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気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
青巾隊

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87/133

キュン死に値あーん

No.9は(リー)様の服をはだけて毒を吸い出した。クナイが(かす)ったのは、麗様が胸に巻いていたサラシの僅かに上だった。「ちっ」と説明時に舌打ちするNo.9。え、何?

傍でガタガタと震えている女主人に、No.9は言った。『聞いただろう。ここにいれば、お前も殺されるぞ』と。女主人は転びながら逃げていった。

No.9は、麗様を抱き、売り物を背負って屋敷を後にした。


チェストの上には、麗様の商売道具がある。

なんて冷静な。人が死ぬか生きるかの瀬戸際で、商売道具に気づくなんて。No.9に引く。


チェストの上にある、お盆に載った器と水差しが目に入る。まさか。No.9。麗様が意識を失っているのをいいことに、口移しで解毒剤を飲ませた? ちょっと待った。麗様が傷を負ったのはサラシの少し上。No.9はそんなところに、妓楼でなんやかんやして遊んでいる(けが)らわしい唇を押し付けて毒を吸い出したわけ? 許せない! 麗様の命を救ったはずのNo.9に、ふつふつと怒りが込み上げてくる。



「なんで、1人で出かけたんだよ。(りゅう)氏を連れていれば」



No.15がNo.9を責める。



「ちょうど、東宮が来る件で話をしていた」

「それでもっ」



そこまででNo.15は黙った。元はと言えば、捕まったのは自分だったからだろう。それに、過ぎたこと。どうにもならない。



「助けてくださってありがとうございます」



言いたいことは多々あるけれど、私はNo.9に一応お礼を言った。No.9は首を横に振る。



「クナイを投げるのが、ど下手クソなオレのせいだ」



麗様は意識が戻っても、体が痺れた状態で普通に動けないだろうとのこと。No.15が(さら)われたこともあり、No.9は学院を欠席中。時間があるので自分が看ると言う。

させるか!



「いえ、私が。それか、侍女をお付けください」

「ここさ、侍女いないんだわ」



No.15が教えてくれた。侍女がいない屋敷なんてあるの?

未婚の皇子が住む若葉宮はオール男。そこから移ってきた人員なので、現在の皇室別邸にいるのは男だけ。様々な陰謀を鑑みての体制らしい。要するに、できちゃったから認知してって問題ね。皇子達にその気がなくても地位や金目当てで狙われる。

No.9が妓楼で遊ぶのは、そういった心配がないから。

そのNo.9はどう見ても麗様にご執心で、下心しか感じられない。



「麗は男と思われている。だから、この部屋でこっそり看病しているのだが。皇帝の弟から匿うためにも」



ふざけるな。シモの世話までやろうとしてるんじゃないだろーな。この、ど変態くずエロメガネ。



「第9皇子にお手を(わずら)わせるなど、とんでもありません。即刻、連れて帰ります」

「いや、しばらくは安静にしないと」



私を遮るNo.9。


昨日はそれだけではなかったらしい。No.9が麗様と馬で皇室別邸へ向かうとき、青巾隊の集団を見た。

ここへ来る前に見た、雪が踏み荒らされた跡を思い出す。



「大勢が青い巾を被っていた。あの道の先にある民家は数軒。恐らく、あの屋敷に向かったと思う」

「「青巾隊が?」」

「それどころじゃなかったから、何があったかは知らん」



そこで初めて、No.15に風呂屋の宴会場で聞いた話をした。

No.15を皇帝にしようと喋っていたこと、皇帝、東宮以下兄弟を排斥するとき力を貸そうと話し合っていたことを。恐らく、そのためにNo.15を助けようと、No.15が監禁されていた屋敷に行ったのだろう。



