ブタ野郎禁足ハウス
「南自治区みたいにすりゃいいのに」
話題は移り、ゴリラが貿易について話し出す。
治安やら植民地の話が展開されるかと思いきや、毛モジャは語った。
「外から金が入って来たら、その分国が金持ちんなる。例えばな、夫婦でやっとる潰れそうな飯屋があったとするじゃろ? そのままじゃったら貧乏。でもな、かかあが働きに出る。そーすっと、外から金が入って生活が楽んなる。それと一緒じゃ」
塩マフィアだけあって、角度が違うわ。
治安についてNo.9は毛モジャに意見を求めた。
「知らん。向こうの国の偉い人と取り決めせーや。それが皇帝の仕事じゃろ」
世直しとか文句を言いつつも、皇帝って存在は認めているみたい。
ガハハという笑い声を聞きながら、私もいつの間にか寝てしまった。
翌朝、目が覚めるとNo.9とNo.15がイスで眠っていた。
麗様と私が寝てしまったので戸締りができず、帰れなかったらしい。
「すみません。寝てしまって」
No.9に謝ると、麗様は不思議そうな顔をする。
「珊瑚、庶民になったからって、宦ちゃんにへこへこしなくてもいーって。そいつも庶民なんだから」
庶民ちゃう。
「大丈夫ですよ。妓楼に行ったことになっておりますので」
へー。妓楼ってお泊まりもできるんだ。知らないことだらけ。
ゴリラと毛モジャは夜遅くに帰ったそうな。No.9とNo.15は朝食前に帰った。
私は、南京虫やダニを心配して、ことさら一生懸命掃除した。
「珊瑚、冬だから大丈夫」
「卵が落ちてるかもしんないっ」
後から聞いた話では、ゴリラは極貧農の出。毛モジャは孤児。
ゴリラは青巾の乱のリーダー。慕われている。毛モジャは集まり過ぎた仲間のまとめ役。青巾の乱のとき、仲間に、粗末であっても食事を振る舞っていた。蝗害で飢えた人々は魂を奪われたと思う。何気に青巾ファッション、かっこいいし。
No.15は言う。
「本来ならさ、そーゆー人らに食事を振る舞うのは、皇族のオレらがするべきなんだよな」
災害があると、いち早く軍が駆けつけて、その地の人々に休む場所や食事を提供する。災害から逃れて街へ流れ着いた人々に、皇后や側室たちが、ボランティアで食事を施すこともある。玄米ではなく白米が出るから、被災者以外の人達まで大勢やってくる。
あれ? 今日もNo.15が来ている。最近、気づくといるよーな。
「ぐーぐーぐーぐー」
「はははは。アオーンって言ってみ。アオーン」
星と遊んでるし。
年が明けて17歳になった。麗様は19歳。
ゴリラと毛モジャがまた来た。干したイカ、漬物、猪の肉や白菜が手土産。
「ありがとうございます」
いい人なんだよね。うん。分かってる。分かっていても、アウトロー感を敬遠してしまう。No.9とNo.15も当然いる。夕方。麗様の帰宅はまだ。
キッチンで、毛モジャが猪鍋を作り、私はご飯を炊いていた。
突然、家の外から男の悲鳴が聞こえた。複数人の声。
急いで見に行くと、No.15が星を抑えていた。星が不審者に唸っている。飼い主の私でもビビる形相。
「大丈夫だから、星。この人達はオレの友達。大丈夫」
悲鳴の主は5人。No.9とNo.15の学友だった。
「2人がいそいそこそこそしてたから気になって」
「跡付けた」
「絶対女だって思ったけど」
「おっさんじゃん」
「しかも、狼まで」
なんですって?! この家を、あの小汚くてむさくるしいゴリラと毛モジャの家だと思ったの? 失礼な。
訂正したい。けれど、向こうは垣根の影にいる私に気づいていない。女2人暮らしの家と知られない方がいいと思う。黙っていよう。
そこへ麗様が馬で帰って来た。
「いらっしゃい」
細雪を纏った麗様の眩しい挨拶に、
ズギューン!!
