利用価値ありNo.15
たった1日で事態が変わる。
はあ?!
街のニュース、掲示板前で自分の目を疑った。
No.15の誘拐が公表されている。しかも、『青巾隊の仲間が火事のために獄中で亡くなったことの報復と思われる』と書いてある。
掲示板の人だかりの横には、青い巾を被った人達がいて、中の1人が台の上に立って演説をしていた。
「塩湖での青巾の乱のとき、第15皇子は我々と同じ青巾を頭に被って、たった1人でバリケードの中に交渉に来てくれた。我々はそういう大事な人に危害を加えるなど、絶対にしない!」
そうだよね。青巾隊の人達はゴリラと毛モジャが生きてるって知ってるんだもん。報復も何もない。
いったい皇帝の弟は何をしたいわけ?
あれ? 皇帝の弟だよね。私の勝手な思い込みで、実はたくさんいる青巾隊の中の暴走グループとか、後宮の差金とかじゃないよね。
ハニー料理人の話では、金持ちの妾の屋敷、その金持ちは毒味などがあるから食べ物持参。No.9は、皇帝の弟のところから動物や人を繋ぐ鎖の注文があったと言った。うんうん。皇帝の弟でほぼ確。
変。
皇帝の弟の目的が分からなさすぎて、難しい顔のまま、風呂屋へ行った。
本日は、バイトの納品の日だった。徹夜でぎりぎり仕事を仕上げ、入浴どころか体を拭いてもいない状態。もう眠い。家に帰って湯船にお湯を入れる作業などしたくない。なので、湯冷め覚悟で風呂屋。
極楽極楽。
入浴後、広く暖かい宴会場でお茶を飲む。
ふーっと一息ついて、体の芯からのぽかぽかと寝不足にぼやーっとしていると、すぐ側に男の人達の集団が来た。先ほど掲示板のところにいた青巾の人達だった。
「もう広めるか? 本当は、青巾のツートップが生きてるってこと」
「早まるな。2人が捕まったらどうする」
「そーや。せっかく逃げられたんに」
「第15皇子は、街外れのでかい屋敷におるんやろ?」
「ああ。大工の丁さんの情報や」
「なんでや」
「それ誰の屋敷なん?」
「さあ」
「オレらやないとすると塩商か?」
「ここらの塩商は、もうとうに商店のオヤジんなっとる」
「塩湖の方の塩商の知り合いのとことか」
「ありうるな」
ふむふむ。ところで、皇帝の弟ってことは知らされてないっぽい。言いたくてたまらなくなる。
「なあ、監禁されとんさるんじゃろ」
「気の毒な」
「ええ子なんに」
「オレらの味方や」
「なあ、助けんか?」
「「「「皇子を?」」」」
「せや」
お!
これは助けてもらえるかも。
「どーやって」
「そら、みんなで屋敷ん前行って、正面から交渉や」
え。そんな正攻法に囚われなくても。
「あの子は何番目や?」
「東宮がおって、第9皇子がおって、結婚したのが2、3人くらいおったような」
「そっか、第9皇子もおるんやな」
「どうした?」
「オレら庶民のこと分かってくれるなら、そーゆー人に皇帝になって欲しいと思った」
「次男とか三男なら、皇帝と1人、2人排除すれば帝位や」
「15番目じゃな」
「だから、生まれたのは15番目でも、残っとるのは少ない」
「他の国じゃ、兄弟の権利は対等で、よく揉めるんやろ?」
「兄弟を何人も殺して王になるって、当たり前のことだもんな」
なんか、この人達、血生臭いこと話してる。Np.15を助ける話はどーなったの。
「よっし、第15皇子を助けて、バックアップしよう。そしたら、オレら庶民のことを考えて政治してくれそうや」
「バックアップするなら、第9皇子の方が上だろ?」
「あの男は食えん」
「直に話したんか?」
「いや。でも、胡散臭い」
うんうん。
「バックアップって?」
「第15皇子を皇帝にする」
「他の皇子を殺すってことか?」
「排斥って言えや」
「同じや」
「第15皇子が兵を挙げるとき、オレらが加わる」
「よっしゃ、みんなを集めて相談や」
「第15皇子を助けて、オレらのアジトへ連れてくぞ」
「「「「「おおー」」」」」
だめぇ!
