舐めくさりやがって
「東宮が幽閉? なんでや」
「第15皇子が拐われたばかり。おかしい」
青巾隊&学院生の飲み会が始まっている。
「オレらは何もしとらん。なのに青巾隊の弔い合戦みたいに言われとる」
「分かっている。青巾隊がそんなことをするわけがない」
「何かあるべ」
「オレ達もそう思って、青巾隊の2人の意見を聞きに来た」
「学院の寮に遊びに来ていた青巾隊のリーダー達の」
「オレらも探しとる。で、ここへ来た」
「第15皇子を拐ったことにされとるのが悔しゅうて悔しゅうて」
「勝手に犯人みたいに発表されて、そのまんまや」
数日前、青巾隊は、No.15が監禁されている屋敷まで行き、直談判をしようとした。人の気配がなかった。そのうち帰宅するだろうと屋敷の前で待っていると、役人がやってきた。役人は家を調べ、出てくると、皆を睨んだ。
『中で2人死んでいる。お前達、何か知らないか』
また青巾隊のせいにされては困ると、一斉に逃げた。幸いそのとき雪が降っていて、皆菅笠。青巾隊とバレなかった。
「呉力と毛嘉なら、なんかしてくれると思った」
ゴリラと毛モジャの名は、ゴリーと毛ジャーだったのね。知らなかった。
「ここを去るとき、2人は、山ん中の知り合いん家に寄ってくっつったべ」
「えろう綺麗な兄妹やっちゅう話で」
「人に聞いたらすぐ分かった」
個人情報!
そこで、学院生の1人が、役人の息子だと紹介された。彼がいるから、様々な情報が入る模様。
「なぁ、役人のボンよ。第15皇子が捕まったのは、青巾隊と仲良かったからなのか?」
「そうです。父が他の人と話してるのを聞きました。まさか友達をこんな目に合わせたことに自分の父親が絡んでるなんて。ガチで辛かった。申し訳ありません」
「やったのはお前さんやない。役人らや」
「せやせや。父親って考えるな。ボンの父親は、役人って立場でやったことや」
「で、なんで解放した? 監禁しとった屋敷で2人死んだのはなんや?」
役人の息子は説明した。窓を塞いだまま、部屋の扉には鍵がかかっていたのに、第15皇子だけが消えた。亡くなったのは、使用人と不審者。調べるなと上から言われ、コソ泥の仲間割れとして処理された。
「あの屋敷は誰のや?」
「皇帝の弟です」
それを聞いて、一瞬静かになった。そして誰かが「そりゃ、調べたらあかん」と言った。
風呂屋の宴会場で、青巾隊は、塩商の知り合いくらいに考えていた。あまりの大物が出てきたことに驚いている。
しばらく宴的雑談。何だか、盗み聞きが嫌になってきた。
「眠れません。私もご一緒していいですか?」
参加表明すると、大歓迎された。
ぐるっと見回し、私の歯磨き用の器を探した。うっ。鼻ほじった手で。新しい器、買お。
役人の息子が発言する。
「とにかく、知事以下役人達は青巾隊を恐れている。街じゃなく、辺境で暴れまくっている方を。あの者達も青巾隊という話は本当ですか?」
再び始まった青巾隊関連の話題。私は静かに聞いた。
「ああ。あいつらな」
「いろいろいるんだよ」
青巾隊は、塩湖で10万人規模の暴動をした後、かなり小さくなった。10万人規模になったのは、その地に暮らす人々の大半が参加しただけ。核のメンバーは少ない。
暴動は、要求が受け入れられて和解。その後、青巾隊は「一丸となるための分かり易い目標」を失った。
そして、核は3つに分裂。仲違いというわけではなく、大半が霧散した後、残っていたメンバーがなんとなく連んだ。
1つ目が、ゴリラと毛モジャが率いていた、古参派。
2つ目が、現在、北部を荒らしまわって義賊的なことをしているヒャッハー派。
3つ目が、正しく理想的な世を語るロマン派。
ロマン派? ベートーベンやショパンみたいに言わないで。
北東区域の役人が頭を悩ませているのはヒャッハー派。
青巾隊ヒャハー派は貧困層が多い。古参派は塩マフィア集団で裕福な方。ロマン派は、青巾隊の中では異色なインテリが多い。
