転生したのは乙女ゲームのヒロインではなく二次創作の悪役令嬢でした。
異世界転生のタグをつけていますが、転生というよりは憑依に近いです。
逆ハーのタグもつけてはいますが作者の好みの都合上、ほぼその描写はありません。
なんの変哲もない、普通の平日に目を覚ますと、激しい頭痛とともに頭に映像が流れてきた。私はその映像に見覚えがあった。
「愛してるよ、僕の愛しのマリア」
センシマサ王国の第一王子、金髪碧眼、溺愛のユージン
「俺は、お前が好きだ、絶対、何があっても俺がお前を守る。命に変えてでも」
センシマサ王国次期騎士団長、燃えるような赤髪、情熱のヴィクター
「僕だけを見てよ、マリア。君の目に誰かが写っているだけで耐えられない。誰もいないところに閉じ込めてしまいたいよ」
センシマサ王国三大公爵マズリー公爵の次期当主、アメジストのような瞳を持つ嫉妬のリアム
「私はあなただけを愛しています」
センシマサ王国次期宰相、黒髪黒目、独占のゼノン
卒業パーティーで四人のイケメンがストロベリーブロンドの色の髪の女の子を囲み各々の言葉で愛を囁いている。
私はこの光景を知っていた。これは、
友達に「全クリが不可能」と言われ、渡された乙女ゲーム。不可能なんてない、と、無駄な負けず嫌いの精神でやり始めた『恋を君に』というゲームの逆ハーレムエンドの最後のシーンだ。
結局、負けず嫌い精神と、普段は大人びた風なのにも関わらず独占欲が強いゼノンの沼にハマってしまい、相当やりこんだゲームになった。
マリアという光属性を持つ平民の女の子が学園の四人のイケメンを攻略する乙女ゲーム。
四人一人一人との結婚エンド(〇〇エンド)と、逆ハーレムエンド(逆ハーエンド)、モブと結婚エンド(モブ婚エンド)がある。四人の誰かとのエンドと逆ハーエンドでの最大の敵はリアムの義理の姉、マズリー公爵家の長女でありユージンの婚約者のアズーラだ。
モブと結婚エンドでは、アズーラとマリアがひょんなことから仲良くなる。そこで明かされるのはアズーラの家庭事情。完璧であることを求められ、第一王子の婚約者であるということが唯一の価値だという刷り込み教育を受けてきたのだ。そこには身体的な罰も伴った。モブ婚エンドはゲーム制作者がアズーラのことを知って欲しいとしてつくられたエンドとも言われている。
モブ婚エンドが出て以降、アズーラを幸せにしてあげたい、と、アズーラを主人公とした多くの二次創作が誕生した。中でも人気なのは連載小説の『乙女ゲームに転生しましたが、逆ハーレムの一員になる婚約者なんてくそくらえです(通称、逆くそ)』だ。これは、日本のアラサー女性ががアズーラに転生して、その立ち回りによりユージンと婚約を破棄。ゲームの中ではモブキャラよりだが、非常に優秀でイケメンな7歳年上のユナマサ公爵の当主と結婚するのだ。ちなみに、中の人の精神年齢的には5歳、アズーラの方が年上だ。
私の記憶の中ではまだ逆くそは、完結はしていないため、最後までの内容は把握していないが、小説では、マリアは禁忌の魔術を使い、自分がかすかに持っていた魅了の魔法を強化し、王子達を誑かしたとして処刑になった。作者はマリアが嫌いだったのだろうな。
ユージンは、他の四人と差をつけるためにマリアに高価なプレゼントする、が、お金がなく国家のお金を横領していた。その罰で、王位剥奪の上で田舎へ。
ヴィクターは、騎士として正しい判断を下せなかったとして、地方の警備隊の1番下っ端に格下げ。
リアムは貴族身分を剥奪された上で着の身着のまま公爵家を追放されたらしい。
ゼノンの最後は、私が見た時の最終更新話には書いてなかったが、他三人と同じような末路を辿ったのだろう。
そして、私、真里は今、『恋を君に』の世界に主人公のマリアとしているようだ。
流れてきた映像は、前世の記憶なのか?とも思ったが、今起きたこの瞬間から、マリアの人格から、真里に完全に変わってしまっているからなんとも言えない。前の性格だった頃の記憶だけは残っているが、人格の要素は全く残っていない。これは、転生なのか、転移なのか、なんなのか、よくわからないが、考えても致し方ないので、一旦そこに関しては思考を放棄する。
「あぁ、ほんとにどーしよ、」
