忠義堂
2人の小汚い乞食坊主は、ゴリラと毛モジャだった。
「! お久しぶりです」
No.15を救出できたのは、ゴリラと毛モジャのおかげ。お礼と報告をすると、既に全て知っていた。
この街へは、様子を見にきたのだそう。
「いつもは、もうちょっと治安がいいのですが」
そんな風に答えると、2人は「準備は整っとるな」と満足げ。
準備?
「ワシら、梁山泊におったんや」
「そこでボンに会った。ほら、役人の息子」
「ああ、はい。分かります。あの方は都に行かれたのでは」
「そーじゃ、そうそう。都に行く途中に知らせてくれた」
都の途中?
首を傾げながら、皆が、麗様と私が元住んでいた家を梁山泊と呼んでいることを話した。
「はーはっはっは。離れとっても青巾隊はみんな一つじゃ」
毛モジャが喜ぶ。
都の途中には、本物の山、梁山泊があり、青巾隊のロマン派がその近くの廃墟となった寺に住む。ゴリラと毛モジャはそこに身を隠していた。
ボンは、ロマン派が潜伏する梁山泊を訪ねた。それは、ただ意見を聞きたいという純粋な探究心からだった。そこで3人は遭遇。ボンはゴリラと毛モジャに様々なことを伝えた。
「じき、でかいことが起こる」
ゴリラは笠の下から鋭い目で街のあちこちに屯するガラの悪い男達を見た。
「でかいこと?」
「これをやろう。街じゃに売り切れんなるからのう」
毛モジャは青い巾をくれた。色褪せた物が洗って綺麗に畳まれている。
「お、じゃ、こっちは麗の分」
ゴリラは懐に入れてあった、よれっとした生暖かい青い巾を出した。
「こんなに大切なもの、いいのですか?」
「オラ達は、2、3枚持っとる」
「ありがとうございます」
街でガラの悪い男3人を相手にしたことは、もちろん、師匠の麗様に報告した。ささやかであっても勝利は刺激になり、毎朝の武術の稽古に力が入る。
服は紺色の上下。男物。東宮殿で最初に貰った服は、とっくに小さくなってしまった。13歳で始めた武術は4年目。東宮殿を出てからの方がずっと上達した気がする。日常生活で体を動かし、体力と筋肉がついたからだろう。
朝の稽古の後、元いた家に荷物を取りに行った。
書物。読み終わったものは、2階にそのままになっていたから。古本屋に売るか、竈で火を起こす時に使おうと思った。
「こっちに移しておいてくれてるかも」
言いながら納屋に近づくと、鍵が掛かっていた。
「じゃ、珊瑚、まだ2階にあるんじゃない?」
皆が「梁山泊」と呼ぶ家に足を踏み入れる。
リフォーム後を見るのは初めて。家の1階部分が広くなり、イスがいっぱい。かつての麗様と私の部屋がない。残っているのは柱だけ。
でもって、大きな看板のような板が飾られている。そこには横書きで「忠義堂」。
「なんだあれ」
と麗様。
「たぶん、梁山泊が出てくる話の真似だと思う」
忠義堂は「水滸伝」で、英雄達が一堂に会する場。
2階の一部は取り払われて吹き抜け状、2階席があるライブ会場(?)さながら。残っている2階部分へ行って更に驚いた。鎧や盾、弓矢があった。盾があるなら剣もあるはず。
「すげっ。さっきさ、納屋に鍵掛かってたじゃん」
「うん。あっちにも何か入ってそう」
「あん中は、もっと物騒な物だらけだろーな」
剣、銃、弾丸、火薬。大砲もあるかもしれない。
東宮は未だ港の施設に幽閉されている。
本当に助けるつもりなのだろうか。
侵略でなければ、戦には手順がある。要求、話し合い、決裂、宣戦布告、戦。
「こーゆー感じ?」
「珊瑚、何やってんの」
「鎧、着たことなくて」
「ははは。剣構えて。似合う似合う。私も」
「麗様、ステキ♡」
武術の稽古に使った自分の剣でポーズを取る麗様。心の中で「カシャカシャカシャカシャカシャ」と連写して脳裏の画像データに保存。
「棒がある。突撃ーってやるのか?」
「こっちの鎧、竹でできてる」
「ホントだ」
「持ってみて、麗。盾、ちょっと重い」
「私は無い方が動けるな」
きゃっきゃきゃっきゃと2人で遊んでいた。
なんだか外がざわざわしている気がする。窓からそーっと覗いた。
「麗、大変。いっぱいいる」
家の外は人だらけ。青い巾を被った人が多い。そうでない人も手に青い巾を持っている。庭だけでなく家の前の道にも。
「準備すっぞ」という掛け声で、どどどどっと階段を駆け上がってくる音がした。麗様と2人で物陰に隠れた。男達は鎧や盾、弓矢を持って、下に下りていく。麗様と顔を見合わせた。何してるんだろ。まさか、本当に出陣?