ヒャッハー派は、人数が多く、何グループもある。それぞれのグループが、移動しながら穀物倉庫や役人の家を襲い、火を放って略奪をし、貧しい人々に配っている。
役人の息子が困った風に尋ねる。
「なぜ青巾隊は、よりによって北東部区域北区域に来たんですか?」
「オレらは、塩が高いとこに行く」
塩マフィアだもんね。塩が高い地域には闇塩があり、塩マフィアがいる。
「青巾の乱の後、塩湖の辺りの塩が安くなったべ。んで、北東部に来たっちゃ。この辺は塩官がピンハネしとって、まだまだ塩が高い」
「あと高いのは岩塩の採掘しとるとこやな」
「あっちは食い物も水も少ないでな。まず、自分らが生きていける場所を選んだ」
「ヒャッハー派が、北東区域と北区域は税取られすぎって言っとった」
「そんなこと、国中のみんな知っとる。南へ逃げる農民が多いもんな」
そうだったのね。知らなかったわ。
それから、話はやっと、東宮へと移った。
「東宮の船に役人は入港許可を出さなかったんです」
「何が起こっとるんや?」
「東宮はなんで来た」
「皇帝の弟は、東宮に『第15皇子が青巾隊に捕まった』と間違った情報を渡しました。塩湖の青巾の乱では10万の暴徒だった。だから青巾隊と言えば、武装してくる。武力抗争を企てているという理由で入港を拒否しました」
「ワシな、釣りしとった。したら、船に大砲の弾飛んでったぞ。あの船が東宮のか」
「たぶん」
「船からも大砲飛んだわ」
「なので船を捕らえました」
「船に大砲撃ったんは?」
「誰もそんなことはしていないことになっています」
「ボン、そりゃムリがある。大砲、あったぞ。その下でワシ、釣りしとった」
「それでもです」
「権力もっとるヤツや役人は何でもありなんやな」
「すみません」
「ボンを責めとらん」
「そーゆー世やっちゅーこっちゃ」
「おかしくないか? 権力があったら何をしてもいいのか?」
「おいおい。そんな考え方、科挙で落とされるぞ」
「科挙では大義が通る。官僚になってから出世できないな」
「で、なんで東宮が幽閉された。ワシは表の理由を聞いとるわけやない」
「知事は東宮に接触したがっていました。東宮は官僚の中で支持率が高い。皇帝とは鎖国派と開国派として対立している。開国派が多くなれば、皇帝は譲位を迫られ、東宮が皇帝の座に就く。知事は、そうなると見込んでいる」
(譲位とは皇帝・天皇・王が位を譲ること)
「東宮が捕まれば、知事はゆっくり話ができる」
「許したるから言うこと聞けっちゅうことか」
「知事? 皇帝の弟はどこ行ったべ」
「皇帝の弟より、知事の方が力があります。もとより、統治者の皇族に力があれば、東宮の船に入港許可がおりないなんてことはない」
「「「「確かに」」」」
知事のルーツは北方の騎馬民族の英雄。それを誇りにしていて、北東区域以北を手中にしようと狙っている。それはほんの手始めで、既に半分は叶ったようなもの。実際には帝国全てを掌握するという壮大な野望を持っている。
知事はまず、皇帝の弟を取り込んだ。かつて、バックアップするから皇帝を倒せと迫ったところ、拒否された。皇帝の座よりも兄弟を大切にする小人物と呆れ果てたそうな。怖いよー。聞いてる? 青巾隊。No.15に同じことさせようと目論んでたんだよ?
「兄弟ってのは、特別やからな」
どの口が言う。
だったら、東宮も「バックアップするから皇帝を倒せ」って言われてるのかな。それはないよね。親殺しは、せっかく高い東宮の支持率を底辺まで下げる。
知事は、皇帝が官僚達から譲位を迫られて、東宮の世になると予想して動いているのだから。
帝国一の絶対的権力者であるべき皇帝、次期皇帝が東宮。その東宮を利用しようなんて。
舐め腐ってるのね。
まったく、
「帝国の東宮を捕えるなど、世を揺るがす一大事ですよね」
ぽろっと一言が出てしまった。
私の言葉は、静かな水面に落ちる一滴の雫となって波紋を広げていった。




