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気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
梁山泊

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98/133

殺し合いは地獄です


追いつけなかった。

No.15は颯爽と馬に(またが)り、行ってしまった。


馬が、いない。


宮殿方向へ歩き始めると「ねーさん」と呼ばれた。見れば、さっきの帆船の船員。帆の修理は終わったらしい。



「帆を張るロープが切れただけだ」

「それより、乗っていきな。帰るんだろ」


「ありがとうございます」


「戦が始まったみたいだな」

「はい」

「ねーさん、行くのか?」

「はい」

「あそこに1人、息切らしてる人いるけど。いーの?」



東宮。長期の幽閉生活で体力をなくしているご様子。傍には役人がいて、東宮を支えている。



「あの方はいいのです」

「あそこって、東宮が入れられてたとこだろ? あれ、東宮じゃないのか? ねーさん、何者だよ」

「ご迷惑でなければ、役所の裏まで連れていってください」

「そりゃ構わないけど。途中だから」



何者と尋ねられて答えなかった私に、2人はそれ以上踏み込まなかった。



「ねーさん、綺麗な顔してんのに、男のカッコして戦わなくっていいって」

「おいおい。他人(ひと)のことは放っとけ」

勿体(もったい)ないぜ」

「いや。人生、やりたいことやったもん勝ち」


「それ、いい言葉ですね。座右の銘にします」

「「ははは」」



役所の船着場には小船がなかった。



「ありがとうございました」

「死ぬなよ」

「逃げろ」



その言葉には答えず、宮殿前広場に向かって道を歩いていく。前方から、けたたましい爆音が響く。人々の叫声(きょうせい)と馬の(ひづめ)の音が入り乱れ、火薬と血と煙の臭いが襲ってくる。剣を(さや)から抜いた。


なぜ戦場に戻るのか。突然、船に飛び乗って消えたから? それだったら、No.15の軍から、知事に関しての情報が入る。暴れたい? 否。殺したい? 否。助けたい? 否。

共有したい。No.9、No.15、(リー)様、ゴリラ、毛モジャ、青巾隊(せいきんたい)

何を。世が動いていることを。


広場では、馬に乗った敵が青巾隊を上から槍で突いている。



珊瑚(シャンフー)、危ない!」



左横から敵に斬りかかられ、かわす。



ザシュッ!



すかさず剣を振り下ろす。初めて斬った人間は、想像以上に手応えがあって、剣が、骨か(よろい)かで止まった。問題ない。絶命した。既に手負いだったらしく、体は血に染まっていた。それでも血飛沫(ちしぶき)が跳ね返った。



「逃げろ!」



青巾隊の家に来ていた常連が叫ぶ。



「さっきはありがとうございました」

「そんなことより、帰れ」

「どうなっていますか?」



狼煙(のろし)が上がってから随分経っている。



「宮殿から私軍が出て来た。強い。挟み撃ちにしようとしてやられてる」

「役所の包囲は」

「今はこっちだ。じゃな。帰れよっ。珊瑚」



その人は広場中央に飛び込んでいく。


包囲していた役所周りに誰もいない。まずい。私軍を持っているのは、皇帝の弟と知事だけじゃない。役人の上層部も絡んでいる。もう遅い。騎馬隊を呼びに行っている。1000頭以上もの馬。


物陰に隠れ、様子を窺う。すぐ隣には血(まみ)れの死体。

どちらが優勢なのか。ヒフティヒフティ? ここに騎馬隊が来たら、数を考えれば劣勢になる。

No.15の軍旗がない。まだ到着していない! 船だったから、私の方が早く着いたんだ。


どこか高い場所から見たい。役所の2階の窓を見上げたとき、就業時間を知らせる鐘が視界に入った。鐘の部分は建物の大屋根の高さ。外階段がある。

階段を駆け上がった。


麗様。どこ。いない。No.9らしき人はいた。指揮を取っている。


不思議なことが1つ。No.9が狙われていない。


No.9が抗議の座り込みをしていたのは、宮殿の正門の近くだった。昼前、広場に着いたときに見た。あの位置だったら、宮殿の外壁の上から矢や銃で狙える。今は広場の中央に敵がいて、No.9の軍は2手に分かれて発砲している。No.9は城壁を背にしているにも関わらず、上からの攻撃がない。2手に分かれているもう1つは、城壁からかなり離れていて宮殿からは狙えない。

まさか、No.9が皇帝の弟と内通している?