疑い半分で、鎧姿のまま1階に下りていく。男達は鎧を身につけている最中だった。
大慌てで、私は青い巾を頭に被って髪を隠した。ちょうどゴリラに貰った方を持っていた。星や馬につけられる鼻水を拭くのに普段使いしていたから。今日はまだ綺麗。
『ない』と麗様が口パク。綺麗な毛モジャからの方を渡したのに。朝一で持ってないよね。
すぐ前で鎧を身につけている男が、青い巾をイスの上に置いていた。さっと麗様はそれを被る。鎧を身につけた後、男はイスの下などをしばらく探していた。隣の男が尋ねる。
「どした?」
「オレの青い巾、ない」
「2枚あるぞ」
「さんきゅ」
無事解決。
広いスペースの隅、壁の前に立って見渡す。家の中にいるだけでも100人以上。
中央のイスの上に立つ人が声を張り上げた。
「我々は、東宮奪還を目指す! これは、決して皇帝を崇めるためではない。中抜き・ハコモノ・天下り・賄賂・癒着・洗脳。不正によって私服を肥やす役人や知事を叩くためだ! 第9皇子の軍は、皇帝の弟の宮殿前に武装して抗議の座り込みをしている。第15皇子の軍は東宮を救出するため、港に陣を張る。我々が目指すのは、知事のいる役所」
イスに立つ人がチェンジした。
「同志、青巾隊ヒャッハー派が北西部から来ている。大暴れしてくれること間違い無い! そして、南からは、呉力と毛嘉率いる青巾隊ロマン派が来る!」
「「「ゴ・リーと毛ジャーが?!」」」「「「やった。あの二人が!」」」
一同がざわつく。めちゃくちゃ人気者。でもって、街に屯してたガラの悪い輩はヒャッハー派だったのね。
「弓が得意な者は弓を取れ。剣と槍なら納屋の前だ。猟師は銃。火薬はいくらでもあるぞ」
そのとき、お盆に乗せた盃が回ってきた。麗様と2人、末席で盃を持っていると、誰かが酒を注いでくれた。うっかり、右手で盃を持ち、左手を添える。麗様につつかれ、漢らしく片手だけで盃を持ち直した。足も広げて仁王立ち。
イスに立っている人は、盃が皆に行き渡ったことを確認する。
「ムダ死にはするな! 多く生き残ってこそ新たな道が開ける。危ないときは逃げろ。今から役所を包囲する! 知事と役人を叩くぞ!」
「「「「おおーっ」」」」
「叩くぞ!」
「「「「おおーっ」」」」
「叩くぞ!」
「「「「おおーっ」」」」
パリン パシャ パリン ガシャ パリン パシャ パリン ガシャ パリン パシャ パリン ガシャ パリン パシャ パリン ガシャ
酒を飲み干すと、皆、盃を床に投げつける。え、どうして? 割っちゃうなんて勿体無い。あ、でも、軍記物に出てきたっけ。例え死んでも後悔しないって覚悟の儀式。
パシャン
投げたよ。ちゃんとカッコよく割れたよ♪
麗様、このままだと、私達、暴徒として参加することになっちゃうんだけど。麗様の様子を窺う。あ、ダメだ。戦闘モードになってる。理由関係なく、鈍った体を動かしたいって気持ちが、きらきらお目々と笑顔にダダ漏れている。




