! あたしはここなの。菫が、あなたを好きなの……!」

 「すみ……」

 「また壊れるのは、嫌だよ……! ねぇ、あたし、あなたのお蔭で変われたんだよ……? 分かる……? ちょっとずつだけど、ちゃんと喋れるようになって。自分の気持ちを、言葉に出すことが出来るようになって……! こんなのと比べられるほど、塚松君の痛みは軽い物じゃないと思うけど、でもっ……塚松君が弟さんのことを思うように、私もあなたに憧れるから……そんな姿で、居て欲しくないよ……あたしが、助けたい……お願い、変わって欲しいの……! 崩壊を、崩してよ……!」




 目の前には、手の中には。体温があって。



 浩介じゃなくて。人形じゃなくて。





 そこには菫が居た。

 最初に言葉を交わした彼女からは、想像する事も出来ないような強い言葉を紡ぎ出す。



 自分が崩壊してる時、菫も崩壊してたのか。



 振り絞られる強いきもち。


 床に落ちている哀玩人形。









 慰めてくれたのは、誰?


 本当に触れて、支えてくれるのは、何?


 愛しい君は……









 そろそろ時間だと、浩介の声が聞こえた気がした。






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