阻止しなきゃ。
助け出されるだけならいい。でも、祭り上げられて青巾隊に磯巾着のようにくっつかれたら、おかしな方向へ行く。No.15だったら断るだろうけど、今度は青巾隊に囚われるかもしれない。
横にいる青巾隊の人達は、皇帝と他の兄弟を殺して、第15皇子を皇帝にしようとしている。
なんて短絡的な。ゴリラと毛モジャがいれば、こんなバカなこと考えもしない。
No.15にこのことを伝えなくては。
家では麗様が、食事を作って待っていてくれた。ありがたい。
「宦ちゃんがさ、皇子が殺されるかもって言った」
「なんで」
「目的が青巾隊を潰すことだったら、皇子の死体があった方が捕まえやすいから」
「ええっ」
そんな。
「殺して、死体に青い巾を握らせとく。で、青巾のせいにする」
「青巾隊がそんなことするわけないって、学院の人が知ってるじゃん」
「でもさ、学院生って官僚になりたいわけじゃん。上に従わなかったら官僚失格。目ぇつけられたら、科挙に受からなくなる」
「大丈夫。科挙の採点って誰の答案か分からないままするんだって。公平を期すために。私が知ってるんだから、学院生は知ってるよ」
「じゃ、官僚になってから出世できない」
「そっか」
官僚は出世が命。
「でさ、青巾隊は、皇子らしき人が監禁されてるって知ってるじゃん」
「うん。青巾隊の丁さんのカノジョの勤務先だもんね」
「青巾隊に、そーゆー可能性があることを伝えようかどーしようか、宦ちゃんが悩んでた」
「あ、今日お風呂の宴会場でね……」
聞こえた話を麗様に伝えた。
「そいつら、すっげー小物だな。なんでそーゆー方向に話が流れるんだ?」
「ね」
「宦ちゃん、だから悩んでたんだよ。伝えた相手がどこまで冷静に考えてくれるかって。ゴリラと毛モジャ以外は、血の気が多いから、間違った方向に進む可能性があるって」
「分かってるんだね」
「青巾の人達、そんな大事な話、人がいるところでしてさ。珊瑚に聞かれて」
「ほんと」
「青巾隊って、ゴリラと毛モジャがすごかっただけなのか」
「そーかも」
「皇子も大変だな。戦行かされたり、勉強させられたり、監禁されたり。今度は皇帝にされるため親殺しと兄弟殺しさせられようとしててさ。じゃない方には殺されるかもしんない」
聞けば聞くほど哀れな宿命。No.15って。
同じ皇子でもNo.9はぜんぜん違う。戦なし、勉強得意、監禁なし、利用もされない。実家が太いって重要。
「明日、絶対に鍵渡すね」
私は宣言した。
武術に長けたNo.15。鎖を外せば自分で脱出しちゃうかも。
「珊瑚、なにその荷物」
「下調べ用」
翌日。麗様との合流地点へ私は徒歩で行った。馬は別の場所に繋いである。下調べのために。本日は鍵を渡す。接客中に私が不法侵入する、という古典的な方法。
先に麗様が使用人に応対されるのを、玄関外、扉の影で聞く。様子を見て玄関から侵入。人の背丈ほどの見事な壺のインテリアの影に身を潜めた。
女主人が出てきた。アラサーのフェロモン美女。女の私でも目が行ってしまう見事なお胸。No.15は、このDカップで。でれでれクーン男め。窒息してしまえ。
麗様はマダムの前に跪き、片手にキス。
「マダム。ごきげんよう。今日もお美しい。まるで雪の精のようですね」
「麗様。あなたこそ美しいわ」
「ありがとうございます」
「今日は残念なことに、部屋に招くことができないの。オンドルが使えなくて、寒くてどうしようもないのよ」
なんですと?




