白い夜の火消し隊①
テーブルの上に街の地図を広げた。火事にあった寺を探すとき、猟師に見せるために買ったもの。
青巾のゴリラと毛モジャが投獄された牢を確認。
それから、学院、学生寮、別邸。皇帝の弟の宮殿。
帝国北東のこの地は、皇帝の実の弟が治めている。同じ母の元で共に育ったせいか、皇帝とその弟は仲がいいと聞く。
じゃ、ここ?
私は、街の中心にでーんとある、大きな宮殿を見た。大きいと言っても、東宮殿くらい。皇帝が暮らす宮廷に比べれば、1/3。それは後宮がないことが大きい。
「星、ちょっとバイトの出しに行くね」
私は、書き写した紙の束と地図を持って街に出かけた。
仕事を提出し、バイト代を貰った。雪で家に籠るからなのか、寒くて人恋しくなるからか、冬は書物がよく売れると聞いた。ちょっと猥褻な恋愛モノが。
恋愛かぁ。逃した魚は大きいって麗様が言ったけれど、星輝との思い出が鮮烈すぎて、愛だの恋だのって心がカピカピに乾いている。
見上げた空はどんよりとして雪が後から後から落ちてくる。寒い。
この雪雲の上に、セルリアンブルーの空があるのかな。
牢の付近に行ってみた。牢の前に、青巾隊30名ほどが青い巾を頭に被って道に座り込んでいた。体を寄せ合い、寡黙なまま。青い巾の上に白い雪が積もっている。それをときどき払いながら。
凍死してしまう。そう思って見ていると、近所の人なのか、熱い湯気の出る汁腕を差し入れしていた。
皇帝の弟の宮殿を馬で一周。
ここには入れない。堀と城壁があり護衛がいる。
学院と学生寮の前を通ってみた。特に変わった風には見えなかった。
No.9とNo.15が暮らす皇室の別邸は行けない。私の顔を知る者がいるかもしれないから。
麗様の職場へ行き、終わるのを待った。
「は? 皇子とゴリラと毛モジャが?」
「なんだって。宦ちゃんが言いに来てくれた」
「ゴリラと毛モジャ、死ぬぞ」
「え。拷問ってこと?」
「冬の拷問は水かけるんだよ。ここじゃ凍る」
「でもでも、ほら。何かを白状させるとかって目的はないじゃん」
「どーかなー。いい役人引けばいいけど」
「皇子は大丈夫かな」
「そっちは簡単に殺せないだろ」
「もし皇帝の命令だったら?」
「それでも。前に言ったじゃん。拐うより殺す方が簡単って。拐われたなら、たぶん殺されてない」
麗様と私は、ゴリラと毛モジャの投獄命令を下した人とNo.15を拐うよう命じた人は同じだと考えた。両方とも同じ日に起こったから。
「訊こう」
「誰に」
「珊瑚、飯行こ」
え、訊くんじゃないの?
麗様は、途中で青い巾を購入。食堂に入った。店内には制服姿の役人がちらほらいた。通路を挟んで役人3名がいるテーブルに座った。
「あの落ちていました。こちら、違いますか?」
麗様は青い巾を隣のテーブルの役人3名に見せる。
「いや」
「違う違う」
「青なんて。あいつらの誰かじゃないのか?」
「あいつら?」
「兄さん、知らないのか。牢の前で青巾のヤツらが座り込んでんだよ」
「青巾?」
麗様ったら流石。役者だわ。
「青巾の乱起こしたゴロツキだよ。実は塩マフィアって話じゃないか」
「怖いな。捕まってなかったんですか」
「おうよ、兄さん」
「東宮が制圧に行って、見逃したんだとさ」
「ははは。甘いなぁ」
言い方にちょっとムカつく。
「10万人規模の暴動を鎮めたって聞きました」
麗様、よくぞ言ってくださいました。
「あのとき捕まえてくれれば、オレらの仕事減ったのに」
「ま、昨日捕まえたし」
「青巾の乱ってかなり前でしたよね。今更、どうしてなんでしょう」
「さーな。勅令だとさ」
勅令。皇帝からの命令。
「未だに仲間で連んでるしな」
「若者が青巾被るの、流行ってるしな」
「兄さんは、被るなよ。反逆者ファッションなんてとんでもない」
「じゃあ、これは、後で落とし物として店の人に渡します」
情報ゲット。けれど麗様はそれで終わらなかった。
言葉巧みに拷問について聞き出す。
「水かぁ」
「オレにはできん」
