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エピソード1 見抜かれた日常

どうもはじめまして、yさんです。初心者ですが応援してくれると恐縮です。

春の空気は、少しだけ軽かった。


校門をくぐりながら、黒瀬ユウは小さく息を吐く。


——これでいい。


もう、あの世界には戻らない。

もう、誰かを傷つけることもない。


「今日から普通の高校生だ」


自分に言い聞かせるように、心の中で繰り返す。


校舎に入ると、ざわざわとした音が耳に入った。

笑い声、足音、どうでもいい会話。


全部が、遠いものみたいに感じる。


——慣れろ。


教室の前で一度立ち止まり、ドアを開けた。


「はい静かにー。転校生来たよ」


担任の声で、一斉に視線が集まる。


「黒瀬ユウです。よろしくお願いします」


短く、それだけ言う。


余計なことは言わない。

目立たない。関わらない。


それがルールだ。


「席は窓際の後ろな」


指差された場所へ歩く。


その途中で、一瞬だけ違和感があった。


——見られてる。


ただの興味じゃない。

もっと、鋭い何か。


席に着いて、横を見る。


そこにいたのは、一人の女子生徒だった。


無表情。

少し鋭い目。


まっすぐ、こちらを見ている。


——なんだ。


軽く会釈だけして前を向く。


それで終わるはずだった。


「ねえ」


小さな声が、横から落ちてきた。


「……何」


視線を向けると、彼女は変わらずこちらを見ている。


「黒瀬、だっけ」


「ああ」


一拍、間があった。


そして——


「普通じゃないでしょ」


心臓が、ほんのわずかに跳ねる。


「は?」


反射的に返す。


けど、その声は少しだけ硬かった。


彼女は気にする様子もなく続ける。


「歩き方、重心、目の動き」


「全部、違う」


淡々とした口調。


決めつけじゃない。


観察の結果をそのまま言っている感じ。


——面倒なのに当たったな。


「気のせいだろ」


できるだけ自然に返す。


「そう」


あっさりとした返事。


それで会話は終わる。


……はずだった。


「別にいいけど」


彼女は前を向いたまま言う。


「隠すなら、ちゃんとやりなよ」


その言い方。


——疑いじゃない。


知ってる側の言い方だ。


「……何の話だよ」


少しだけ低くなる声。


彼女はほんのわずかに口元を緩めた。


「さあ」


興味なさそうに教科書を開く。


「私は何も知らない」


ページをめくる音。


それだけが、やけに大きく聞こえた。


「でも」


小さく、続く。


「あんた、“そっち側”でしょ」


背筋に、冷たいものが走る。


——なんだこいつ。


初めて、明確な警戒が生まれる。


チャイムが鳴った。


教師の声が教室に響く。


でも、その音はもう頭に入ってこなかった。


隣の席の女子。


白瀬ミナ。


——関わらない方がいい。


そう判断したはずなのに。


なぜか。


ほんの少しだけ——


目が離せなかった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


放課後。


ユウは誰とも関わらず、すぐに帰ろうとする。


廊下は少し騒がしくて、

どこにでもある“普通の学校”の空気だった。


——問題ない。


このまま帰れば、それでいい。


そう思った時だった。


「おい、転校生」


後ろから声。


振り向かなくてもわかる。

面倒なやつだ。


「ちょっと来いよ」


——無視でいい。


そう判断して、歩き続ける。


その瞬間。


腕を掴まれた。


「聞こえてんだろ」


ため息をひとつ。


——仕方ない。


一瞬だけ周囲を見る。


人は少ない。


目撃もされにくい。


条件は悪くない。


「離せ」


静かに言う。


「は?なめて——」


言い終わる前に。


手首の力を、ほんの少しだけずらす。


それだけで。


相手の体勢は崩れた。


「……え?」


気づいた時には、ユウはもう一歩後ろにいる。


何もしていないように見える動き。


「やめとけ」


低く、短く。


「今日は気分がいい」


それだけ言って、歩き出す。


後ろからは何も来ない。


——これでいい。


目立ってない。

バレてもいない。


“普通”だ。


そう思った、その時。


「全然、隠せてないよ」


足が止まる。


振り向かなくてもわかる。


その声。


白瀬ミナだった。


「……見てたのか」


「うん」


当たり前みたいに返す声。


「さっきの、無駄がなさすぎ」


「普通の人はああならない」


沈黙が落ちる。


言い訳はいくらでもできる。


でも——


この相手には通じない。


そんな感覚があった。


「バラす気はない」


ミナは壁にもたれながら言う。


「ただ」


少しだけ、視線を向けてくる。


「気になるだけ」


——またそれか。


ユウは小さく息を吐く。


「……関わるな」


そう言って歩き出す。


「無理」


即答だった。


思わず足が止まる。


「なんでだよ」


「だって」


ミナは少しだけ考えてから言う。


「同じ匂いするし」


その言葉が、妙に残る。


「……は?」


「こっちの話」


ミナはそれ以上何も言わない。


ただ、静かにこちらを見ている。


——なんなんだ。


理解できない。


でも。


完全に無関係とも思えない。


ユウは何も言わず、その場を離れた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


帰り道。


夕焼けがやけに眩しい。


——普通でいい。


それだけでいいはずなのに。


頭に浮かぶのは、あの目だった。


全部見抜いてるような、あの視線。


「……面倒なのに目つけられたな」


小さく呟く。


でもその声は——


ほんの少しだけ、

どこか楽しそうでもあった。

ご覧いただきありがとうございました。これからも「元最強の俺、普通の高校生やってるのに隣の無口女子にだけ全部バレてるんですが。」をよろしくお願いします。

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