現実味がない話だが、私の中にあるマリアの記憶が、そよ風が、寮の部屋の木の匂いが、ここは現実だと訴えかける。
どこか、他人事のように思いながら昔の記憶を思い出す。そこで気づいた最悪の事態。ここは、おそらく、ゲームの世界じゃない。逆くその世界だ。
アズールにいじめられた記憶も、アズールが私に関わってきた記憶もないからだ。このままでは私は処刑一直線。なんなら、私の処刑が宣告される卒業パーティーがニヶ月後に迫っている。
「んー、だいぶまずいか」
流石に困った。とりあえず、
「アズールに会いに行こう」
そう言ってむくっと起き上がると、学校の準備を始めた。
考えが甘かった。学校に行けばアズールに会えると思っていたが大きな間違いだった。何が問題だったって、まず、四人のイケメンを私から引き剥がすことだ。たとえ引き剥がせたとしても、私からとことん距離を取るアズールを、四人を引き剥がせる短い間だけで見つけることは至難の業だった。
アズールとの接触が叶ったのは、記憶を取り戻してから一ヶ月半、つまり、四人と距離をとりながらアズールを探し始めて一ヶ月半、そして、私の処刑まであと半月となってからだった。
卒業間近なこともあり学校の授業はほとんどなかった。そのおかげで、ほとんどの時間が四人も距離を取るための研究とアズールのいそうな場所の探索に費やせた。
いかなる理由をつけても四人はついてこようとするし、めちゃめちゃ大変だった。あと、私が好きなのではなく魅了の魔法のせいで一緒にいることはわかっていても推しが自分の近くにいるのも心臓が持ちそうになかった。
ちなみに、四人から離れるためにいろいろなことをやってみたが、ほとんど、徒労にに終わった。たった今偶然、四人が少し目を離した隙に昔のバスケの瞬発力を生かした全力疾走で抜け出してきた。
走りながら、アズールがいそうなところを考える。ここにいるだろう、と目星をつけたところに彼女はいた。今日しかない、と思い、目隠しの結界を張る。
光の魔法とは便利なもので、癒し以外にも様々な機能がある。例えば、目隠しの結界が張れる。ただ、目隠しができるだけで魔力は隠しきれないため、四人には結構すぐに見つかってしまう。
そして、目隠しの結界を使ったことがばれようもんなら、四人から問い詰められることは避けられない。
ただ今は四人から結構離れたし、万が一四人が来ても時間稼ぎに少しは役立つかもしれない。ないよりは、あった方がいいだろうし。
「はぁ、はぁ、アズール、様、少し、よろしい、はぁ、ですか、はぁはぁ」
肩で息をしながら途切れ途切れにいう。そんな私を見てアズールは嫌そうに
「手短にお願いします」
回りくどく言っても嫌がられるだろう、と、ふぅっと深呼吸をして、
「君に恋をって知ってますか?」
直球に聞いた。
「…なんでそれを?」
私の話が予想外だったのか、アズールは目を開いた。私は、私の記憶をだいぶ脚色して伝えた。
「私は一ヶ月半前、あなたに接触を図り始めた日に前世の記憶を思い出したの。あなたがゲーム内のアズールとは違う行動をしていることから、あなたはもしかして、ゲームのことを知ってるのかもしれないと思って」
流石に、『あなたは小説の登場人物なの』とは言えないよ。困らせちゃうからね。年上の人に話す口調でもないけど、見た目は同い年だから許してほしい。
アズールは、少し戸惑っていそうだ。はてさて、どうしたものか。
「二つ伝えたいことがあって、一つ目は、私はあなたの幸せを邪魔するつもりはないよ。アズールは私も幸せになって欲しいキャラだったしね」
アズールはまだこちらの真意を測りかねているようだ。
「二つ目は?」
「二つ目は私はモブ婚エンドを目指したいの。何人もの人が夫とか、ゴリゴリの日本人の私には、だいぶハードルが高いからさ」
「確かにそれはそうね。ゲームならまだしも現実世界だとねぇ」
「でしょ?で、知ってるか知らないかわかんないけどさ、どうやら記憶を取り戻す前、マリアは魅了の魔法を無理やり強化しているみたいなの。多分逆ハーはそれが原因なんじゃないかな?って思ってて。使い方とか全くわからないから、使えないと思うんだけど常時垂れ流しスタイルだったらどうしようかと思って… 、でもポンコツ四人には相談できないし、私友達いないし…」
