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気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
青巾隊

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85/133

助ける必要あるっけ

|(リー)様が尋ねた。



「マダム、オンドルが壊れてしまったのですか?」


「麗様、聞いてちょうだい。ウチにね、可愛い猫ちゃんがいるの。からかって遊んだから仕返しされたのよ。どこかからネズミを獲ってきて、(かまど)に入れたの。オンドルの方だけに何匹も。もうっ。料理人が仕事をし始めて、初めて分かったの。今、竈の掃除中よ。朝から酷い臭いがして、やっと部屋が臭わなくなったところなのよ」


「マダム、きっと猫ちゃんは、暖かかったからオンドルの竈で遊んでいたのですよ」

「猫にまで優しいのね、麗様」

「マダム、寒いなら、美しい宝石を見て、心を温かくしましょう」

「でも、麗様が凍えてしまう」

「まさか。マダムと一緒なら、私の心は熱いまま」

「麗様♡_♡」



麗様はさりげなくマダムの腰に手を回してエスコート。


今日はオンドルが稼働していない。こんな絶好のチャンスはない!

よっし、予定変更。鍵を食事用の窓から渡すだけのつもりだったけれど、救出を決行しよう。

猫ちゃん、ありがとうー。


早速、外へ出て煙突の下の方、鉄の扉に触れてみる。OK。冷たい。頭の中にオンドルの経路を思い浮かべる。いざ。


入場。煙突には上からの光が入る。この先は闇かも。行かなきゃ。No.15を助けなきゃ。床下に入るため、匍匐前進(ほふくぜんしん)姿勢を取るった。が、意外にも四つん這い大丈夫。よかったわ。背中に背負っていた荷物をお腹側にぶら下げた。

うわっ。顔になにかふわっとしたものが。蜘蛛の巣。ちょっと、こんなところに作らないでよね。うっ。また蜘蛛の巣。なんで私、こんなことしてんだろ。別に、アラサーフェロモンDカップで窒息しそうな男なんて、助ける必要ないんじゃない? わんこ耳つけて『クーン』とか言っちゃって喜んでる男。蜘蛛の巣が髪に。……。引き返そっかな。私がやらなくても、No.9がなんとかしそうじゃん。もっとスマートな方法で。

……。わんこ耳は見たいかも。


目が慣れてきた。煙突、床板の隙間、竈、意外にも光は溢れてきている。

この辺のはず。あった。これかな。どっちからどう開けるんだろ。んっしょっと。

オープン。

メンテ用の入り口の蓋を開けると、身構えるNo.15と目が合った。



『珊瑚! なにやってんだよ。ごそごそ音がしたかと思えば』



と目をまん丸にして驚いた表情のまま、小さな声を出す。



『助けに来たの。はい、鍵』



No.15に鍵をぽいっと渡す。私も小声。

部屋の中は豪華。めっちゃいい監禁生活じゃん。なんか、いろいろ揃ってるし。



ガチャ



『外れた』

『撤収。ついてきて』

『すっげー汚い格好んなってっぞ』

『いーの、また汚れるから』



青巾隊(せいきんたい)の人達がとんでもないこと相談してたとか、No.9が『皇子が青巾を握った死体になるかもしれない』と言っていたとか、説明は省いた。

メンテ用の入り口の蓋を閉め、煙突の出口へ向かう。出口は煙突からの明かりがあって分かりやすかった。


四つん這いになって進んでいると、なんだかお尻が熱い。



『熱くない?』



No.15を振り向いても闇。でも、すぐ後ろで声が聞こえた。



『竈に火ぃ点いたっぽい』

『ええーっ』

『やばい熱ぃ』



今なら周りの冷気でまだMAXじゃない。それでも火を使った熱だからめっちゃ熱い。私より後ろにいるNo.15は、もっとずっと熱いはず。



『急ぐ』

『いいから落ち着いて』



明るい煙突部分に到着。汗だく。

立ち上がって腰を伸ばす。あら? 



『皇子は立たないの?』

『狭くない?』



言いながらNo.15が立ち上がる。確かに狭い。近すぎて困る。No.15は汗で髪を額に貼り付けて、暑さでしんどいのか、はあはあと息が荒い。顔や服が黒くなっている。すす? 私の後ろにいたNo.15がこれだったら、私、どんだけ汚いんだろ。



