恐怖の人間ホイホイ
皆が口々に思ったことを言い始めた。
「皇帝のメンツを潰した」「北東区域から帝国への宣戦布告だ」「知事は皇帝の弟を盾にして、皇帝を倒そうとしているのか?」「東宮に接触しとるなら、東宮に皇帝を倒させるんじゃないか?」「知事は何をしたい」「ヒャッハー派の討伐はどうなった」「東宮にヒャッハー派討伐を頼むのか?」「武装した船は都へ帰した」「じゃ、青巾の乱みたいに話し合いさせるのか」「だったら幽閉することない」
ややこしい。AとBが敵対してますってシンプルじゃない。
皇帝、東宮、皇帝の弟、知事、青巾隊、青巾隊ヒャッハー派、鎖国派、開国派。
「どうであれ、東宮が囚われたままでは、知事側が有利なのでしょうね」
そう言うと、火に油を注いでしまった。
「まず、東宮を助けるべきや」「皇帝はどうお考えなのだろう」「科挙に響く」「これが科挙の問題だったら、どう論じる」「皇帝が息子の幽閉を黙っているわけないだろう」「都から軍が来るのか?」
「オレらは世を正したいんや。少なくとも知事がやっとることは、正しくない。東宮を捕まえて、もっと正しくないことを企てとるかもしれん」
「東宮を助けるぞ」「助けるっちゃ」「直談判だ!」
「知事や役人は北の騎馬民族が祖。南にいた民族を攻撃することに抵抗はありません。丸腰の民でも斬り殺します。発砲します」
役人の息子が言った。辛い立場。自分も騎馬民族が祖なのだから。
学院生の他の4人だって支配層の息子達。きっと騎馬民族の子孫がいる。
「武器やったら用意できる」
「ウチらは塩マフィアや」
「金も伝もあるで」
複雑な話に、やっと眠くなってきて離脱。
明日は、新しい歯磨き用の器を買いに行こう。
冷たい風が頬に当たって目を覚ます。
窓が開け放たれ、冷気と共に柔らかい日差しが窓辺にあった。
隣で寝ていたはずの麗様の布団はなく、布団の目隠しに置いてあった衝立も取り払われている。囲炉裏の上には鍋が掛かって、美味しい匂いが漂っていた。
「おはよ、珊瑚」
「おはよう。麗が片付けてくれたの?」
「綺麗に片付けてあった。朝ごはんも作っておいてくれたし」
「えー! 食べる」
「もう昼だけど」
「うっそ」
「仕事で睡眠不足だったんじゃない?」
「かも」
朝食だけでなく、昼食分もお米が炊かれていた。惣菜も、野菜、肉、芋、魚。素晴らしい! +囲炉裏の汁物。
麗様は窓を閉めた。あまりに酒臭くて空気の入れ替えをしていたって。もう大丈夫。
恐ろしいことが起こった。
夕方になると、前日のメンバーが集まってきた。学院生も青巾隊も人数が増えている。
麗様は宝石店に挨拶に行き、私は歯磨き用の器を買い、2人で街から戻ると、家の前に黒々とした集団。
家は立ち入り禁止にした。諦めるだろうと思ったら、深夜まで庭で騒いでいた。
麗様が作ったテラスは演説の舞台。朝見ると、庭に焚き火の跡があった。
寒いし、次の日は来ないことを期待した。甘かった。更に増えている気がする。ダーリン大工の丁さんもいる。
何だかよく分からないけれど、スローガンが「東宮を救え」になっている。
昼間、道で大家さんに会った。「青巾隊に困っている」と世間話。
「青巾隊。かっこい、、、じゃなくて。オレが追い払ってやるよ。珊瑚の兄さんはイケメンだが、まだ若い。貫禄ならジジイのオレだな。まかせなさい。ちゃんと言ってやる!」
「お願いしますっ」
これでOK。けれど、安心したのも束の間。大家さんはあっさり取り込まれた。その次の日には近所の人達を連れてくる始末。大家さんやお年寄りを寒い外に締め出すわけにいかず、家を開放。麗様と私はオンドルを諦め、自分達の部屋で寝た。寒かった。
麗様は、宝石店に来たNo.9に相談した。
「ぬぁに?! 女2人の家に。それは由々しき問題だ」
しかーし。訪れたNo.9とNo.15は英雄扱い。
家中に人が溢れ、庭にも人人人。連絡が行き渡っているのか、みなさん、酒飲み用の器と箸やおつまみ持参。
イスの上に立つNo.9とNo.15は酒が満ちた器を高く掲げる。
「東宮を助けたい! 力になってくれるか」
「「「「おおおおおおーーーー」」」」
「今、皇帝に判断を仰ぐ文を送っている最中。もう少し待ってくれ」
宴。
なんでこんなに簡単に仲間になるんだろ。この勢いって何? ノリ?
