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5・皇帝崩御


 その一報は瞬く間に帝国全土を駆け巡った。


 ”ヴェルセリア帝国第15代皇帝アストラ3世、崩御”


 帝国臣民は皆深い悲しみに暮れ、亡き皇帝の功績を懐かしみ、その賢政を惜しんだ。

 だが、既に御年90歳の老帝、いつその報せが来てもおかしくない状況だったと、帝国宰相にして帝国連邦大臣主席のヨーゼフ・ロシュフォード公爵は述懐する。


 帝国内部ではこの日を見越して、もう何年も前から水面下でいくつもの勢力がしのぎを削っていた。


 もちろん争うのは、次期皇帝の座。


 帝国の暗部で蠢いていた権力争いは、いよいよ表面化する。


 ユノの父、ジークベルト・ルシエール侯爵は次期皇帝最有力候補である第1皇子マグナスに取り入って、新皇帝政権下での立場を確保しようと目論んでいた。


 自らの娘ユノをロシュフォード公爵家の長男アレクシスの婚約者にしたのも、その一環だ。


 ロシュフォード公爵、ジークベルトを中心としたマグナス派は前皇帝アストラ3世崩御の報せを受けてすぐさま行動を開始した。


 ヴェルセリア帝国ではあらかじめ皇帝継承権を皇帝自らが指名するのだが、前皇帝は自らの世継ぎを指名することなく亡くなった。


 だが、どこかに遺書を遺しているはずで、そこには次期皇帝に指名された人物の名前が書いてあるだろう。


 そこに”第1皇子マグナス”の名が書いてあればそれでよし。

 だが、そうじゃなければ……。


 ジークベルトは自らの息のかかった宮廷文官に働きかけ、すぐに皇帝の遺書を探させた。

 他の勢力に先を越されるわけにはいかない。


 帝都では皇帝陛下の葬儀――皇葬の儀が1週間かけて盛大に行われる。

 その間に何としても見つけ出す。


 皇葬の儀3日目の夜。

 宮廷の最上階、天穹の間にて。


「ありました! 皇帝陛下の遺書です!」


 配下からの吉報に色めきたつジークベルト。


「見せてみろ」


 遺書を受け取ると素早く目を通す。


「何と書かれているのですかな? ルシエール侯爵殿」


 傍にいたヨーゼフ宰相が促す。

 ジークベルトは暫時、遺書を眺めていたが、


 ビリビリビリっ!!!


「!!」

「ジークベルト殿っ!!」

「遺書を、破るなんてっ!!」


 さっきまで皇帝陛下直筆の遺書だった紙切れを、暖炉の火に放り込むジークベルト。


「……皇帝陛下の遺書は見つからなかった。よろしいですね?」


 その場にいた者達は突然の成り行きにしばし呆気に取られていたが、すぐさま彼の”行動”の意図を察してお互いに頷き合う。


「書いてなかったのですな、マグナス様の名は……」


 ヨーゼフの言葉に無言で頷き答えるジークベルト。


「もうここには用はない。戻って次の一手を打つ準備に入りましょう」


 この部屋にいることを誰かに見られたら面倒だ。

 ジークベルト達は足早に部屋を出ていった。


(それにしても、前皇帝陛下め……よもや”あの男”を後継者に指名するとは)


 皇帝陛下の遺書に書いてあった後継者の名前。

 奴が皇帝の座については今後の計画に支障が出る。


 だが遺書は処分した。

 奴が後継者だと証明する手段はなくなった。

 もう計画を邪魔する者はいないだろう。


 後は事前に描いた絵を忠実に再現するだけだ。

 ジークベルトは口角を上げて今後のことに想いを馳せるのだった。

 その計画を狂わせる誤算が起きるとも知らず……。


――


 それから数日後。

 皇葬の儀が滞りなく終わったが、宮廷内はまだ慌ただしい雰囲気に包まれていた。


 次期皇帝指名の式典が行われることに決まったのだ。

 異例とも言えるスピードに、人々は誰もが疑問を抱く。


 先代皇帝アストラ3世は公に後継者を指名しなかった。

 理由はわからないが、皆の関心はそこにはない。


 アストラ3世の遺書が見つからなかった今、彼の真意を知る術はない。

 ならば皆の疑問は一つ。


 一体誰が次期皇帝の座に就くのだろうか。

 宮廷だけでなく、帝国臣民皆の関心事はそこだったのは言うまでもない。


 宮廷勤めの者は皆、口々に噂し合う。


「一体誰が次の皇帝になるんだろう」

「やはり第1皇子マグナス様じゃないか」


 帝位継承者は帝国に13名いる選定者の承認を得る必要がある。

 13名の選定者は帝国社会に大きな影響を及ぼす重鎮ばかりだ。

 それらの人間の承認を得られる可能性が高いのは、やはり第1皇子であるマグナスだろう。

 それが帝政に詳しい事情通達の見解だった。


 どこか浮足立った雰囲気のまま一週間が過ぎ、

 ついに次期皇帝が指名される式典の開催日になった。



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