それヤバい数じゃん
地図が広げられた。
皆が代表者と麗様を囲む。
「出入り口に人員をシフト。知事の顔を知っている者達を最低1人ずつ、各出入り口に配置しましょう。顔認証システム強化です」
と麗様が提案したのに、誰も知事の顔を知らなかった。
あら、麗様と私がこの街に来たときお世話になった、馬宿の主人がいる。会釈すると、向こうは男装の私に驚いていた。馬宿の主人は私の隣に来て小声で話す。
「お兄ちゃん思いもいいが、女の子なんだから帰りな」
「今日だけです。明日は来ません」
飽きたから。
「そうか。ならいいんだが」
「あちらは騎馬隊を持っているのですね。馬がたくさんいる屋敷は目立つと思うのですが。噂はありませんか?」
馬つながりだから、小声で聞いてみた。馬宿の主人は「オレは知らねぇが、あいつなら知ってる」と馬の蹄鉄を作る仕事をしている友人を連れてきた。
「おう。普段はこっちの街の北東の方で放牧しとる。厩舎の場所はこの山の麓や」
友人は地図の1点を指差した。突然出てきた指に、みんなが「何?」という顔。
「厩舎?」
「私軍の馬がおる」
「私軍の?」
「皇帝の弟や知事や役人らの」
「それは本当か」
「おうよ。ここに蹄鉄、いっぱい納めとる」
「鍛冶屋か?」
「おうよ。お得意様や。他んとこにもある。知っとるのは、あと、こことこっち。そこには知り合いが納めとる。宮殿にもそこそこおるぞ」
「そりゃ宮殿は馬、いっぱいおるやろ。護衛や馬車の馬が」
「どんどん増えとるぜ。蹄鉄の数で検討つく」
蹄鉄の数が増加=馬の数が増加=私軍を強化=戦の準備をしている。物騒。
麗様は言った。
「役所から、これら厩舎の方へ伝令が行くでしょう。知事とは限りません」
それを受けて「んじゃ、誰もここから出したらあかんな」と誰かが言う。
そこで、私は提案した。
「青巾隊のヒャッハー派の方々にお知らせしてはどうでしょう。これらのところから騎馬隊が来るだろうと。私軍がどこにいるとしても、必ず馬が必要です」
「今ごろ馬を放牧しとる時間やろ。馬を盗むか」
「そりゃムリや。馬ぁ賢いからな」
「ヒート中のええ牝馬を連れていって、捕獲するんや」
「ハニートラップ?」
「やめたりぃ。囮の馬が可哀想過ぎる」
「そんなの捕獲できるか。凶暴んなった雄に、人間が蹴り殺されるで」
「アホか。1000頭以上おるわ」
話がぐだぐだになったところで、1000なんて数字が飛び出す。想定外。
そこで、代表者が一言。
「よし。ヒャッハー派に伝えろ」
ヒャッハー派を知っているらしき誰かが走って行く。
もう1人、宮殿内に騎馬隊がいるかもしれないことを誰かがNo.9の軍へ報告。
次に麗様は知事を話題にした。
「顔も分からない知事をどうやって拘束しましょうか」
「知事は紫の服で鶴の模様があるぞ」
「着替えたり、コートを羽織ったりしたら分かりません」
「特別なハイグレード馬車で帰るぞ」
「御者に替え玉だと告げれば済みます」
「犬でもいればな。匂いで」
知事が誰か分からないのに、犬に知事の匂いを教えられないって。
代表者は決めた。
「よし。建物から誰も出すな」
「飯買うのもか?」
お昼は約半分の役人が弁当持参。残りの半分は外食や買い食い。お昼ごろになると、広場の隅に何軒も出店が出るそうな。荷車でお弁当を売りに来る者もいる。広場の前には商店街もある。
「昼くらい抜いたって死にゃぁせん」
「オレらは食うもんなくて昼抜くこと、いくらでもある」
「役人は、オレらからむしり取った金で昼飯かよ」
「あいつらなんて、この間」
皆が文句を言い始め、収拾がつかなくなってきた。
私は別のことを考えてしまった。
「お店の人達は、せっかく用意した料理を腐らせてしまうんですね。気の毒な」
