本気でもいいですか
ざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっ
細い山道に男達が連なる。頭には青い巾。
鎧は足りない。鎧なしの人の方がぜんぜん多い。
お酒と大量の割れた盃は誰が掃除するんだろ。あのままなのかな。気になる。
歩きか。目的地に着くまでに疲れそう。多くは肉体労働者。体力あるんだろーなぁ。お昼ってどーなるんだろ。
街に近づくに連れて、列は長くなる。途中で青い巾を頭に、人が加わっていく。
街の道の両側には見物人がずらっと並び、ヒーロー扱い。麗様は宝石店の店主から声援を送られた。
「麗、がんばれよー。店の方は気にするな」
「「「きゃー、麗様ーーー」」」
一緒に歩く男達が、自分も女の子達に注目されることを期待して、きりっとしながら歩く。
「頑張れ。帰ったら家賃払いな!」
「お前らぁ店のツケ、帳消しにしてやるよ」
そんな声援もある。
役所に到着。初めて来た。住民としての登録をしていないし、税を払う用事もない。けれど、市民にはお馴染みの「何をするにも手数料+袖の下が必要」な場所なのだそう。
役所を囲むように言われた。言われた通り、ぐるっと一周しながら囲んでいく。なんか、ムダが多い気がする。出口も何もないところにも人が配置された。
役所の裏手には、囲んでいる道を挟んで川。その川は、港へと繋がっている。
宮殿があって南が正門。正門前に何も無い広場がある。戦のときに軍が集結する場所なので、宮殿と同じくらい広い。その広場の西に軍の施設、東に役所がある。軍が来るとしたら正面の軍の施設からだろうか。けれど、No.9とNo.15が軍を率いていると言っていた。その軍は北東部に在中していた軍なのか、他のところから来た軍なのか聞かされていない。そもそも、敵の数ってどれくらいなのだろう。
あれ? 敵って誰? 東宮奪還が目的で役人の不正を正すってことは、役人が敵? 役所に勤めている役人って丸腰だよね。その人達に武器持って攻めるの? あ、そっか。そーゆーことされたときのために軍がいるんだっけ。じゃ、具体的な敵は軍? えーっと。No.9とNo.15は東宮奪還つながりで味方のはず。で、軍を率いてる。だったら誰が敵? @_@
役所を背に自分が立っているの道は、何も無い場所。役所の北側。北東角に近い。道から広場の方を見ても、No.9の軍は遠すぎて分からない。反対側、すぐ近くに川。宮殿の出入り口も役所の出入り口もない。
「暴れられそうにないな。ここじゃ」
と、隣で麗様があくびをしている。
反対の隣の人が話しかけてきた。
「兄さんら、戦は初めてか?」
「「はい」」
「オレは兵役でちょっと経験しただけだが、意外と待ち時間が長い。それと移動」
「「こんな感じですか?」」
「まあ、そうだな」
麗様はあから様にがっかりしている。
しつもーん。
「役所の人達は、お昼、食事を買いに出たりしますよね? それがなくても、夜には家に帰ります。どうするんですか?」
「さあな。下っ端役人まで全員痛めつけようなんて思っちゃいないだろう。包囲して、こっちの意思表示するのが今日の目的じゃないのかな」
なーんだ。よかった。丸腰の役人を狙んじゃなかった。ヨカッタ。ちょっと人道的に炎上案件だもんね。
「知事も家に帰ってしまうぞ?」
麗様が言った。うんうん。真っ先に帰ると思う。1番狙われてるんだもん。
「知事は服装が違うから分かる。紫の服にでかい鶴の刺繍がしてある。それに、特別な馬車で帰る」
うっわ。絶対ダミー使って逃げるよ。
まだまだ寒いから、コートかマントを羽織ってて、服の刺繍は見えないだろーし。
それくらいテキトーでいいのかな。暴動は世を揺るがすものだから。あまりに上手く行っては、権力者が困る。あれ? 東宮の救出が目的じゃないんだっけ。
No.9は東宮の幽閉に抗議するために、統治者である皇帝の弟の宮殿前にいる。No.15は東宮を奪還するために港に陣を張る。この2つは理解できる。