「で、思いついたのが同じく前世の記憶を持っていそうな私だったってわけね」
「そゆこと!」
あったまいいー!と言いながらパチンっとスナップをすると、アズールは呆れたように肩をすくめて、
「んー、でも困ったわね、私逆ハーに向かう時のあなたのことはそんなに好きじゃなかったから、ぶっちゃけ、どうなってもいいかな?って思って、第一王子との婚約を解消するためにあなたを悪者に仕立て上げようとしてたんだけど…」
「できれば、それ本人の前で言わないでほしかったわ」
「あ、ごめんね。とりあえず、私の協力者に相談してみるわ」
「お願い。でも今後私たちが接触し始めたら怪しむ人、出てくるかな?」
あ、と思いつきを言ってみると、
「そもそも、あなた、逆ハールートまっしぐらだったから四人を引き離すのも一苦労でしょ?特によく、ヴィクターを引き剥がせたわね。あの猛獣、一回逃げたって足の速さで落ち着かれるでしょ」
確かにそもそも二人きりでの接触が難しいのだ。
「駆け出す直前に、ちょっと足踏んだんだ…」
私がバツが悪そうに目を逸らすと、アズールは一人で大笑いし始めた。
そんな笑うところかいな、と、アズールをじとっと眺めたつつ、んー、連絡手段かぁ…と迷っていると
「マリアー、マリアー」
と私を探すゼノンの声が聞こえてきた。どうやら、時間切れのようだ。流石に目隠しの結界を使ってることがバレたら何をしてたのか怪しまれて問い詰められる。
今の感じだと、なんとなくの場所しか分かっていないようだから、今結界をなくしてひょこっと出てくれば問題ない。
「今日の夜、あなた寮の部屋にいる?」
アズールも時間切れと考えているのか、早口で聞いてきた。
「いるよ」
「わかったわ。あと、あなた今下手に動いたら監禁されかねないから、四人から離れようとしていること、バレないようにしなさいよ。じゃぁ、私は声とは反対方向に行くから、また今夜。十二支を思い出しておいてね」
「ありがとー」
なんで急に十二支?と思ったが、とりあえずアズールと離れた。
四人にどうしたのかと問い詰められ、
「ごめんごめん、先生に言われた用事忘れてたの思い出して」
ヘラヘラと笑いながら答えた。
夜。私の部屋に珍しく、手紙が届いていた。
ネズミが四匹描かれていた。多分これは
『子四つ』
だから、十二支を思い出しておいてね、か。午前1:30〜2:00ね。起きられるかなぁ。
「というか、どこから入ってくるんだろう。一応学園寮だから、警備システムとかちゃんとしてそうけど…」
どこからきてもいいように、とりあえず1:20頃から自室の窓を開けておいた。
アズールと、アズールが協力者という男性、ユナマサ公爵は、1:30ぴったりにきた。
窓を開けておいたのは意味がなかった。なぜなら二人はユナマサ公爵の転移魔法できたからだ。忘れてた。ユナマサ公爵はめちゃめちゃ魔法が得意だったんだ。
いそいそと窓を閉めると、
「あら、お気遣いありがとう」
と、アズールが笑いながら言ってきた。小馬鹿にされた。
「いえいえ、転移魔法という便利な魔法があることをすっかり忘れてたのよ。えっと、ここでは昔の名前呼んだほうがいいかな?そっちのほうが誰かに話聞かれてたとしてもわかんないだろうし」
「そうね。私は梓よ。あなたは?」
「私は真里。そっちは、権兵衛とでも呼んでいい?」
「なんで権兵衛なの?」
梓が笑いながら尋ねる。
「あっちの世界の名前はないだろうし。名前がないなら名無しの権兵衛だから、権兵衛」
梓は一人でツボに入ってしまった。ひとしきり笑い終えると、ふぅっと息を吐いて
「権兵衛さん、何かわかりました?」
と権兵衛さんに尋ねる。
「うん。えっと、真里さんだっけ?君は禁忌の魔法を使った?」
「使ってそうですね」
私は平然と答える。
「んー、僕が今できることは一つ。君の魔法をなくすこと。ちなみに光の魔法も使えなくなるよ。君の中にある魔力を引っこ抜いた上で、魔法の核を壊すから」
え?それ死なない?まぁ、多分大丈夫か。
「あぁ全然それで構わないんでやっていただけると嬉しいです」
権兵衛さんはパチパチと目を瞬いた後、
「ねぇ梓、この人ってこんなタイプだったっけ?」
と不思議そうに尋ねた。
「彼女はこの前、前世の記憶を取り戻したみたいよ。彼女の場合、転生というよりは憑依に近そうだけどね」
