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気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
青巾隊

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白い夜の火消し隊③

青巾(せいきん)の2人が置いて行った紙に、ハニー料理人から聞いた勤務先の屋敷の場所をメモ。「この道を真っ直ぐ行き、家が1軒ある三叉路で……」などと書いた。



「足の鎖の鍵は、他のと一緒かもしれません」



同じ製品なら、鍵は同じ可能性がある。

かつて自分は、宮廷の地下牢で手枷足枷をつけられた。逃げようと外すとき、手枷足枷の4つは1つの鍵で外すことができた。どこの店が納品したか分かれば、屋敷の女主人から鍵を奪う必要がないのでは。



「ふーむ。獣の罠を扱う店。それか鎖鍛治かな」



No.9は物知り。

鍛冶屋にはいろいろな鍛冶屋がいると教えてくれた。剣、錠前、針、鎖。



「……あの」



No.9に聞きたいことがある。



「ん?」

「牢に何をしたのですか?」



「今日はもう遅い」と流されそうになったところで、(リー)様の刺すような視線が飛んだ。



「ちょ、ちょっと手品師の真似事をしただけです。あそこまでの被害になるとは思わなかった」


「おい、まさか、火事は(かん)ちゃんのせいか?」


「決定的なことはしていない。いくつものトラップを仕掛けただけだ」


「てめぇ、人、死んでんだぞ」



麗様がNo.9の胸ぐらを掴む。ひぇ〜。



「言うな! 罪の意識に苛まれている。オレは、ちょっとしたボヤ騒ぎが起こればいいと思った。外に青巾(せいきん)隊がいた。便乗して脱獄させると思ったんだよ」



No.9は胸ぐらを掴まれ、メガネはずり落ちたまま。



「あの日、差し入れはちまきだったと聞きました。油紙に包んであったのだと」

「……」

「青巾の人は、ヤカンが火を噴いた、油紙が自分で燃えた、取り調べの部屋からも出火したと」

「……」

「いったい何を?」

「おい、話せ。宦ちゃん」



いろいろな物質があるのだという説明から始まった。


油紙にはとても燃えやすい油が染み込ませてあった。その油は、ある温度を超えると自然に発火する。その温度は、他のものに比べて低い。そして、まとめて置いておくと空気と反応し熱が出る。その熱がどんどん溜まって温度が上がって自然発火する温度になることがある。



「そんな反応、この雪の寒い日に起こるとは考えにくい」


「火の近くにあった油紙が自分で燃えたって」


「じゃあそれは、近くの火で燃える温度になったのです」



No.9は、取り調べの部屋に置かれている灯り用の蝋燭(ろうそく)に、燃えやすい油をかけた。蝋燭立ての下に溜まっていた蝋を落とし、油を溜めた。その近辺には燃えやすい粉を撒いた。



「火薬か?」



麗様の問いに「ああ」とNo.9が答える。



「役人達がいる周りと囲炉裏の周りにも」

「「……」」

「ヤカンの中身は油に変えました。そっちは、誰かが飲むときに気づいて捨てると思った。私が行ったのは昼間。それまでにお茶を飲む可能性が高い」

「「……」」



想像していく。

取り調べの部屋に男を連れた役人が入ったところを。夜勤に交代するころは真っ暗。役人は、手に蝋燭の灯りを持って部屋に入る。灯りを火薬が散らばる中に置き、拷問の獲物を天井から吊るす。そして、部屋を明るくするために、油をかけてあった蝋燭に持ってきた蝋燭から火を移す。ぼっと蝋燭ごと燃える。悲鳴。大きく燃え上がる火は火薬に移り、燃え広がる。

ゴリラと毛モジャは言っていた。壁付近一面が燃えていたと。


そして、周りに囚人の牢がある場所。

囲炉裏があると聞いた。お茶を飲もうと、役人が囲炉裏にヤカンを掛ける。そこかしこに散らばる燃えやすい油紙。それの多くはどこかにまとめてあったかもしれない。火薬。タバコを吸おうとした役人。タバコの火を点けようと蝋燭の灯りに近づく。すぐ傍にあった囲炉裏で、油の入ったヤカンが高温になり、火を噴く。囲炉裏の周りの火薬が燃える。油紙が燃える。囚人達が騒ぎ出す。火はどんどん広がる。