知事や役人の行いに頭に来て、役所を囲んでいるのは? あ、そっか。東宮を捕らえたのは、港の役人。役人のトップは知事。いーんだいーんだ。一瞬、どさくさに紛れての憂さ晴らしかと思っちゃったよ。
なんか、ぼーっと立ってるの飽きた。明日は参加するの、やめよ。
「麗」
いつもの武官の服とは違い、甲冑姿の劉氏が来た。麗様の名を呼び、隣にいた私に気づいて、目をまん丸にしている。口が『シャ、シャ、シャンフーさま』とぱくぱく動いている。
「「お疲れ様です」」
麗様と共にご挨拶。
「麗、伝言だ。宦官が『傷が完治していないから帰りなさい』と言っていた。すぐに、そちらの者と共に帰りなさい」
No.9は、あんなに遠くから麗様を見つけた模様。愛だわ。
「問題ありません。それよりお聞きしてよろしいでしょうか」
麗様は、No.9の心配を華麗にスルー。劉氏は困った顔で私を見る。大丈夫ですよー。立っているだけですから。
明らかにプロ戦士。イカツイ甲冑。頭のてっぺんには鶏みたいな赤い飾りがついて、大将クラスと一目瞭然。
劉氏の貫禄に、周りにいた青巾隊が見物に寄ってきた。
「なんだ? 麗」
「軍は、この区域の軍なのですか? それとも都からの遠征ですか?」
「ここの軍だ。軍は皇帝の命によって第9皇子と第15皇子に従った」
「では、兵士が全てこちら側についているということですか?」
「いや。皇帝の弟は、密に私軍を持っているという噂だ。それとは別に、知事の一派の私軍は騎兵隊」
「どれくらい本気で行けばいいのでしょうか。劉氏様は、宮殿の前にいらっしゃるだけ。こちらも抗議の意思表示のみでよろしいのですか?」
麗様ったら、言いにくいことを。今、だる〜っとしてるもんね。
「軍は、相手から何かを言われない限り動けない」
「動かないなら意味がないのではありませんか?」
「ある。我々がいれば、皇帝の弟は知事と相談ができない。宮殿の全ての門に兵を配置してある。今、動きがないのは、知事と連絡が取れないからだ」
「知事を捕まえても構いませんか?」
「本音を言えば、弾劾裁判まで持ち込みたい。捕えれば、力が弱まり、周りの者達が不正の証言をして糾弾する」
「「「だんがい?」」」「「「きゅーだん?」」」
麗様はじめ、周りにいる青巾隊が首を傾げる。劉氏は言い直した。
「真剣に頼む。戦闘になったら、そっちの方が激しくなる見込みだ。騎馬隊が出てくるのだから。知事を自宅に帰らせたら、騎馬隊を率いてくると思え」
「「「「「マジか」」」」」
やっと具体的な戦闘の相手が分かった。皇帝の弟の私軍と知事の一派の騎兵隊。
「どうした、麗。難しい顔をして」
「今のままでは確実に逃げられて騎馬隊コースです」
麗様の考えは正しい。ど素人の私にだって分かる。
「それは困った。しかし、私は麗を帰すように伝言を頼まれた身だ。そして、一介の武官。罪状もないのに知事に手出しなどできない」
立場的に、動けないんだね。だから、知事は青巾隊に捕まえてもらいたいと。
「真剣にやっていいんですね」
麗様が念を押す。それに対して劉氏は、明言を避けた。
「個人的には青巾隊に期待している。しかし、麗への伝言は『帰れ』だ。特に、その隣の者は、お帰りください。お願い申し上げます」
ダメぇ。ガチ敬語遣わないで。ほら、周りが変な顔してる。
問題発言だけ残して、劉氏は宮殿前に戻った。
麗様の周りがざわつき始めた。誰かが建物の正面にいた代表者を呼びに行く。朝、皆を鼓舞し、乾杯の音頭をとっていた男が走ってきた。
「麗、さっきの偉い人、、、珊瑚?!」
バレちゃった。家に出入りして飲んでたんだもんね。お化粧してなくも、男の服でも分かるよね。
「来ちゃいました」
「帰れ」
「ムリめになったら、帰ります。それより」
私は掌を上に向け、麗様を指した。
「今のままだと逃げられるって?」
代表者は麗様に尋ねる。
「はい。さきほど聞いた話では、知事を逃したら、騎馬隊が出てくるという話です」
「包囲するくらいじゃダメか。バリケードか」
発想が使い古し。青巾の乱でうまく行ったからって、全く状況が違う。
「地図を見せていただけますか?」
麗様にスイッチが入った。