今は、中央に敵が固まり、西側北にNo.9の部隊、西側南にもう1つの部隊がいて、敵を西側から削っている。東側からは青巾隊が敵を削る。


? 敵を削っているなら、No.9が皇帝の弟と内通してると考えるのはおかしい。???


いくら宮廷前広場が広くても、通常行う草原などとは勝手が違う。この先、西側からの攻撃が難しくなる。中央の敵がすかすかになって、青巾隊に矢や弾丸が当たってしまうから。今だって、流れ弾の被害があるだろう。

青巾隊が南の商店街や民家の方へ撤退すれば、No.9の軍が思う存分、攻撃できるんだけど。青巾隊って、撤退とか攻撃の合図、どうやってるんだろ。麗様と私は何も聞かされなかった。合図なんてなさそう。


この鐘をめちゃくちゃ鳴らして、青巾隊に「退け」って言う? 私の声なんて届かない。そんなことしたら、敵の的になってあの世行き。それでも、一か八か。鐘を叩くトンカチを手に取った、そのとき!



退()けぇ」



太い声が聞こえた。南の商店街から馬でNo.15が駆けてくる。青巾隊の兵士を狙う敵を槍で仕留めながら。

No.15と共に馬で飛び入りした兵士達は、軍旗を振って、敵と青巾隊を分けるように走り、逃げる方向へ道を作る。青巾隊が退く。No.15達も退く。



パン パン パン パン パン パン



すぐ様、乾いた銃声の音が響き渡った。何発も放たれる弾に、馬と敵兵が倒れていく。役所の壁に流れ弾が当たる音がする。

銃声が止むと、(おびただ)しい数の人が転がっていた。

静寂。


その中で敵が剣を支えにしてゆっくりと立ち上がる。



トス トス トス トス トス



何十本もの矢がトドメを刺す。

また1人、立ちあがろうとする。



トス トス トス トス トス



絶命。

No.9の軍は、構えていた盾と弓をようやく下ろした。


兵士達が出て来て、剣や槍で転がっている人間突き、確実に殺す。その淡々とした作業に、足からがくがくと力が抜け、ぺたんと床にお尻をついた。木で囲われた腰までの高さの壁を背にうずくまった。



「あっぁっぁ……」



なんということを。私もさっき、殺した。体中が震え、人間の恐ろしさに喘ぐ。自分の発した初めて聞く声の異様さに、口を覆おうとしても手が震えてそれすらできない。



「危ない! 退けぇ」



再び声が響いた。

恐る恐る、もう一度顔の半分を手すりから出して、広場を覗く。

死体の中を歩く兵士達に矢と弾が飛んだようだった。兵士が南へ逃げている。宮殿の城壁の上から攻撃している。死体に矢が刺さる。死体に(つまず)いて転んだ兵士が銃弾を浴びる。死体の上に死体が重なる。地獄。


終わりが見えない。

東宮の救出が目的だった。なのに戦は、東宮が自由になっても続いている。


助かってよかったんだけど。おっさん、今、何してるんだろ。皇室別邸に行ったのかな。戦の原因なのに、ぜんぜん別のところで寛いでるんだろーな。ずっと幽閉生活だったから、仕方がないけれど。

シリアスが目の前にあるのに、浮世離れしたおっさんのことを考えたら、少し気持ちが軽くなった。


拳で自分の両腿(りょうもも)を叩き、立ち上がった。


宮殿を落とすことが戦の目的に変わった気がする。


麗様を探さなきゃ。麗様は強い。でもそれは、人対人のとき。組織的な戦は、運が大きい気がする。見ていて思った。それに私は、声をかけられなかったら死んでいた。



「ヒャッハー派だ!」

「来たぞ。ヒャッハー派」

「「「「おおーーっ」」」」



西の方からの蹄の音に、皆がざわめく。

大勢の仲間を失って沈んでいた青巾隊は、途端に息を吹き返し、歓声を上げた。


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