「へぇ、梓以外にもそんな人いるんだねぇ。あ、もう君魔法使えなくなってるから」
わお、いつのまに??痛みがなくて安心した。確かに言われてみると、今まで体を巡っていた魔力も無くなっているし、魔法も出せる気がしない。
「真里はこの後どうするの?」
「私は光魔法のおかげでこの学園にいるから、魔法が使えなくなったと言えば退学にされるはず。だから、四人が迎えにくる前に寮を出て朝イチで学園に退学届を出したら、早々に出て行こうと思う。四人が今まで私を発見できていたのは多分私の魔力があってこそだろうし、魔力が無くなったいま四人がわたしの探索をするのは無理だろうからね。しかも全員魅了の魔法にかかって私を好きなだけだし。魔法が解けたら私のことも興味なくなるでしょ」
「なるほどね」
梓は顎に手を当てながら、まぁ、一人は例外でしょうけど。と、日本人とよく似た容姿をした男を思い浮かべながら、ボソッとつぶやいたが、その声は真里には届かなかった。
「ん?梓、なんか言った?」
「なんでもないわ、気にしないで」
「しょうがないから逃亡の用意はこっちでしてあげるよ」
「権兵衛さん、優しい」
目をキラキラさせると、
「君がポンコツダメ男を惹きつけてくれたおかげで僕は梓と出会えたからね。君には感謝してるんだ」
ポンコツダメ男、それはこの国の第一王子のことだろうか。あはは、と空笑いをする。
「じゃぁ、私たちはこれで」
「ばいばぁい!お幸せにね!」
「あなたこそね」
そうして二人はまた魔法でさっていった。
◆◇◆
公爵邸にて、
「アズール、ほんとにあの人にあいつのこと伝えなくてよかったの?」
「いいんじゃない?あの子はきっと私と接触ができたのに、裏からの協力者がいたなんて気づいてないわよ」
「あいつ、そういうの上手いもんな」
「最初すごい嫌がってたのに。この歳になって学生のフリですか!って。でも、この一ヶ月ちょっと、あの人楽しそうだったわよね」
「うん。もう、うざいくらいにね。あいつが俺がアズールと出会った時に言った言葉をそのまま返してやったよ」
「仲良いいわね。あ、そうそう、ほんとにあなたが逃亡の用意するの?」
「一言も俺がするとは言ってないだろ?今回の計画あいつにも話したら、やらせれくれってさ。逃亡の用意もあいつが全部やってくれるって」
「こっちでやるよ、って…詐欺ね…」
「あいつもこっち側だから、嘘はついてない」
「まぁそれもそうね。あの人は、あのままあの子のこと、連れ去って国外逃亡?」
「うんん、違うよ。ちょうど明日の午後くらいから、第二王子がクーデター起こすっていうか、第一王子を糾弾するから、それ終わったら帰ってくるって」
「あぁ、それがあったからあの子を利用しなくても良くなったのね」
「まぁ、元凶は彼女だけどやったのはポンコツ自身だから、ポンコツだけ裁かれればいいしね。あとは、今あの人を裁いてみろ、確実にあいつに殺される。ベタ惚れだしね。あいつ新婚旅行とか言ってウキウキしてて、俺は幼馴染ながらあいつが怖いよ」
「まだ結婚できるって決まったわけでもないのにね…」
「ほんとだよ、本人に聞いたら落とすからいいんだって」
「あらかっこいい」
「ふんっ」
「でも、私にとってはレオンの方がかっこいいわよ?」
「知ってる」
「そういえば、あの人から、あの子が私と接触を図ってるって聞いた時何を企んでるんだろうと思ったけど、まさかあの子も転生者だったとはなぁ」
「流石のアズールでも予想外だったの?」
「流石にねぇ。不思議な出会いもあるのね」
「俺一つだけあの人の行動予測できるかもしれない」
「ん?」
「明日、思ったよりすんなり退学の手続きが進んだら、あの人は俺たちが手を回したって思うよ」
「確かにそうかもしれないわね。実際手を回したのは、あの人だけどね。あの子、あの人を見たら一旦逃亡を図るでしょうね」
◆◇◆
梓たちがさった後、寮の部屋の荷物の片付けをして、私は6:00学校に向かっていた。誰かの攻略の時に、校長は毎朝6:00には学校にいる、みたいな設定があったのを思い出したからだ。
ユナマサ公爵が話をつけてくれていたのだろうか、私の退学の話はすんなりと通った。