この家って人間ホイホイ?
役人の息子の姿がない。
「あの方は?」と学院生に聞いた。通称ボン。
毎晩青巾隊の集会に参加していると親にバレ、学院を退学させられた。都にある別の科挙予備校に通うことになった。現在、都へ向かっているところだそう。
役人側の情報が筒抜けになってたんだものね。親としては、保身のためにも、知事から息子を守るためにも、そうせざるを得ない。
それにしても、こんなに毎晩、よく続く。
麗様と私を気の毒に思ったのか、大家さんが他の場所を用意してくれた。
「ありがとうございます。どんどん増えますものね。広いところがあったのですね」
他の場所に移るのは、私達の方だった。なんで?
畑を挟んで同じ道沿いにあった養蚕用の家を、ダーリン大工と仲間達がオシャレにリフォーム。納屋付き、オンドル付き、星専用の出入り口付き。
やっと安眠できた。
私達が引っ越した後、元いた家もリフォームしていた。
「あの家のこと、みんながリョーザンパクっつってた」
と麗様。梁山泊。
「あははは」
「珊瑚、知ってんの?」
「英雄がいっぱい出てくる物語の真似してるんだと思う」
梁山泊は「水滸伝」という水の滸の物語に出てくる。水のほとりに梁山泊という名の要塞的山がある。世間から外れたアウトローがその山に集結。アウトロー達は英雄となって、悪い権力者と戦い、世を救う。そんな内容。
雪が道の隅にあっても、日差しが暖かい季節になった。
バイトの納品のために街へ出かけて気づく。風紀が悪い。
バイト先、書店の店主は眉を顰める。
「最近、ガラの悪いのが増えた。安宿はヤツらでいっぱいらしい。飼葉が足りないって馬宿の主人が嘆いてたよ。ま、あーゆーのは、書物など読まないから、ウチの店には来ないが」
着の身着のまま、髪はぼうぼう、風呂に入っていない臭いを放つ輩があちこちに屯する。どこかで飢饉でもあって、流れてきたのだろうか。
「やめてください!」
道の隅、セレブ女子がガラの悪い男達に絡まれている。周りには大勢の大人がいるのに、怖くて誰もが見て見ぬふり。
「ちょーっと、あっち行こうや」
「オレらにガン飛ばしたろ」
「やめて!」
「すぐ終わる、すぐ終わらせてやる」
男達は女子を裏路地に引っ張り込もうとする。
咄嗟に体が動いた。セレブ女子の手首を掴んでいる男の腕を肘打ち。相手が驚いている一瞬にセレブ女子を引き放し「逃げて!」と叫ぶ。
「なんだお前ぇ」
「ひゅ〜。女ならよくね?」
3人がかりで来られた。相手の動きは麗様とは比べ物にならない。遅い。動きが単純。わざと誘ってギリギリで避け、仲間にパンチを受けさせる。転ばせる。いーち。1人、仲間のパンチでダウン。にーぃ。1人、勢い余って露店の焼き芋屋に激突。ダウン。さーん。1人、剣を奪って、ミニスカートにしてあげた。もちろん、足の付け根よりも上で。脱兎のごとく逃げていく。
「ありがとう」
「「「ありがとう」」」
助けた人だけでなく、周りからもお礼を言われた。
何年かぶりの実践での勝利に気分アゲアゲで歩いていると、小汚い乞食坊主2人に行く手を阻まれた。道のど真ん中、托鉢の器を持ち、目の前でお経を唱え始める。衆人環視の中、器に何か入れないわけにいかない。こんなやり方、横暴。ムカついたから、1番小さな小銭を1枚ずつ入れた。
「ケチ臭いのう」
「元気か」