「はあああ?!」



No.15はびっくり仰天。No.9も首を傾げる。



「どーしてそーなるんだ?」

「ツートップがいないと、自分達の味方かどうかという点が判断基準になるようです」



No.9は残念がる。



「あの、かっこいい青巾(せいきん)隊はどこへ行った。2人いなくなるだけで烏合の衆か?」


「なので、早く第15皇子を助けなければと思いました」


「珊瑚、マジでありがと。そんな風になった青巾隊に助けられたら困る。そのすぐ後、刺客が来てるし」


「ところで、東宮がこちらへいらっしゃるのですか?」



唐突だったけれど、気になって仕方がないことを尋ねた。



「ああ。東宮には第15皇子が拐われたと文を送った。しかし、皇帝の弟から皇帝経由で、東宮に『青巾隊』が犯人だと間違った情報が届いていた。なので東宮は、兵を率いてこちらに向かっている」


「青巾隊の2人が亡くなったという偽情報は伝わっているのでしょうか」


「全く分からない。東宮とて、手探りだろう。先の青巾の乱は、塩湖(えんこ)の地方役人が隠していたうちに規模が拡大した」


「だから皆、ばたばたしてんだな。東宮と護衛だけだったら10人ちょい増えるだけだけど、軍つったら、受け入れ大変だもんな。あれ? オレが助かったから、もう来なくていーんじゃね?」


「船で向かっているから知らせるのが難しい」


「へー」「そうなのですね」


「しばらくは街に来ない方がいい」


「はい。そうします」


「で、申し訳ないが、麗の仕事の道具を、勤務先に届けてくれないか? 東宮なら、まだ到着しない」


「はい。お預かりします」


「なにせ、宝石。持ち逃げしたと思われたら困る」


「勤務先には、どうのように伝えましょうか」


「突然襲われたと、麗に起こったことだけを伝えればいいだろう。あっちは揉み消したいはずだ。麗が狙われる可能性は残る。申し訳ないが、しばらくこっちで預かる」



む。麗様を取られた。

そんな話をしているとき、お粥が届いた。



「お持ちしました」

「ご苦労」



お粥が載ったお盆を受け取るNo.9に、No.15が「粥?」と尋ねる。



「そろそろ気がつくころだ」

「……ん……」



マジ? 本当にすごいタイミングで麗様が目を開ける。



「麗。大丈夫? 痛くない?」



私は麗様の手を取った。昨夜は本当に心配で心配で。

麗様が体を起こそうとすると、No.9がそれを支え、枕を背中の後ろに置いて、麗様がもたれられるようにする。そして、自分はベッドの横にイスを置いて座った。

脈を診て、額に触り、目の下のところを診た。麗様の手を持ち、全ての指先に順に触れて行く。



「どうだ? 痺れは? 傷は痛むか?」



No.9は医術の心得があるっぽい。



「痺れはある。傷は、普通に傷の痛み」

「ずきんずきんするか?」

「別に」

「昨夜うなされてたぞ」

「寝てたから知らん」

「粥、食う?」

「うん」



え、何。この(こな)れたやりとり。いつの間に距離詰めたの? 麗様の勤務先の宝石店に通ってたから?

No.9は麗様の前にお粥の載ったお盆を差し出す。麗様はスプーンを手に取ろうとし、痺れからなのか、持ち上げることができなかった。と、すかさずNo.9がスプーンを持つ。そして、あろうことか、ふーふーとお粥を冷ましてから、麗様に、



「あーん」



やめてぇぇぇ!

麗様は、なんの躊躇(ためら)いもなく、かぱっと口を開けたのだった。

……。ショック。麗様の「あーん」は、私がしたかった。まるでヒナのよう。凛々しい麗様とのギャップがありすぎる。キュン死に値。

口にも痺れがあるのか、麗様の口の隅からお粥の汁が溢れる。No.9は、それを丁寧に拭く。



「すまなかった。オレの投げたクナイが」

「別に。助かったし」



No.9は2口目のお粥を、またふーふーして麗様の口元に運ぶ。麗様がかぱっと口を開く。かわいい!


ちょいちょいとNo.15に(つつ)かれた。No.15を見ると、扉を指差す。え、出ようって? でも。

後ろ髪を引かれながらNo.9の寝室を出る。No.15は麗様の商売道具を持ち、星の尻尾が完全に出た後、そーっと扉を閉めた。



「アイツに任せよ」

「うん」



不本意だけど。



「珊瑚があの家に1人になる。そっちが心配」

「大丈夫だよ。星がいるもん」

「わん!」




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