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9・黒ずくめとの戦い


「チィッ!」


 刃を受け止められた相手は、小さく舌打ちをしながら軽やかに後方へ飛び退いた。

 鋭い眼差しでこちらを睨む黒ずくめの人物。

 その動きは俊敏で、まるで影のように実体を捉えにくい。


「お前は……あの時の!?」


 その聞き覚えのある声は……!

 はっとして後ろを振り向くと、新皇帝ライアスが片膝を床に付けた体勢でこちらを見上げていた。


 彼の翠玉の瞳が驚きの色を湛えながら、まっすぐ私を見つめている。


「ユノ!」


 遅れてオリバーさんが駆けつけてきた。

 私は再び相手の方に視線を戻す。


 黒ずくめの装束を着た人物が、鋭い光を帯びた曲刀を構えている。


(この辺りでは珍しい武器だ……)


 禍々しい曲線を描く刀は、見る者に不安を抱かせる異質なものだった。

 それだけでなく、この相手はまるで幽霊のように気配を殺している。

 こうして視界に捉えていても、本当にそこに存在しているのか分からなくなる。


 黒ずくめは音もなくこちらとの間合いを詰めると、曲刀で攻撃してきた。

 不規則に飛んでくる剣筋にギリギリで反応し、どうにかブロードソードで弾く。


 しかし、相手の剣筋は奇妙で、まるで掴みどころがない。

 流れるような軌道で飛び交う攻撃を、必死に弾き続ける。


「つっ!?」


 鋭い痛みが頬を走った。

 気づけば血が一筋、肌を伝って落ちる。


(全部弾いたはずなのに……)


 だが、現実は違った。

 敵の剣が僅かに軌道をずらし、私の皮膚を捉えたのだ。


(剣筋が読めない……)


 騎士団長の一族に生まれた私は幼い頃から帝都にいる様々な剣士達の流派を見てきた。

 でも黒ずくめの剣は、今まで見たこともない独特の剣だ。


 なので相手の攻撃の筋を読むことができない。


(ならば、読むのではなく、見るしかない)


 私は一旦間合いを取ると、剣を構えなおし目を閉じた。

 呼吸を整え、意識を研ぎ澄ます。


 目を開くと視界の中心に黒ずくめだけが映る。

 余計な情報を排除し、敵の動きだけに集中することで、相手の動きが僅かに遅く見えた。


 敵が再びこちらに向かってくる。


 その動きが少しだけ遅く見える。


(そこだ!)


 法則性の読めない剣筋が一瞬止まる。

 そこをブロードソードで弾く。


「!?」


 攻撃を完璧に弾かれたのが想定外だったのか、相手が僅かに動揺した。


 隙を逃さず、全力で斬りかかる。


「はあっ!」


 一閃。

 甲高い音と共に相手の曲刀が宙を舞った。


 武器を失った黒ずくめが後方に下がる。

 逃げるつもりか。

 ここで逃がすわけにはいかない!


「待てっ!」


 ドクン!!


「うっ!?」


 突然、心臓が激しく鳴り響き、視界が揺らいだ。

 思わず足が止まる。


 それを見計らったように黒ずくめは、振り向き様に懐から小刀を取り出し投げつけてきた。


 私はそれをどうにか剣で打ち落とす。

 けれど視線を戻すと、黒ずくめは既に闇に消えてしまっていた。


「はあ……はあ……」


 息が乱れる。

 激しい戦闘による疲労が一気に押し寄せてきた。

 どうやら私の体力が尽きてしまったらしい。


 あのくらいの運動量でへばってしまうなんて。

 私もまだまだ修業が足りないな……。


 私は剣を鞘に納めるとライアスの元へ歩み寄った。


「はあ、はあ……お怪我はありませんか? 陛下」

「ああ。俺は何ともない。だがお前こそ大丈夫か? 苦しそうだが」


 胸が締め付けられるように苦しい。

 呼吸が荒く、思うように言葉が出ない。


 やっぱり無理が祟ったのかな。


「平気です……それより陛下、まだ敵が近くに潜んでいるかもしれません。お部屋までお送りいたし……」


 そこまで言いかけて、フッと全身の力が抜ける。

 バランスを崩して倒れそうになる。


 だが、ライアスが素早く両手で私を受け止めてくれた。

 彼の腕の中にすっぽりと収まる形になる。


 ライアスの綺麗な顔が、目の前に映る。

 私の顔を、心配そうに覗いている。


 彼の瞳を見つめているうちに顔が熱を帯びていくのを感じる。

 やばい。何赤くなってるんだ、私。

 この人は皇帝陛下だけど、失礼な人で……。


 いや、今はそんなことより立ち上がらなきゃ……。

 この人は一応皇帝陛下なんだ。手を煩わせてしまってはいけない……。

 何とか立ち上がろうとしても、身体に力が入らない。


「全く……こんな身体でよくもまあ、無茶をする」


 微笑を浮かべながら、優しく身体を支えてくれるライアス。


「だが、そなたには助けられたな。感謝する」


 その言葉を聞いて胸が熱くなるのを感じた。

 この人、ひょっとしてそんなに悪い人じゃないのかな。


「陛下! どうかなさいましたか!?」


 騒ぎを聞きつけた騎士や兵士達が駆けつけて来たようだ。


「俺のことはいい。それより……」


 指示を出すライアスの声が遠くなっていく。

 どうやら私の体力は限界を迎えたらしい。


(ああ……もう、限界……)


 暖かなライアスの胸に身体を預けながら、私は意識を手放した。



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