だったら、私達でいただきましょうと続けたかったのに。代表者はまっすぐに受け止める人だった。
「出店を正面玄関前に集めよう。そうすれば、役人は昼ご飯は食べられる。包囲もしやすい」
えー。私達のお昼は? 私と同じ思いだったのか、麗様が質問。
「戦は弁当持参ですか?」
「麗、持って来なかったのか?」
「握り飯や固い餅みたいな、腹に溜まる戦飯」
「麗も屋台で食っとけ」
「金も持ってきていない」
「マジか。奢る。家から追い出しちまったお詫びだ」
「「らっき」」
私も便乗。
お昼には出店を役所の前に集めて包囲することになった。なんか、ちょっと危険な気がする。文を頼むとかできそう。それは誰もが考えつくことだった。結果、出店の店主と客は接触しないよう、青巾隊が売り子のように、注文を聞き、料理と金銭の受け渡しをすることになった。「祭りのときの要領だな」と誰かが笑う。
終始和やかな作戦会議。
麗様が地図を睨む。
「うーん。もし自分だったら、どうやって逃げるんだろ」
そーやって考えればいいのね。
「えーっとね。私だったらぁ、お昼に正面玄関のお店に人がいっぱいいるとき、手薄になった裏から。御用聞きとか、うんP収集とか、荷物を運ぶという体で。裏はすぐ川。船で逃げたら追って来れません」
さっき、役所の裏手の船着場に小船があったのが見えた。あれ使える。
お昼の予定も立って、口が滑らか。
「そうか。知事はここから出るためだったら、うんP壺に入るかもな」
「そこまではせんっちゃ」
「荷物を運ぶふりくらいはするだろ」
「珊瑚さんや」
いきなりダミ声で呼ばれた。
「はい」
「姉さんはなかなか鋭い。裏口で見張りをしてくれ。いーか? 兄さん」
私じゃなく、麗様に許可を取る代表者。
「はい」
「じゃ、妹についててくれ」
「はい」
「大丈夫か、兄さん。華奢やが。剣使ったことあるか?」
愚問。
「結構イケます」
軽く流す麗様。役者。
そんな流れで、麗様と私は裏口の見張りに回された。役所の裏門の真ん前が船着場になっている。そこに座った。長丁場だから座った方がいいと言われた。
「どんなお店があるのかな。広場までって、あんまり来なかったから」
お腹が空いて、頭の中は食べ物のことでいっぱい。麗様は広場で串焼きを食べたことがあるそう。牛肉に濃い味付けのタレが染み込んで、めっちゃ美味しいって。水餃子も具沢山でお腹が膨れるという噂。
麗様とお昼を楽しみにしていると、船着場に帆船が到着した。そこそこの大きさで、船員は2人。
「よう。青巾隊か?」
「こんにちは、はい、そうです」「こんにちは」「どーもどーも」
麗様とご挨拶。
「ここにちょっと停めさせてくれ。昼に紙が来る」
紙?
「皇帝への書簡ですか?」
「書き損じの紙ゴミだ。大量にな。ちょっとはトイレでケツ拭くのに使うらしいが、ほとんど引き取って売るんさ」
あらまあ。機密事項がありそう。
「売れるのですね」
「火ぃ起こすのによう燃える」
「火に」
「ん? アンタ、女?」
にっこりして頷く。
「大きな帆船ですね。かっこいい」
「はっはっは。紙は重いからな」
そろそろお昼。昼からは、多くの人員が、役所の正面で出店の手伝いや見張りの強化を行う。そのため、青巾隊はあちこちで早めの食事をし始めた。朝から歩いてここまで来て、皆、お腹が空いている。正面担当でない者達も、地べたに座って寛ぎ、昼食。なごやか〜。
麗様と私って、いつ食べられるんだろ。誰かが気を利かせて持ってきてくれるとかないかな。ないよね。
そんな空気の中、建物の中から紙ゴミが出てきた。
想像以上の量。台車で大きな木箱が運ばれてくる。船員は、船着場から船へ、台車が通れるほど幅の広い板をかけた。木箱に蓋はなく、紙が風になびいている。




