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Traumel  作者: アヤノ
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第1章 出会い -2-

美佐子とロナルドの頭が下がったことで、香耶の視界がぱっと広がった。初めて見渡せた部屋の中、最初に視界に飛び込んできたのは、一人の男だった。

ロナルドも美佐子が言うように確かにかっこいいが、それとは比べ物にならない程美しい男だ。サラサラした金色の髪に、空の色を切り取ったかのようなブルーの瞳。まるで物語に登場する王子様のようだ。そんな男が、長い脚を器用に組んで、興味深そうな顔で香耶の方を見ていた。



「……誰?」

「ばっ!香耶!!頭下げなさい、頭!!」



香耶の台詞に慌てたように美佐子が香耶をベッドの上から引きずり降ろして無理矢理頭を下げさせる。そんな慌てる2人の横で、ロナルドはピクリとも動かない。美佐子は確か、ロナルドは上層部の人間であると言っていたはずだ。そんな彼がこんなにしっかりと頭を下げるのは余程の権力者なのだろう。昔は身分のお高い人の機嫌を少しでも損なうと罰せられたりしたんだよな…と嫌なことを思いだし、香耶の背中にツッと冷や汗が流れた。



「頭を上げてくれ、3人共。わかっていると思うが、私はそんなことを望む人間ではない」

「はい」



男の声に、ロナルドがそんな返事をしたものだから、香耶は下げていた頭をあげ、男の方を見る。てっきりロナルドの方を見ているだろうと思っていたのに視線がしっかりとかちあってしまい、香耶は慌てて視線を反らした。どうやら男にそう言われて1番初めに頭をあげたのが香耶だったらしい。美佐子とロナルドの頭が今ようやく上がったところだった。



「しかしまさか、本当に鏡から人が出てくるとは思わなかったな」

「何を仰いますやら…私の婚約者が鏡に入っていく際同席して戴いたではないですか」

「まあ…あれはイマイチ夢だったような気がしていて…今回のではっきり夢じゃないとわかった」

「それは何よりです」



慣れているのであろう、ロナルドの男に対する態度はどれも丁寧だ。残念ながら、庶民出身の香耶にはこんな応対は到底できない。きちんとした言葉で話すのはせいぜい電話応対ぐらいのものだし、接する機会のある偉い人といえば会社の社長くらいのものだ。お門違いだとはわかっているが、フレンドリーすぎる会社の社長を恨まずにはいられない。



「さて…カヤ、だったかな?」

「は、はい!!」



いきなり名を呼ばれて、妙に背中がシャキっとする。気を付けの姿勢のまま、男の顔を見る。やはり美形だ。日本では滅多に見れないその造形に思わずウットリしてしまう。いかんいかんと気を引き締める為に男の瞳を見つめる。本当に吸い込まれそうなほど綺麗な青色だ。

そんな香耶の様子を見て、何が可笑しいのか、男は香耶から目を反らし、クツクツと笑った。



「……何か?」

「いや、なんでもない。異世界の人間とは本当に不思議だなと思ってな」

「…え?私を見てそう思ったんですか?」

「まあ…それだけというわけでもないが…今改めて思った理由を強いて言うならそうなるな」

「……それは…嫌味と取っていいものでしょうか?」



香耶の言葉に、男は一瞬驚いたように目を丸くした後、ハハっと声を出して笑った。

そんな男の態度にどう対応するべきか困っていると、美佐子が横からツンツンと肘で香耶を小突いた。



「…何?」

「あんた、目上の人に対する対応明らかに間違ってるわ…」

「え?嘘!?ちゃんと丁寧に話したでしょう?」

「……本当…これだから帰宅部出身の緩い会社勤務は嫌になるわ」



そう話しながら、美佐子は盛大にため息をついた。

どうやら香耶の目上の人に対する対応は間違っていたらしい。同じ日本出身の美佐子から見ても。しかし、自分では丁寧な対応をしているつもりなのでどうしようもない。これで処刑と言われたら、例え結婚式に出られなくても今すぐ日本に帰ろうと香耶は心の中で強く決心した。



「まあ、別に私は不快ではないから構わない」



男はそう言ってにっこりと笑った後、ゆっくりと立ち上がった。その造作もかなり洗練されている。そして男はそのまま部屋の扉の方へと歩いて行った。



「さて、カヤ、行くぞ」

「……え?私?私も一緒にですか?」

「当たり前だ。この国でミサはロナルドが後見人になるから良いが、お前はいないだろう?」

「え……んじゃあ私もロナルドさんに…」

「何を言ってる。私がなろうと言っているんだ」



香耶の台詞に眉間に皺を寄せそう言った後、男はああと思い立ったように口を開いた。



「私が誰かわからなくて不安だったのか?」

「え?いや、そういうわけでもなく」

「そういえば自己紹介をしていなかったな……」



香耶の言葉を思いっきり無視してそう言うと、男は香耶の前まで歩いてきて、香耶の目の前に手を差し出した。



「私はこの国の近衛隊の隊長のグランツだ。お前のこちらでの生活は私が保証しよう」



だからついて来いと言わんばかりに、グランツと名乗ったその男は、差し出した手を更に香耶の方へと伸ばしてくる。

近衛隊の隊長と言えば王宮での生活をしているというかなりリッチな、そしてかなり身分のお高い人だったはず、と香耶は居酒屋での会話を思い出した。

この申し出を下手に断れば、彼の部下であるロナルドに迷惑をかけることになるかもしれない。しかし、何より香耶にはこれを断る理由がない。ふと現実を見ると、こちらの世界では香耶は一文無しのここにいる人間以外からすれば正体不明な人間なのだ。


深く考えることもなく、香耶は「宜しくお願いします」とその手を握り返した。


ようやくここまで

21日訂正のみ!

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