「不確実なことばっかりのトラップで、あんな大事になるとは思いませんでした。私は、どれか1つが上手く行って、ボヤ騒ぎになればと思っただけです。青巾の2人は都に移送されたら、確実に処刑される。そんな危険は避けたかった」


「「危険?」」


「10万人を動かした男です。その青巾の人達は(ちまた)では英雄扱い。だから青巾ファッションが流行ってるのです。例えば皇帝が軍を動かせるのは、権限があるから。軍の指揮官だってそう。上下関係がある。あの2人にはそんなものはない。なのに人が付き従う」


「それは、腹減ってる人に飯あげたからだろ」


「違う。麗は飯をご馳走されたってだけで、オレの言うことを聞くか? 同じ考えを持とうと思うか? 命を賭けて戦いたいと思う「まさか」



麗様が被せ気味に即答。やめたげて。



「あの2人は、人々の希望みたいなものなのです。青巾はそのシンボル。2人を処刑などしたら、皇帝は怨みを買う。少なくとも10万人。多ければ帝国の7割以上。各地で小さな暴動が起こるくらいならいい。1つずつ潰せます。これまで多くの国は、トップが戦ってトップが交代するという形でした。だから庶民は首がすげ変わったことを受け入れた。それを受け入れない10万人規模の乱が各地で起こったらどうなりますか。その人達が都に押し寄せたら」


「そんな、帝国が」



傾く。



「損得なしで人が人を慕うというのは、凄い力なのです。だから、珊瑚(シャンフー)様に『誰からも好かれる』という特殊な力がおありで、それが術によるものだったら、解かないでくださいとお願いしました。人心を掌握する求心力こそ、国を()べる者が最も欲しいものなのです」


「青巾の2人はその力を持っているのですね」


「はい。学生寮に来るようになったら、3日で、部屋に入りきらないほど人が集まりました。結局、庭に集ったほどです。学生達は、師でもない、親でもない、教育も受けていない男の声に耳を傾けたのです。今回、2人は生きて逃げた。公には死んだことになっていますが、生きていると仲間は知っています。表だった活動ができなくなった上に、皇帝が人々の怨みを買うことはなくなりました。死亡者が出てしまったのは……」



No.9は辛そうに両手で頭を抱えた。



ぽん!



麗様がNo.9の肩を叩く。



「すげーじゃん。亡くなったヤツには申し訳ないが、天命だ。死刑囚と凶悪犯。牢は古くなってた。昔は街の外れにあったのに、街がどんどん大きくなって、街ん中になってさ。しかも定員オーバー。建て替え時だったんだな。宦ちゃんは平和のために頑張った!」


「はぁぁぁ。麗、ありがと。ウソでもその言葉に救われる」


「あんま気にすんなって。ハゲるぞ」



No.9はやっと背筋を伸ばした。


牢から出た軽犯罪者で火消しに協力した者達の多くは、その行為が認められ、刑期終了となった。役所側としては、収監する場所がなくなってしまったという理由だろう。刑期が残っている者も大幅に短縮されて他の牢に移送された。


逃げた犯罪者は次々と捕まっている。身一つでの逃亡。結局盗みを働くしかなく、お縄。



「気をつけてお帰りください。珊瑚様、この設計図の写しは私がお借りしてもよろしいですか?」


「はい。描き写すときに覚えました。どうぞお役立てく、、。どーぞ」



気を抜いているとうっかり敬語が出てしまう。



「じゃな、宦ちゃん。あんま、小難しいことばっか考えてないで、ちゃんと寝ろよ」

「おう」



家への夜道を馬で歩きながら、No.9は麗様以上の役者だと思った。

No.9は牢へ差し入れしたとき、ゴリラと毛モジャを、凶悪犯のところから軽犯罪者の檻へ移させた。きっと、火事のときの役所の対応を知っていた。それは、火事がただのボヤでなく、避難が必要なレベルになることを見込んでいる。死刑囚、凶悪犯が命を落とすことは計画。No.9の策は死体で完了する。公には、ゴリラと毛モジャが死亡したと発表しなければならないから。


No.9、恐ろしい人。




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