No.15緩い監禁生活
No.9に渡したので、自分用の設計図を紙に描いておいた。記憶にあるうちに。
ところで、どんなふうに窓が塞がれているの?
やっぱ、実際に見ないと分かんないよね。
馬に乗り、星と一緒に出かけた。あー、仕事溜まっちゃってる。
屋敷はポツンと一軒家。それは、皇族がお忍びで訪れるから人目を避けるためだろう。
ねぇ、星輝だったら、どうやって助ける? 窓なんて火薬で爆破しそう。
道側から、塞がれた窓は見えない。
星はそわそわしていた。やっぱり、ここにNo.15がいる。
「あ、星」
行っちゃった。
飼い犬だったら「犬が逃げました」って庭に入っていける。狼なんだよね。いっかぁ。犬として飼ってるんだから。下馬。
「星、入っちゃダメだよ。失礼します!」
なるべく大きな声を出し、屋敷の庭へ足を踏み入れた。
雪の上に転々とある星の足跡を追う。
途中、雪が溶けている部分があり、レンガでできた煙突があった。溶けているはず。メンテ用の鉄の入り口が少し開いている。おおーっ。温っかい。閉めた方がよくない? 冷気が入るし。鉄の扉を足で閉扉。だって、熱そうだし、服が汚れるの嫌じゃん。杏には絶対に見せられない姿。
星は建物の裏手、板を打ち付けられた窓の下でお座りし、尻尾をゆらゆら揺らしていた。
「星、帰るよ」
真っ白な雪が庭を覆っている。庭の裏手に垣根はなく、少し離れて山。
誰も出てこない。耳を澄ますと、甘い声が聞こえた。
「うふ。これはどうかしら。あら、かわいい。ぴくって動いたわ」
「かわいいなんて、オトコなのに」
No.15の声も。
「ダメなの?」
「いえ、いいです」
「あら、そんなに立たせて。やっぱり男の子ね。ほーら」
「こんなこと、やめましょう」
なになになに。何やってんの?
「うふ。怖いの?」
「……」
「怖がらないで。いつもみたいに優しくしてあ・げ・る」
「そんな風にからかって」
「こっちに来て♡」
「ヤられますよ」
「……あっ」
ぷぎゃー
そこで怒った猫の声がした。なんだ、オスの猫が毛を逆立てていたのね。
「大丈夫ですか?」
「その心配する目、いいわ! 猫耳つけて。ほら、わんこも作らせたの。これで」
「しねーし」
「ごはん、大盛りにしてあげるから。クーンってやって」
「クーン」
「よしよし。いい子」
「あの、胸で窒息しそうです」
なにしとん。
星は、腰を上げ、首を傾げてから、後ろの山の方にととととっと歩いていく。雪原を越えて追うと、山の手前を流れる小川で水を飲んでいた。
「喉乾いてたの?」
思わず星に「困ったね」と話しかける。
窓がいっぱい。しかも、監禁の部屋の窓は想像以上の塞がれ方だった。板。自分は、両開きの窓が開かないよう、合わさった部分を1、2箇所固定してある状態を考えていた。
家が損傷することなどお構いなしに、窓は板で覆われ、厳重に塞がれていた。釘抜きを使うとしたら100本ほど抜かなけらばならない。盛大な音がしそう。
爆破だ爆破。
「星、もう、屋敷の方通るのやめよう。よそのお家だから、ね」
小川に沿ってなだらかな坂を歩き。十分屋敷から離れた場所で道に戻った。
馬を呼ぶ。賢い子だから、私の声に反応して来てくれる。
帰る途中、ぼーっと窓を爆破することを考えていて、道を曲がり忘れた。気づけば小川に沿って馬を歩かせ、徐々に民家が増えていた。
地図を確認すると、皇室別邸近くだった。
翌日、No.9は、劉氏と共に、麗様と私の家に来ていた。
「鍵を手に入れました。珊瑚様の推測通り、鍵は1種類でした」
「買ったお店が分かったのですね」
「さっすが宦ちゃん」
「っ!」
事前に話されていたのか、劉氏は、麗様の無礼な言葉にぴくっと反応したけれど、堪えていた。ウケる。