『出るね』



こんな近くにいられない。まるで恋人同士がキスする近さ。ムリ。

初めて会ったときはひょろっとした少年だったのに、今、目の前に肩がある。煙突の中が狭いのは、胸板が厚いNo.15のせい。汗の匂いがする。


鉄の扉はまだひんやりと冷たいまま。それをそっと開けて周りを伺った。大丈夫。どこにも人はいない。

煙突の扉の前、私は背中の荷物から竹スキーを2つ出した。青巾のゴリラと毛モジャがくれた物。



『なにこれ』

『これで雪の上滑るの』



No.15と自分の足に装着。



『珊瑚、行きます!』



煙突の影から1歩の雪原に出た。

初めて竹スキーを履いたNo.15は転んだ。立ち上がり、1歩進んでまた転ぶ。



『珊瑚、滑る』



滑るための物だもん。



『じゃ、私に掴まって』

『え』


「誰だ、あっ」



使用人らしき男が竹箒(たけぼうき)を持ったまま走ってくる。



「きゃー。しっかり掴まってね」



庭は川に向かってなだらかな坂、竹スキーが滑り始める。

No.15は私の腰に掴まり、竹スキーの板は、重ならないよう私の板より外側に。



「すげ」



No.15の大きな手を腰に感じる。逃げているのに凄い安心感。たとえ捕まっても、絶対に助けてくれる。

川の側まで来た。水辺ぎりぎりは凸凹で滑ることができないから手前でターン。川沿いを滑り続ける。



「もうちょっと先まで行くから」

「速っ」

「皇室別邸の近くまで」

「珊瑚、前、うわっ」

「きゃ」



バサッ



進路に飛び出していた木の枝を潜る。No.15は背が高い分避けきれなくて枝に直撃。雪(まみ)れ。



「冷たっ。はっはっはは」

「どしたの?」

「楽しくなってきた」

「もう着くよ」

「やべー。これ、さいこー」



到着。最後の方は慣れてきて、No.15も一緒に体を傾けてくれた。



「ふー。誰もいないね」



辺りに人影はなし。熊笹が生い茂る、道からやや外れた場所。竹スキーを外した。



「雪の日だからな」



細かい雪が降っている。明るいところで見ると、No.15は髪も服も濡れ、汚れて、悲惨。



「じゃね」

「珊瑚、ありがと。すっげー感謝」

「感謝してる?」

「してるしてる。しきれない」

「じゃ、見つからないように帰ってね」

「珊瑚もな」

「じゃね」



振り向くと、No.15がまだ手を振っている。アホ。



「早く逃げて!」

「気をつけろよ」



そっちこそ。私が早く姿を消せば、No.15も帰るはず。

大急ぎで馬が繋いである場所に向かった。雪の中を走るのは、体力を消耗する。キツイ。服は汗だか雪だかびしょ濡れ。+泥泥。なんとか馬を走らせて家に辿り着いた。もう、足に力が残っていない。


あー、お風呂入りたい。沸かす気力はないから、体を拭くだけ。着替えて一眠りしてから夕食の支度にとりかかる。

そーだ! 元気を出すために見てみよう。


監禁部屋は豪華で、見事な品揃えだった。天蓋付きのベッド、彫刻が施されたクローゼット、螺鈿細工(らでんざいく)のチェスト。そして、猫耳、猫の尻尾。トラ耳、トラ尻尾。トラ耳は先が黒くて、後ろに白い円の模様まである再現ぶり。狼耳、狼尻尾。柴わんこ耳、巻尾。曲がりわんこ耳、ふわふわ尻尾。

つい出来心で持ち帰ったのは、曲がりわんこ耳、ふわふわ尻尾。


ふふ。元気出た。



雪が降り続く。(セイ)と一緒にオンドルの上。星はどこかで何かを食べてきたようで、首の辺りに血をつけて帰ってきた。そして、満腹で爆睡。

夕食を作って待っていたけれど、麗様が帰ってこない。ぞっとするほど静かな夜。


私がNo.15を逃したことで、麗様が仲間と思われて捕まったのかもしれない。超絶強い麗様だけれど、最近は朝、武術の稽古をするだけ。私に教えているだけでは麗様の力は磨かれない。体が(なま)っていて、捕縛された可能性もある。


朝まで待って帰らなかったら、皇室別邸に助けを求めよう。




「白い夜の火消し隊①」の話の後書きで、活版印刷の技術が1040年からあるのに、珊瑚が書を書き写すアルバイトをしているのはおかしいと気づきました。そこで、苦肉の策として、コスト面が問題ということにしました。


珊瑚が最初にアルバイトを見つける「災い転じて福にする」の話に、以下の文を加えました。


「多く売れる書物は、木版や活版印刷で行われる。しかし、コストがかかるため、一定数以上の売り上げを見込めなければ、人の手による書き写しとなる。

庶民の大半は文字を読めない。書物は、マイノリティな楽しみであり、売り上げの予測が困難。なので、技術があっても、多くの書物は安価な書き写しという古典的方法で複製される。」

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