Ep.1彼女の見た世界 ※彼女視点です。 パターン1
※彼女視点です。
173回目。
まただ。
私の目の前には、何度も見たぼんやりとした道路の光景。埃っぽい空気の中、また同じ出来事が起きる。それは、彼の破滅への秒針のように私には聞こえる。
彼はもう一つの時計を持っていた。
「ああ、まただ」私は心の中でつぶやく。私自身もこのループの一部だから。彼が時計を手にするたび、時間が歪み、私たちはこの光景に戻される。初めて彼が小さな懐中時計を手に取ったあの日から、もう数えきれないほどの時間が過ぎた。
彼は…、まだ分かっていないその時計の力を…
私は彼に近づこうと一歩踏み出す。だが、私の体は透明な壁に阻まれ、それ以上進めない。この壁は、彼の時計が刻む時間の檻なのだ。助けなければ…彼は死ぬ
彼は横断歩道を歩いた。そして、その視界の端に、猛スピードで迫る黒い影。トラックだ。けたたましいブレーキ音も虚しく、その巨体は彼めがけて一直線に突っ込んでいく。
「──!」
私は「(またか……)」、ひんやりとした金属の感触を掴む。古びた懐中時計。
それを、ぎゅっと握りしめた──そして、
世界は、一瞬にして静寂に包まれた。
猛スピードで突進していたトラックのタイヤは、アスファルトの数センチ手前でぴたりと止まり、その姿はまるで彫刻のようだった。耳障りだったセミの声も、どこかから聞こえていた鳥のさえずりも、そして、肌を撫でるはずの風さえも、すべてが、消え失せた。
「危ないところでしたね、あなた。もしかして、時計を持っていますか?」
彼は振り向いた。
彼は「えっ…?」と言って呆然として立ち尽くしていた。「やはり、持っていたのですね。よかったわ。それがあれば、大丈夫」
彼の腕の中で時を刻むその懐中時計は、古びた真鍮製で、何の変哲もないように見える。だが、私は知っている。その小さな文字盤の裏に、どれほどの途方もない力が秘められているかを。
その力に気づき彼が時計を手放すその日まで…、私は決意を新たにする。
今度こそ、彼を救うために。…