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気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
梁山泊

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88/133

そういえば妻でした



一人暮らしで最初にしたことは、朝寝坊。

ゆっくりと身支度して、(リー)様の商売道具を届けに行った。



「麗は大丈夫かい?」

「はい。ケガが酷いので、しばらくお休みさせてください」



宝石店の店主は、昨日のことを知っていた。何者かが屋敷に来て「逃げろ」と言った。言われた料理人と使用人は、逃げた足で役所に駆け込んだ。宝石店を知っていた料理人が、店主に「アンタんとこの麗様が危ない」と知らせてくれた。



「じゃ、これ。ありがと。麗にゆっくり療養するよう伝えておくれ」

「はい」



店主から、薬と治療費名目の銀子を渡された。

貰っちゃった物は届けなきゃ。麗様に会う理由ができて嬉しい♡ 皇室別邸へ届けると、麗様は薬が効いて睡眠中。寝ることは、体力回復にとてもいいのだそう。



珊瑚(シャンフー)、それが何か知っているか?」



私の手にある店主からの薬を指し、No.9がきらりーんと目を光らせる。



「元気になる薬だと渡されました」

「精力剤だ」

「では、誰か男の方に」

「私はこんなものは無用」

「……」



聞いてないし。



「まあ、女性とて、元気になるのだろうな」



麗様が危険っ。



「持ち帰ります」



さっと薬を引っ込めた。



「昨日のことだが、役所では麗がいたことを把握していない。助けを求めた者達が説明し忘れたのだろう。好都合。命じた者は、刺客が失敗したことしか分からない。話を聞こうにも、屋敷の主人は逃げたままだからな」



事件はコソ泥の仲間割れと処理された。男の使用人の死体は巻き添え扱い。

当然のことながら、No.15に関してはなにもなし。窓を(ふさ)がれた監禁部屋があるのに調べないなど、上からの圧力しか考えられない。



「穏便に収まったのなら、麗は普通に職場復帰できます。安心しました」


「ところで、珊瑚、東宮の船が到着した」

「ええっ!」



ヤバいヤバいヤバい。思わず辺りをきょろきょろと見回してしまった。最初に言われなかったのだから、大丈夫なはず。



「しかし、港に入れない」

「どうかしたのですか?」

「こちらの区域の知事が、入港許可を出さなかった。武力抗争を企てている可能性があるという理由だ」

「第15皇子が拐われたからいらしたのでは……」

「通じなかった。乗っているのは兵士だったから」


「何か、別の力が働いているのですか?」



皇帝は東宮が邪魔。皇帝と皇帝の弟は仲良し。皇帝の弟が兄に代わって東宮に嫌がらせをした?



「ことは複雑だ。この北東部の統治者は皇帝の弟だが、当主の力が及ぶのは、この街近辺のみ。まあ、人と物資が集まる豊かな街だから、それで表向きは問題ない。しかし、広い北東区域以北は、代々この土地を治めていた民族である地方役人に力がある。最も力があるのは、それを統括する知事だ。皇帝の弟は傀儡(かいらい)異母弟(おとうと)を誘拐したのも殺そうとしたのも、そっちかもしれない」


「なぜですか?」


「分からない。青巾隊(せいきんたい)が邪魔というのはあるだろう。ただ、それだけかどうか。私がこの街で学ぶことになったのは、もともとは偵察目的だ。皇帝の弟にとっても知事にとっても、私達兄弟は疎ましい存在だろう」



皇帝とその弟は仲良しって聞いてたけど、そーでもないのかな?



「偵察は、区域全てということですか?」


「そうだ。この街の周りや更に北は、特殊なのだ。様々な国が立国し、消えた。古くから何度も襲来した凍つく地の騎馬民族が支配層。農民達はもともとここで生活していた者達。民族の違いがあるからなのか、かなり高圧的な統治がされている。現皇帝はそのことを心配されているのだ。もちろん、弟の力が全北東区域に及ばないことも」



へー。皇帝って、そーゆーことも考えてるんだ。意外。



「知りませんでした」



世の上級国民の複雑な話はどーでもいい。私にとってのポイントは、入港拒否で東宮が街に上陸しないこと。出歩けるじゃん。バイトで仕事貰ってこよっかなー。



「今、異母弟(おとうと)が、港に入れない船に食料などの物資を運びに行っている」



No.15が? せっかく逃げてきたのに、敵に姿見せるの?



