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6・新皇帝


 次期皇帝指名式典の当日。


 急遽決まったこの催しは今後の帝国政治を左右する重要な式典なのにも関わらず、参加した貴賓のほとんどは帝都在住の貴族のみだった。


 地方貴族達は皇葬の儀が終わった後、自分の領地に帰ってしまっていた。

 あんまり長く領地を留守にしたくはないのだ。

 彼らの中には内政に不安を抱える者もいると聞く。


 それに、こんなに早く式典が開催されるとは思っていなかったのだろう。


 式典の参加者が少ないのは残念だが、まあ仕方あるまいと考えるジークベルトだった。

 式典の開催を急かしたのは他ならぬ彼なのだ。


 今回の式典で、晴れて第1皇子マグナスが新皇帝として正式に指名されるはずだ。

 だが、一つ問題がある。


 マグナスが皇位を継承する公的な証拠となるものは存在しない、ということだ。

 前皇帝アストラ3世は遺言、遺書などといった皇位継承に関する自らの意思表示を何一つ残さずにこの世を去ったのだから、当然と言えば当然だが。


 この場合、皇帝指名権を持つ13名の選定者の承認を得て、法的な根拠とするのが正道だ。

だがそれでは時間がかかり過ぎる。


 だったら先手を打って、マグナスが新皇帝だと発表してしまえばいい。

 既成事実を作ってしまえばこっちのものだ。


 後で異議を唱える者が現れても、その頃にはマグナス体制は盤石になっている。


 だから、スピード重視で事を進めた。

 式典に向けて根回しは完璧だ。


 あとは式典でマグナス皇子の名前が高らかに宣言されるのを待つだけ。

 そう考えてジークベルトは口の端を釣り上げた。


――


 式典は滞りなく進行した。


 前皇帝の遺言がないのにも関わらず、あまりに迅速過ぎる新皇帝指名に首を傾げる者も少なくなかったが、式典中は混乱もなく、荘厳な雰囲気を保っていた。


 そして式典はいよいよ最後の行事、新皇帝の名前が正式に発表される段階まで来た。


「それでは、新皇帝の発表を致します」


 大臣補佐がそう告げると、大広間は静寂に包まれた。

 来賓達は固唾を飲んで見守る。


 ジークベルトは勝利を確信していた。

 余裕の笑みを零すのをどうしても抑えられないくらいには。

 大臣補佐は一度大きく息を吸った。そして、


「新皇帝となるのは……第5皇子ライアス様です!」


 大臣補佐がそう宣言すると、大広間にどよめきが起きた。


「何だと!? そんな馬鹿な!!」


 ジークベルトは思わず激昂した。

 ヨーゼフ宰相に目配せをするが、彼も寝耳に水といった表情で狼狽えている。


「貴様! どういう事だ!? 何故マグナス様ではないのだ!? 説明しろ!!」


 ズカズカと大臣補佐に詰め寄り、問い質すジークベルト。


「そ、そんなこと言われましても……」


 大柄なジークベルトに詰め寄られ、大臣補佐は困惑するしかなかった。


「俺が皇帝になるのが納得いかないか?」


 大広間を切り裂くように、透き通った男性の声が響いた。


 その場にいる人々全員の視線が、大広間の入口に注がれる。


 そこには長身の美青年が、微笑を浮かべながら凛として佇んでいた。


 第5皇子ライアス、その人だ。


「あの時の……!」


 ユノはハッとして思わず両手で口を押さえた。

 入隊試験の夜に偶然出会ったあの青年だ。


「皇族の方、だったんだ……」


 ユノが知らなかったのも無理はない。

 彼はあまり社交界に出て来ないことで知られていた。


 ライアスは悠然と赤絨毯を歩いて、ジークベルトのいる玉座の前までやって来た。


「いえ……ライアス様、そう言うわけではないのですが……」


 ジークベルトは暫く狼狽していたが、何かを思いついたかのように気を取り直すと、


「ライアス様が新皇帝に即位することに、私などのような者がどうして異議を唱えられましょうか。ですが、ライアス様、あなたが新皇帝であるという公的な証拠は御座いますかな? 証拠がなければ如何に皇族といえども、勝手に皇帝を名乗ることは許されないと愚考したまで」


 そうだ。証拠がなければ誰もライアスを皇帝だとは認めない。

 社交界に出入りしないライアスには、後ろ盾になってくれそうな人脈はいないだろう。


「証拠か……これで満足か?」


 ライアスは懐から一枚の羊紙を取り出して、広げて見せた。

 ジークベルトは信じられない物を見たように、驚愕の表情を浮かべた。


「そ、それは……陛下の遺書!?」


 再び大広間にざわめきが起きた。


「ば、馬鹿な! 何故その遺書が……!?」

「父上の遺書が何故ここにあるのか、疑問か?」


 挑発的な笑みを浮かべながら、ライアスはこれ見よがしに羊紙を小刻みに揺らしている。


「簡単なことだ。父上が亡くなって俺はすぐにこの遺書を探させた。そして偽物の遺書とすり替えておいたのだ。偽物はどこかに消えてしまったがな。誰かが処分したのだろうが」

「な、何のことですかな……私には皆目見当が付きませんが……」


 ジークベルトはライアスから思わず視線を逸らした。

 まあいい、とライアスはそれ以上の追及をやめた。

 ライアスは大臣補佐に歩み寄り、羊紙を差し出す。


「ルーベン大臣補佐、皆の前でこれを読み上げろ」

「ははっ!」


 ルーベンはライアスから羊紙を恭しく受け取ると、緊張した面持ちでその紙を広げた。


「ヴェルセリア帝国第15代皇帝アストラ3世の名において、ここに記す。次期皇帝の座に第5皇子ライアスを指名する」


 しばしの静寂の後、誰ともなく皇帝ライアス万歳! と歓声を上げた。

 その声を皮切りに拍手と歓声が大広間を埋め尽くした。



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