「アイツだったらやるな。取り調べなんてなくても」
「ああ。新人キラーだもんな」
「明後日の朝には凍死か」
更にはリクルート活動まで。
「今の職場、いいとこなんですけど、給金が歩合制なんですよね。やっぱ、妹いるし、安定とか考えちゃって。夜勤ってシフト制ですか?」
「シフト。夜勤翌日はオフ、めっちゃホワイトだよ」
「悪いな、兄さん。空きがない」
「空きが出ても、いい職場だから、コネで決まっちまう」
「残念です」
「ま、よほどの失態がなきゃ、安泰だもんな」
「ないない。囚人が多すぎて管理できない。死なせてもお咎めなし。逃げてもしばらくは気づかれない」
この街は人の流入が激しく、人口が増えている。都市化して犯罪も増えた。けれど牢は何十年も前から変わらない。牢の中は過密。部屋は寝転ぶと隙間がなくなるほど。そんな説明を受けた。
最後、麗様は言われた。
「じゃな、兄さん。もし空きがあったとき、オレらが昇進してたら、コネで入れてやるよ」
「よろしくお願いします」
いろいろ分かった。明後日の朝には凍死している。それは、明日の夜の担当者がヤバいヤツって意味だよね。だったら、今夜か明日の夜に助け出さなきゃ。
食堂を出ると、麗様は道を歩いていた見すぼらしい男を呼び止める。
「訳あって、交換していただきたいのです」
と雪を弾く紫紺のマントを男に差し出す。男が纏っているのは、蓑。めちゃくちゃ感謝されながらの交換。
麗様は青い巾を頭に巻き、蓑を着て牢の前に座っている集団に紛れ込んだ。なるほど。紫紺のマントはオシャレで浮いてしまう。
しばらく待つと、戻って来た。
「何話したの?」
尋ねると、麗様は指を折りながら話す。
「明後日の朝には凍死してるって役人が言ってたから、それまでに助けないといけない。役人の食事の時間と交代の時間。夜勤は3人体制。牢は過密状態で逃げて減っても、しばらくバレない」
「麗、バレるよ。ゴリラと毛モジャだよ。個性的じゃん。顔、覚えられてるよ、きっと」
「牢だったらヒゲ剃らない人いっぱいいるから、毛モジャみたいなのは多い。ゴリラの方も、飲み屋や裏路地で喧嘩する人に多い体型。兵士にも多いじゃん」
「え、そーなの?」
アゴ割れてるイカつい系。
「珊瑚、あの手の人、周りにいなかっただろ」
「うん」
「恵まれた環境だったんだって。私の周りにはごろごろいた」
「そっか」
「じゃ、次は宦ちゃんに会ってくる。珊瑚はどっかで待ってて」
雪が降る日。寒いから風呂屋の宴会場で待つことにした。風呂屋の横には、風呂を沸かす熱で暖めた広い宴会場がある。男女は別々に風呂に入るから、待ち合わせ場所になっている。
お茶を飲みながらぼーっと待っていると、麗様が戻って来た。
「珊瑚、お待たせ」
「麗」
「宦ちゃんがゴリラと毛モジャに差し入れするって」
「差し入れ?」
「皇子からの差し入れってことにするっつってた」
「なんで?」
「宦官じゃ効果ない。帝国の皇子が差し入れすれば、少しは丁寧に扱ってもらえるはずだって言ってた」
きっとNo.9は、第9皇子として差し入れをする。
「酷いことされないなら安心」
「これで役人にはされない。同室のヤツらにはされるだろーけど。で、皇子」
「皇子?」
「いなくなったこと、東宮に知らせる文を送ってあるって」
「そんなの、いつ着くんだろ。都からこの街まで、すっごいかかったよね。ウチら」
「んー。大運河使うだろーから、陸の半分くらいかも」
この国には、南北に走る大運河がある。
「そーじゃん。それがあった」
それでも知らせが着くまでに何日もかかる。
あまりに無知でした。
活版印刷は中国発祥だったのですね。しかも1040年ごろ。活版印刷の前は木版印刷でした。
グーテンベルグの1445年までは手書きか木版だと思っておりました。発行部数が少ないものは手書きだと。多くの人が字を読めないので、それで成り立っているのだろうと。
珊瑚が書を書き写すアルバイトをしている設定です。問題ありです。思案中です。




