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12・コロシアム


「チャンス……ですか?」

「何でもない。こっちの話だ」


 そう言って二本目の串焼きにかぶりつくライアス。

 なんだろう……さっき一瞬見せた陛下の表情。


 やはり陛下にはどこか謎めいた一面がある。

 ライアス様は皇帝として何を成し遂げようとしているのか。


 けれどライアス様の地位は決して盤石ではない。

 皇帝指名の式典の一件で第1皇子マグナスを担ぐ一派との対立が表面化した。


 その一派の中心人物は帝国宰相ヨーゼフ・ロシュフォード公爵と、帝国騎士団長ジークベルト・ルシエール侯爵……私の父だ。

 二人は謀略を尽くしてライアスの皇帝即位を妨害しようとした。


 ライアス様の帝位は暫定的なものとすることで、どうにかその場は収められたけど。

 だけどマグナス派は今も虎視眈々とライアス様の足元を掬おうと機会を伺っているのだ。


 いや、マグナス派だけではない。

 皇帝の座を狙っている勢力は他にもいる。


 そうした政敵達としのぎを削っていかなければならない立場にいるのが、私が今ボディーガードを務めさせて頂いている皇帝ライアス。


 今は吞気に串焼きの味を堪能中だけど……。


「美味かったな。では次行くか」

「はい」


 屋台を出て、私たちは再び大通りへと戻ってきた。


「次はあそこに行ってみるか」


 彼が指差したのは、歴史を感じさせる円形の建物、コロシアムだった。

 ちょうど試合があるらしく、見物客が列を作って入口へと向かっている。


 私たちは律儀に列の最後尾に並んだ。

 列が少しずつ進んでいき、10分程でコロシアムの中に入れた。


 受付を済ませて観客席へと向かう。道中の廊下も大勢の人で溢れている。


「すごい人だかりですね」

「今日の試合には帝国騎士団長の娘が特別参加するらしいな」


 えっ。

 それってもしかして……。


 二人で並んで観客席に着く。

 観客席は満員で、すごい盛り上がっている。


 ざっと見渡すと、やはり男の人が多い。

 いかにも荒っぽい感じの人や、傭兵風、冒険者風の観客が目立つ。

「まだかー!」「早くしろー!」と野次があちこちから飛び交う。


 やがて、会場中に響く大きな銅鑼の音が一発、ボワーン! と鳴った。


 観客のボルテージは最高潮。

 ライアス様はと言うと、腕を組んで静かに舞台を見守っている。


「さあ! 月に一度の剣術大会! 果たして優勝するのは誰か!? 早速第1戦目が始まるぞー!」


 司会が剣術大会の開始を告げると、舞台の両端から剣士が登場した。

 そして試合が始まる。


 激しい剣技の応酬に観客席は大盛り上がりだ。


「あの剣士は騎士団の方なのですか?」

「いや、あれは見世物としての剣術試合に出る専門の剣闘士だ。貴族ではなく平民や奴隷階級の者が多いと聞く」


 彼らの剣術は騎士階級の人達のように確立された剣術ではなく、我流のものなのだろう。

 私が身につけたような型のある剣技とは違って、自由奔放で無秩序な剣技。


 だけど、すごく興味深い剣術。


 あの黒ずくめのような敵と戦う力を身につける為には、こうした型に捉われない剣術の知識も必要だ。


 剣闘士が使っている武器は本物の剣そっくりに作られた模造の剣なので、斬られても傷がつくことはない。

 だけどそれなりに重量はあるのだろう。

 まともに攻撃を受けた剣闘士は痛そうにダメージを食らった部位を押さえている。


 試合は第2戦、第3戦と進行していき……。

 遂に本日最後の試合を迎えた。


「さあ! 本日最後の試合はビッグサプライズ! 帝国騎士団長ジークベルト・ルシエール侯爵の長女、エリーゼ様が参戦だー!」


 おおおー!! と会場はさらに盛り上がった。

 なんで姉様がこんな所に……。

 もしかして、私が知らなかっただけで、姉様はよくコロシアムに来てたのだろうか。


 司会に呼ばれて、舞台の端からエリーゼが登場した。

 見るものを惹きつける戦闘向きにアレンジしたドレスを着用している。


 美人剣士の登場で観客の盛り上がりは異常なレベルになってきた。


 エリーゼは余裕の笑みを浮かべながら、相手と対峙している。

 相手の剣士は姉様より若干年上に見える男性剣闘士。


 一体どんな試合になるんだろう。

 姉様の剣術を見るのは久しぶりだ。


 あれから一体どれだけ精進しているのだろうか。

 私は瞬きも忘れて、食い入るように姉様の姿を見つめた。


「それでは、試合開始ぃ!!」


 ゴオンと響く銅鑼の音を合図に、最後の試合が幕開けした。


 優雅に剣を構え、いつでもいらっしゃいなとばかりに手招きする姉様。

 対戦相手の剣士は舐めるなと猛然と斬りかかる。


 しかし、エリーゼは華麗なステップで相手の一太刀を躱す。

 相手は間髪入れずに二撃目、三撃目と繰り出すが、姉様はその全ての剣戟を華麗に回避していく。

 まるで、舞踏会で踊っているかのように。


 観客席の声援はエリーゼ一色だ。


 すごい……さすが姉様。

 相手の剣士の実力は決して低くない。

 おそらく帝国騎士団の上位陣と比べても遜色ない剣の腕だろう。(遜色ないと言ってもあくまで見せ物としての剣の腕だから実戦で活躍できるかはまた別問題だ)


 けれど姉様はそんな実力者をまるで子供扱いしている。

 相手の剣士には気の毒だけど、姉様に勝てるビジョンが全く見えない。


 姉様は数分間、防戦一方で相手の攻撃をひたすら踊るように回避し続けた。

 相手の剣士は実力差を見せつけられて、明らかに戦意を喪失している。


「じゃ、そろそろお開きにしましょうかしらね」


 姉様はゆったりとした動きで剣を構えなおすと、ゆっくりと歩き始め……。

 次の瞬間には相手の背後を取っていた。


 これが姉様の剣術の真髄だ。

 動きに緩急をつけて相手の感覚を狂わせる。


「が、ぐわああああ!!!」


 相手の剣士は何が起きたのかもわからないまま、突然全身に襲ってきた激痛で苦悶の叫びを上げながら地べたに叩きつけられた。


「なんだ……? あの女、何をしたんだ?」


 目の前で起きた光景についていけず、困惑するライアス様。


「すれ違いざまに斬撃を浴びせたんです。何度も……」

「何だと……」


 私が解説すると、ライアスは信じられないといった感じで舌を巻いた。


「俺には全然見えなかったが……、あの瞬速の剣を目で追えたのか? ユノ」

「はい」

「なんと……お前も大したものだよ」


 苦笑いを浮かべるライアス様。

 まあ、こっちは姉様の剣術を小さい頃からずっと見てきたから。


 うおおおおお!! と大歓声に包まれる闘技場。

 その歓声の中心に立つエリーゼは真っ直ぐに私の方へと向き直り、不敵な笑みを浮かべた。


「次はあなたの番よ、ユノ」



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