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Traumel  作者: アヤノ
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第0章 全ての始まり




「え…今………なんて言った?」



桜町香耶は、手に持っていたカシスオレンジのグラスを無意識の内にカタリとテーブルの上に置き、自分の目の前に座り、幸せそうににこにこ笑う鈴原美佐子に尋ねた。





====================================



「あのね、私結婚することになったの」



話があるから飲みに行こうと誘われ、勤務時間が終わっても中々仕事が片付かず、今度飲みに連れて行くからと約束をさせられつつ、ブーブー文句を言う後輩に任せ、大慌てで行きつけの居酒屋にやってきた。当たり前のようにそこに美佐子は居て、香耶が席に座り謝ろうとする前に、彼女は開口一番にそう言った。


香耶と美佐子は、高校時代からの親友で、遊びに行くときも旅行に行くときもいつも一緒。プライベートはお互い知り尽くしている仲だ。そんな彼女からのいきなりの報告に、香耶はびっくりして一瞬頭を真っ白にした。我に返れたのは、店員さんが香耶におしぼりを渡し、ドリンクの注文を取りにきたからだ。

美佐子はそんな香耶を、さも面白いものを見るような目で見つめていた。



「えっと、え、きょ今日エイプリルフールじゃないよね?」

「うん」

「……ほ、本気?」

「本気も本気。もう結婚式の日も決まってるのよ」

「え…えええ―!?」



いきなりのことに頭が追い付かず、香耶はパニックになって先程もらったおしぼりをたたんだり開いたりを繰り返した。美佐子はそんな様子を見てクスクス笑っている。その笑顔が余りにも幸せそうで、香耶は彼女が嘘をついていないことをなんとなく頭では理解した。しかし心がついていかない。



「で、でも……付き合ってる人がいること自体、知らなかった、よ」



そう、その事実が香耶にとってショックが大きかったのだ。

今までずっと一緒にいて、お互い知り尽くしていると思っていた。先日会った時も彼女は恋人のこの字も話題にせず、仕事の愚痴がメインテーマだった為、まさかそんな話が降って出るとは思わなかったのだ。仕事をやめようかなと思っているということだけは、まるで恋人同士のように毎日交わすメールで知っていたので、その話だろうと思っていたのに。

それなのに、まさか、結婚だなんて。



「うん、ごめんね。隠してたことは本当に悪いと思ってる」

「……」

「香耶に言いたくないわけじゃなかったの。むしろ言いたくても言えなかったって感じで…」

「本当に?」

「本当。大体、この結婚の話も、最初に話したの香耶だからね?言えなかっただけなの」



信じて、と言われると信じるしかなかった。コクリと頷けば、美佐子も安心したようにほっと一息ついた。まだちょっと納得できない部分はあるけれど、でも大親友が結婚という人生の一大イベントを迎えるというのに、拗ねてばっかりいるのは何となく子どもっぽいと思ったのだ。まだ少し心配そうに自分の方を見つめる美佐子を見る。



「おめでとう!心から祝福するよ!!」



にっこり笑ってそう言うと、美佐子は一瞬目を見開いた後、大きな瞳をウルウルさせた。

「お待たせしました」と店員さんが先程呆然としたまま香耶が頼んだカシスオレンジと美佐子のビールを運んできた。泣きそうな顔をしている美佐子に一瞬ぎょっとしていたが、何もなかったように店員さんは軽くおじぎをして去って行った。その後ろ姿を見送った後、香耶は自分のグラスを持ち、そして美佐子にも持つように促した。



「ほらほら、おめでたいことなんだからさ、せっかくだし…こんなとこだけど乾杯しようよ?」

「…うん」



グズっと鼻をいわせた後、美佐子もビールジョッキを持ってお互いかんぱーいとグラスをぶつける。香耶は勢いつけてそれを飲み、そしてテーブルの上に置いた。



「えーでもさ、いつ頃知り合ったの?」

「んーっとね…1年くらい前、かな?」

「いっ!?そんなに前…」

「うん…でも、これもまた微妙なんだけどねー」

「はあ、まあいいや。なんか落ち込むし…んで?何してる人?芸能人とか?だから言えなかったとか?」

「あはは!違うよ、キシだよ」

「……あ、ああ、医師か。そりゃまた高給取りを見つけたわねぇ」

「違う違うキシだってば!馬に乗って、剣持って…まあ一応近衛隊士だから高給取りっちゃー高給取りだけど」

「……え?キシって…はあああー!?騎士!?あの歴史の教科書とかに出てくる?」

「うん、そう。これがまたかっこいいんだー隊長クラスには負けるけどさ」

「……」



香耶は、うっとりとした表情を見せる美佐子に顔をひきつらせた。

美佐子は昔から妄想しがちだったが、同じぐらい妄想癖の激しい自分を基準としていたので、彼女がまさかここまでだとは思っていなかったのだ。やっぱり仕事で何かあって…と香耶は先日職場の上司とうまくいっていないと言っていた美佐子の話をもっと聞いておくべきだったと激しく後悔した。

そんな香耶の心配そうな顔を見て、美佐子はふふっと笑った。



「ごめんね、言い忘れてたんだけど…」

「なーに?」



そう言いながら、香耶はグラスに手を取り、カシスオレンジで少し乾いた喉を潤した。



「彼、異世界の人なの」

「…………は?」




そうして、冒頭へと繋がるのである。


しばらくはこまめに連載予定です。

おかしいとこ訂正!したりレイアウトかえたり、今日だけは色々いじくってます(ごめんなさい)

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