またお会いしました
正面の出店と同様、役人と船員を接触させてはいけない。運ぶのは私達。近くでお弁当を食べていた青巾隊メンバーも、紙ゴミを帆船に運び込んでくれた。
「青巾隊、頑張れよ」
庶民である船員は、基本、青巾隊の味方っぽい。
「はい、応援ありがとうございます」「ありがとうございます」
「おうおう、若い人らの笑顔は眩しいねぇ」
船はばさっと帆を広げた。うわぁ、
「はくりょくー」
「どうした」
「こんなに近くで帆を張るところを見るのは初めてです」
「帆は、川の流れの反対に進みたいときに使うんさ」
「だから来る時は、帆を広げてなかったのですね」
「ははは」
甲板に置かれた木箱の中の紙ゴミが、1、2枚、風で飛んで行った。
もう1人の船員は、台車で運び込むために岸と船を繋いでいた板を片付け、船を係留していたロープを外し、櫂の柄で岸を突く。船がゆっくり離岸。船員は、6つある紙ゴミの木箱を順に布で覆って重しの石を乗せていく。
「う”っ」
今、何か聞こえた。船員も聞こえたのか、布を捲って確認している。木箱はそれほど大きく見えないけど、怪しさ満点。
「ちょっと行ってくる」
ぴょーん
「珊瑚!」
離岸しつつある帆船に飛び乗った。
ビンゴ。
木箱の中で、書き損じの紙を頭や肩に纏った白髪混じりのじーさんが立ち上がる。服の色は紫、背中に鶴の刺繍。知事。
じーさんは、背後に飛び乗った私に、まだ気づいていない。第一声は「金は払う」だった。
布を捲った船員は、じーさんと私を交互に見る。
「湖の北の牧場まで乗せていけ」
「「……」」
帆を扱っていた船員まで、ちらちらと私を気にする。私は剣をすぐ抜けるよう柄に手を添えた。
「言うことを聞かなければ、仕事を回さんぞ。競合他社は掃いて捨てるほどある。そうだ、知り合いのところも紹介してやろう。な、頼む。一生のお願いだ!」
出ました。ウソNo.1「一生のお願い」。
でもまあ、今回に限っては、本当にそのクラスのお願いだろうけれど。
私は、後ろからじーさんの顔の横に剣を出した。
「ひぇーーっ」
驚いたじーさんは、箱ごと後ろに倒れて来た。危ない! うっかりじーさんを斬ってしまっては大変。まだ人を殺す覚悟はない。咄嗟に万歳状態で剣を天に向けて飛び退いた。そのとき、
ぷつん
切れ味のいい剣がロープを切った。え、さっきのロープ?
ばさっと船の帆が舞い上がる。風を受けなければいけない帆が、風になびいている。
「きゃー。ごめんなさい」
「風があって、今、修理できねーな」
「ねーさん、それより、そのジジイ、どーすんだ?」
紫に鶴の刺繍でも、全く動じない船員2人。そしてジジイ呼ばわり。
「知事ですか?」
それに反して、うっかり敬語を遣ってしまった小物の私。剣を顔の近くに持っていき、脅しに再チャレンジ。
「褒美は弾むぞ。私を助けろ」
下手に出たから、上から来られちゃったよ。
「あの、縛っていただいてもよろしいでしょうか。縛る物ありますか?」
船員2人にお願いした。私は剣を構えたまま、相手をビビらせ続けようと頑張る。
「こーゆーときは、命令するもんだろ」
「ねーさん、初心者だな。ははは」
呆れながらも協力してくれる船員2人。
ゴーン ゴーン ゴーン
その時、鐘の音が聞こえた。役所にある、午前就業時間終了を知らせる鐘。正午。
「船の方は、大丈夫ですか? 帆が……」
「川下に流されるしかない」
「港まで行けば、なんとかなるだろ」
港って、No.15がいるじゃん。失敗して流されるなんて、恥っず。
知事は情緒に訴える作戦に出た。