「そのように目立ったことをしては危険です」


「はっはっは。真昼間で大勢の者がいる。街の掲示板に張り出した手前、どうするのか見ものだろう。喧嘩を売ってこいと言ったのだ」


「笑いごとではありません」


「今のままでは、誰が敵なのかも分からない。相手の出方を知りたい」



こーゆーとこだよ。青巾隊の人が「あの男は食えん」って言ってたの。矢面のNo.15は大丈夫なんだろうか。

ん?

チェストの上に洗ったサラシが畳まれている。まさか麗様がいつも胸に巻いていたサラシ。



「これは?」

「そんな物を巻いたままでは体が休まらない」

「……」



キッとNo.9を睨んだ。



「おいおい。ちゃんと自分で外していたぞ。私は治療するときに緩めただけ」







馬で家に到着。誰?

家の軒先、2頭の馬の横に(みの)を来た人が2人いる。ゴリラと毛モジャ? 体型が違う。ヒゲがない。



「ご用ですか?」



不審者だったら逃げようと、馬に乗ったまま近づいた。不思議なのは、星が一緒にいて尻尾を揺らしていること。



「珊瑚!」



驚いて声も出なかった。粗末な蓑を着て雪よけの笠を被り、鼻を真っ赤にしていたのは、東宮だった。



「……」

「会いたかった。会いたかったぞ。珊瑚」



共にいた男は「では、私は失礼します」と去っていった。

麗様は「訳あり嫁入り前のうら若き乙女」なんて私達2人のことを言ったけど、本当は私、夫がいるんだよね。

遂に、目を(そむ)けていた現実と対峙するはめに。



「お入りください」



東宮は、目と鼻から滝のように水を(したた)らせている。

()んでいても、一面雪の山の中。どれだけの時間待っていたのだろう。

玄関を開け、リビングに通す。囲炉裏に火を起こした。



「今度の家は、前の家より新しいのだな。おお、珊瑚が火を」



……ずび……ずずっ……



鼻水をすする効果音と共に、とても珍しそうな感動の声。後宮にいれば、自分で火を起こすことなどない。



「お待たせしてしまいました。寒かったのではありませんか?」



涙と鼻水を拭く布を渡し、お茶の用意をしようとすると、東宮は「座りなさい」と一言。

とうとう話が始まる。私はきっと、謝罪して、東宮殿に戻らなければならない。

寒いので、囲炉裏の横にイスを動かし、並んで座った。



「珊瑚には、辛い思いをさせた。父に地下牢に入れられ、そこから助けることすらできないほど私は無力で」


「とんでもありません。東宮が遣わしてくださった麗のおかげで、こうして無事に暮らしております。私の方こそ、南自治区から勝手に住処を変えたこと、お詫び申し上げます」


「探したのだ。珊瑚を」



東宮は手を尽くして私を探した。諦めかけていたころ、北東の街に『刹那落としの麗様に似た人が妹と一緒に現れる』という情報が入ってきた。詳しく調査している最中に第15皇子が誘拐された。運命を感じ、東宮自ら船に乗って、北東の街を目指した。



「実は。麗は今、皇室別邸で療養しております。第15皇子はすでに皇室別邸に帰られました。麗は、第15皇子を助ける際、ケガをしました」



これで、No.9とNo.15が私の所在を報告しなかったことがバレてしまった。



「青巾隊の者達はどうなったのだ」

「青巾隊は、誘拐に関与しておりません。誤報です」



そこまで話した後、私はイスから降り、床にひれ伏した。



「どうか、第9皇子と第15皇子を責めないでください。お二人にお会いしたのは偶然なのです。そして、私がここに(とど)まることを望みました。お二人は私の意思を尊重してくださっただけなのです」


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