ユナマサ公爵は私の逃亡経路をどこに確保してくれているのだろうか、とキョロキョロしながら静かな校内を歩いていると、
「どうしたのですか?マリア様」
聞き馴染みのある声が聞こえて、ビクッとしながら恐る恐る後ろを振り返ると、
「ぜ、ゼノン…」
そこには攻略対象の一人、ゼノンがいた。なんで?と思い逃げようとするが、腕を掴まれる。
「はいはい、逃げない、逃げない。レオンから話は聞いていますので、大人しくしてください」
「レオン…?」
「あ、あの人たちは、肝心なことを伝えていないのですね。まったく。えっと君は昨日ゴンベエと梓と話しただろ?」
「え?なんでそれを?」
私の背中に冷や汗が垂れる。
「それでレオンが言っていたでしょう。逃亡の用意はこっちでしておくって」
「え?」
確かに言っていた。そう言えば、ユナマサ公爵の名前、レオンって設定だった気がする。
「そして、その逃亡に用意された、というか、あなたの逃亡のお手伝いに名乗りをあげたのが私というわけです」
頭が追いつかなかった。
「あなたは私たち四人が全員、魅了の魔法にかかっていたと思っていたのですか?他のポンコツ三人は知りませんが、私ただ陛下に言われて、あなたを見張るように言われていただけで、魅了の魔法にはかかっていません」
「へいかの、めいれい?」
「はい、あ、私時期宰相候補なのは、事実ですが、あなた方より七つ上です。いくら童顔だからって流石に学生の真似事は…と思いましたが、意外にバレないものでしたね」
もう頭の中がパニックだ。パニックどころの騒ぎではない。いくらなんでも、小説で変な設定つけ加えすぎだろ。
現実逃避からか、逆くその作者に文句を言う。
「よし、ほら、ポンコツたちがくる前に逃げますよ」
権兵衛さんもそうだが、この二人は他の攻略対象のことをポンコツと呼ぶらしい。
「は、はい」
と返事をすると、まるでなんてこともないようにゼノンは私のことを横抱きにする。
「あ、、あのう、今どういう状況で?」
「?、ポンコツたちが断罪されている間の旅行へ向かうところですよ」
違う聞いているはそう言うのではない、なぜ私がお姫様抱っこをされているか、だ。だが、それがどうでも良くなるくらいよくわからない発言をゼノンがした。
「旅行?」
逃避ではなく?
「はい、旅行です。覚悟してくださいね?魅了の魔法にかからずにこの一ヶ月半であなたにすっかり惚れた男の独占欲を」
なぜこの男は、私が受け入れる前提で話をしているのだ?
「だって、あなた、私のこと好きでしょう?」
痛い、痛いよ?年上がそれを言っちゃうのは痛い、痛いんだけど、否定もできず、私にできたのは、真っ赤にした顔を隠すだけだった。
そして、そのまま旅行に連れ去られた。
◆◇◆
国外へと出ていく二人を見送る影が二つあった。
「さすがねぇ、手練手管感があるわね、ゼノンは」
「あれでも恋愛童貞だぞ、あいつ」
「あら?そうなの?」
「愛が重めな代わりに惚れるまでのハードルが高いんじゃないか?」
「それにしてはマリアに一瞬で惚れたわね」
「確かにな」
「まぁ、いいカップルよね」
「俺らには劣るけどな」
「まぁそうね、そういえば、あなたは仕事に戻らなくていいの?」
「俺だって旅行に行きたい」
「流石にだめよ。第二王子の最側近が二人も急に消えてしまうのはよくないわ」
「はぁ、めんどくさい」
「私も手伝うから」
◆◇◆
2年後
「マリア、何してるんですか?」
「え?運動を、と思って」
「その体で動き回らないでください。流石に閉じ込めますよ?」
「私今まで何回あなたから監禁未遂くらったと思ってるの?アズールがいなきゃ私本当に今監禁生活送ってるわよ?」
「監禁とは人聞きの悪い。ちゃんと衣食住にも何も困らせませんよ。ただ、外に出れないだけで」
「それが嫌だって言ってんじゃん!」
「そもそも、今は自分一人の体じゃないのですから…。あなたがあなた自身を大切に扱うことは、お腹の中の子を大切に扱うことと同じなんですよ?」
「それは、ごめん」
「はいはい、あぁ、私の妻は拗ねても可愛いですね…本当に閉じ込めてしまいたい」
「最後のその言葉が本当にいらない!!」
お読みいただきありがとうございました!!
途中で主人公の名前を変えたら、変え忘れていた箇所があり訂正しました。すみません…。