「お前達、考え直しなさい。こんなことをして、いいことなどない。今なら間に合う。言い値を払うから、この縄を解きなさい。お前達にも家族はいるだろう。親御さんが心配しているぞ。犯罪を犯してしまっては、家族まで後ろ指を差されることになる。いいのか。愛する家族に辛い思いを、、、聞かんかー!」
「ねーさん、飯まだだったろ」
「オレの嫁が作った竜田揚げ、食うか?」
「いいのですか? いただきます」
「どーだ?」
「おいしいです。ジューシー」
「だろだろ? 嫁の飯は美味いんだぜ」
「いーなー。オレもYOMEが欲しい」
玄米ご飯と青菜のお浸し、デザートにリンゴとミカンもいただた。
そうしているうちに、港が見えて来た。北東の街1番の川の港。
「実はさ、持ってるんだぜ!」
「オレも」
2人はポケットから青い巾を出して頭に被る。
「まあ! お似合いです」
ぱちぱちぱちと拍手。流行っているのは、若者の間だけじゃないのね。
そして2人は難なく操舵して港に着岸。
ぽかぽかと暖かい日差しの中、軍が陣を張っていた。黒い甲冑姿の兵士がうようよいる。
役人と分かる紫の服のじーさんをぐるぐる巻きにしてあったからか、兵士が1人、走って来た。
「青巾隊です。役所から逃げ出そうとしていた知事です」
私が報告すると、船員2人がじーさんを兵士に突き出す。
「その方、女か?」
「はい」
「青巾隊には女もいるのか。しばらく待て」
兵士は陣に伝えに行く。
やってきたのは……No.15だった。
「女って聞いて、まさかとは思ったけどさ」
と私の顔を見て独り言のように言った後、急にきりっとした表情を作る。
「私は第15皇子。其方、知事か」
「はい、この区域の知事です。第15皇子、ご尊顔を拝することができ恐悦至極にございます」
「東宮を幽閉したのは、其方か」
「皇帝の弟君の命で仕方なく行ったことにございます」
「そうか。私は皇帝の命でここにいる。どちらの命を優先すべきかは分かるな。東宮を解放しろ」
そこに、兵士が走って来て叫ぶ。
「第15皇子、報告します! 開戦の狼煙です」
ええっ! 開戦?! 戦が始まっちゃったの?
No.15は落ち着いたものだった。
「全部隊、直ちに広場に向かえ。こちらは東宮を救出してから馬で向かう」
知事はぐるぐる巻きのまま、軍に引き渡された。帆船の船員達は名前を聞かれ、No.15はその場で小さな金を渡す。そして、兵士2人が私の壊した帆の修理の手伝いに回った。
「珊瑚、行くぞ」
「はいっ」
いつもだったら「うん」なのに、場の雰囲気に呑まれて、なんとなく畏まってしまう。船員2人にお礼&謝罪後、私はNo.15についていった。
じーさん知事はロープでぐるぐる巻きのまま、2人の兵士に両脇を抱えて走らされ、東宮の見張りの者達に「解放」を命じていく。
ちょっと、マズイ。このままだと、私、東宮に会っちゃうじゃん。先日、いい感じに別れたばっかりなんだってば。動揺。
「異母兄に会ってやってくれ」
「えーっとですね。私はもう、会わせる顔などないのでございます」
「姿を見せるだけでいい」
「困ります」
「頼む。1ヶ月も辛い思いをなさってたんだ。東宮にとって珊瑚は特別だ」
「珊瑚っ。珊瑚ではないか!」
会った。
東宮は、幽閉された部屋から廊下に出るや否や、私を抱きしめようする。さっと屈んで避けた。すかっと東宮は宙を抱く。人前とか相手の気持ち無視で、自分のしたいことをしてしまう生粋のトップ階級。
東宮がいた部屋に知事を入れ、No.15は踵を返す。
「行くぞ! 宮殿前の広場だ」
「「「「はい!」」」」
待って。追いかけようとすると、後ろから腕を掴まれた。
「珊瑚!」
閑散とした施設内に、東宮の声が響く。私の腕を掴み、縋り付くように私を見つめる東宮。その腕を思い切り振り払って、走った。




