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8・宮廷の影


 今日も訓練場では兵士達が汗を流していた。


「今日もハードメニューだよなぁ」

「仕方ないよ。ここんとこ任務続きで碌に稽古出来なかったし」

「だとしてもちょっとキツすぎるぜ……」


 兵士達のボヤキが聞こえてきた。

 私もそこは同意しておく。


 剣術というのは日頃の積み重ねが重要だ。

 1日サボると遅れを取り戻すには1週間分の稽古が必要になる。

 実家にいた頃剣術の先生からそう教えられたっけ。


 だとしたら私は数年単位でサボってたわけだから、一体どれだけ稽古を積めば遅れを取り戻せるんだろう。

 考えただけでゾッとする。

 でも不思議と焦りはない。


 木刀を握る手に力を込める。

 呼吸を整え、上段から下段へと素振りする。


 私はこういう地道な稽古が好きだ。

 剣を振っている間だけは、いろんなことを忘れて集中できるから。


 両親から必要とされないことも。

 夫から愛されないことも。


 訓練場の外では向き合いたくない現実が多すぎる。

 ここに来るまでは私の人生は灰色だった。


 でも、剣術の稽古を再開してから毎日が楽しい。

 心地良い充実感を味わえている。


「おーい、ユノ! そろそろ休憩しないのか?」


 呼ばれてはじめて訓練場にもう自分一人しかいないことに気づいた。

 夢中になっててみんながとっくに休憩に入っていることに気付かなかった。


 詰所は宮廷の近くにある建物だ。

 宮廷警備隊は普段はここにいて、交代制で宮廷警備の任務に当たっている。


 詰所で休んでいると、2人の兵士が任務から帰ってきた。


「よし、次は俺達の番だな。行くぞ新入り」

「あ、はい!」


 オリバーさんに言われて私は急いで支度した。

 詰所を出ると空は既に茜色に染まっていた。


 この時間からの任務は初めてだ。

 これからオリバーさんと二人で宮廷内を巡回するのだ。


 豪華絢爛な入口をくぐって、宮廷内部へ。

 一階から順番に巡回していく。


 廊下ですれ違うのはほとんど宮廷勤務の文官や宮廷在住の貴族達、またその世話をする侍女やメイドなど。

 廊下のあちこちに立っている兵士は宮廷衛士隊という部隊の人達で、私たち宮廷警備隊とは違う組織だという。


 どう違うのかと言うと、宮廷衛士隊は宮廷内の各階の決まった所に配置されて、基本的にそこから動かず時間まで持ち場をひたすら警備する。

 それに対して宮廷警備隊はこうやって宮廷内を巡回して不審者がいないか眼を光らせたり、宮廷の要人が宮廷や帝都の外に出る時にボディーガードをしたりする。


 また、有事には帝国騎士団に合流して遠征することもあるのだとか。


 宮廷衛士隊や近衛騎士団はとにかく宮廷や帝都内の警護に特化してるのに対し、宮廷警備隊は基本的に宮廷警備が主任務だが、臨機応変に動ける機動力があって融通が利く。


 宮廷内の遊撃部隊って感じかな。


 ただ、宮廷警備隊はどうも宮廷衛士隊や近衛騎士団からは格下扱いされてるっぽい。

 宮廷警備隊は歴史が浅く、設立されたのは10年ほど前だ。

 伝統ある宮廷衛士隊や近衛騎士団と比べ、隊員達の身分も低い傾向があるからかもしれない。


 オリバーさんも元々は宮廷衛士隊に所属してたらしいけど、宮廷警備隊が設立された時にこっちに異動してきたらしい。


 その辺の事情は詳しくは聞かせてくれなかったけど……。


 そうこうしている内に、私たちは宮廷の最上階まで来ていた。

 皇族の方々が生活しているフロアだ。


 このフロアは帝国で最も重要な人物が住まいしている場所なのだから、さぞかし厳重な警備をしているのかと思ったけど、近衛騎士団や宮廷衛士隊の姿は思ったよりまばらだった。


 あんまり警備が多すぎても窮屈になるからだろうか。


 それでもこのフロアにいる兵士や騎士は、きっと選りすぐりの実力者に違いない。


 窓の外は既に夜の帳が落ちていた。

 あちこちの壁に設置してある蠟燭の火が回廊を照らす。


「後はこっちの方を回れば終わりだな」


 どこか緩んだ足取りでオリバーさんが廊下を歩いていく。

 私はその後ろをついて行こうとして……。


「!?」


 背筋がゾワリと産毛だった。

 これは……殺気!?


 私は感覚を研ぎ澄まして周囲を探る。

 向こうの方からどす黒い殺気が漂ってくる。


「あっちだ!」

「おいっ! どうしたユノ!?」


 オリバーさんが呼び止めるのを無視して、私は殺気のした方へと駆ける。


 そこは蠟燭の灯りが届かない、闇が支配する一角。

 二つの影が何やら格闘しているような……。


 不意に一方の影が懐から何かを取り出し、


 それがキラリと光る。

 刃だ!


「させない!」


 私は支給されたばかりのブロードソードを鞘から抜くと、二人の間に割って入り、


 カキンっ!!


 振り下ろされた刃を受け止めた。



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