「子熊の足を鎖で繋いで飼いたいと、ギルドに店を紹介して貰いました。大きな街とはいえ特殊な品、そう何軒もない。なぜか、皇族が使う店を紹介されました。素性など言わなかったのに」
「宦ちゃんみたいな若造が劉氏様を連れてたからだよ」
と麗様。
劉氏は武官の服。貴族である武官を従えている若者なんて、相当な身分と分かる。宦官と思われたのなら尚更その店。宦官が仕えるのは皇族しかいない。
「そうか。今後気をつけよう」
「今回はよかったじゃん。皇族が使う店紹介されてさ。ビンゴだったんだろ?」
「ああ。ちょっと前に皇帝の弟んところから注文があったってさ。ヤバい性癖じゃないかっつってた」
「ヤバい性癖?」
と聞き返す麗様をNo.9が「ぷっ」と笑う。
あら? 麗様、知らないのね。私、分かるよ! SとかMとかってやつでしょ? 大人〜な書物のおかげ。
「麗はそっち方面は博識じゃないのか?」
「動物に襲わせてってことか? それとも飼う?」
「おい、こっちの想像の遥か上を行くな」
いろいろとマイノリティな性癖があるのですね。勉強になりました。あの程度の猥褻な書物での知識など、足元にも及ばないほど、エロの世界は壮大なのですね。
劉氏は眉間にシワを寄せ、口を一文字に結んで心を痛めている。
「鍵がありゃ、こっちのもんだな」
「同じ製品の鍵です。鋳型が1つしかないので、これしか作らないと言っていました。食事を運ぶとき、この鍵を、料理人から第15皇子に渡してもらってください。鍵がかかっていなくても、もう1つアクションをしなければ足輪は外れません。見た目には、鍵がかかっているように見える」
「料理人は、そのようなことを頼める方じゃないんです」
拒否。
「銀子を弾むと言えば、大抵言うことを聞きますよ」
「できませんっ」
絶対にハニー料理人を巻き込まない。危険。No.9は怖い人。
阻止しなければ。口封じのために殺される可能性がある。
頑なな私を見て、麗様がストップをかけた。
「な、私が直で皇子に渡してきてやるよ。どこだ?」
そのとき初めて、麗様に屋敷の場所を伝えていないと気づいた。馬車の中でNo.9に説明するとき、ゴリラと毛モジャからもらった丁さんの家の地図に文字で書き加えた。麗様は文字を読めない。
説明すると、ミラクルなことが判明。
「そこ、得意先。私が定期的に宝石を見せに行ってる。あの人のおかげで歩合給ががっぽりなんだよね」
聞けば、10日に1度訪れているそうな。ごっつい太客って。
「麗、すっごーい」
ぱちぱちと手を叩く。
「よっしゃ。珊瑚、ちょうど明後日だ。一緒に行こ。私が接客してる間に届けて」
瞬時に頭の中に設計図を思い浮かべる。鍵を渡すだけならできる。
「うん」
そんな私達2人をNo.9は「私は蚊帳の外ですか」とつまらなさそう。
「宦ちゃんの仕事は、失敗したとき東宮に知らせて、珊瑚を助けることだ」
麗様の言葉に、どきりとする。もうすっかり忘れていた。私はどこまで逃げても東宮の側室。それは否定できない。そして、私が東宮の側室であるかぎり、捕まっても簡単には殺されない。と、思う。たぶん。どっかなー。5番目だからなー。
とりあえず、No.15に鍵を渡し、次の機会を待つことになった。
「青巾の2人と違って都に運ばれることはない。ここの方が安全だから。移送する道中の検問所も危険、幽閉するとしても、宮廷は東宮殿も若葉宮も目と鼻の先。都は危険極まりない」
鈍色の鍵を預かった。No.15に渡すのは明後日。
No.9と劉氏が帰った後、設計図を見た。
No.15が監禁されている部屋には、メンテ用の入り口がある。それは、一方は竈に、もう一方は別の部屋を通って煙突に繋がる。
明後日、下調べをしよう。オンドルの中が火傷するほど熱かったら、別の方法。