5人の学友達は心臓を撃ち抜かれた。♡_♡
笑顔のまま、麗様はNo.9を人差し指でちょいちょいっと垣根の方へ呼び寄せる。
「……まずい、よな?」
No.9は麗様の顔をまともに見られず、メガネを鼻までずり落とす。
「タマナシ、ここがどこか分かってるか?」
「ハイ。麗様ノ家デス」
「ここは、訳あり嫁入り前のうら若き乙女がたった2人でけなげに暮らしているブタ野郎禁足の地だ」
「イエッサー」
「人目についてしまったなら、場所を変えろ」
「イエッサー」
壊れた人形のように歩き、No.9は皆に告げた。
「撤収」
学生寮の友達の部屋に場所を移したらしい。
その後、No.9とNo.15に、素晴らしい美男子の友達がいると学院内で噂になった。誰もがスキャンダラスな話題を期待したのに、学生寮でしばしば見かける2人と共にいるのはゴリラと毛モジャ。噂は瞬く間に消えた。
学生寮? しばしば?
学院に通うのは、貴族の息子。科挙に合格して官僚になろうと、日々勉学に励んでいる。官僚を目指すほどだから政治談議が好物。ゴリラと毛モジャは彼らの刺激になり、人気者になった。
10万人を動かした男。男から見たら魅力がある人間なのかな。知らんけど。
ある日、No.15が消えた。
「え?」
No.9の知らせによれば、友達数人と酒を飲んでいる際、No.15はトイレに行ったきり戻ってこなかった。場所は学院生の学生寮。先に別邸に帰ったのかもしれないと思い、No.9は帰ってみた。いなかった。
家臣総出で探した。しかし、朝になっても姿はない。
学院に行ってみると、青巾のゴリラと毛モジャの仲間が30人ほど押し寄せていた。
青巾隊は2人の皇子を探すために学院内を練り歩き、駆けつけたNo.9がそれを止めた。
「昨日、青巾の2人が投獄された」
「ええっ!」
「罪状は、青巾の乱の首謀者として世を混乱に陥れたこと」
「なぜ今更」
青巾の乱から、もう数ヶ月経っている。
青巾隊が学院に押し寄せたのは、抗議のためだった。
「私は『下衆メガネ』呼ばわり」
「酷い」
「大丈夫。ブタ野郎と言われて免疫ができていた」
「……」
「私と異母弟が青巾の2人を捕まえるよう、役人に指示したと思われている」
「そんな」
「青巾隊は異母弟の行方を知らなかった。ここに皇子は来ていないんだね」
「はい」
「麗は?」
「仕事です」
「では、引き続き探す」
「第9皇子も危険なのではありませんか? お気をつけください」
どこかで何かが動いている。青巾のゴリラと毛モジャが捕えられた。No.15は行方不明。どちらも昨日のこと。
No.9は無事。ならば、No.15を連れ去ったのは、皇帝の手の者? その可能性はある。Doの紅茶の箱が若葉宮の蔵にあったことから、皇帝は、自分の悪事が知られていると分かっているはず。No.9は病弱で遠出をしなかった。紅茶の箱を持ち込んだのはNo.15に限定される。証拠を燃やしてもNo.15は生き証人。
青巾の2人は純粋に邪魔だった? 青巾の乱のとき、No.15は青い巾を被って1人でバリケードの中に入って行った。そして学生寮で会っていた。No.15も世を乱す危険分子とみなされた?
世が乱れて困るのは?
皇帝の差金だとすると辻褄が合う。
No.9は、隣国の皇女の息子。だから、手を出せなかった。後宮内で亡くなった場合は、緘口令を敷いて「病死」にできる。けれど、後宮の外では難しい。No.9に何かあったら、外交問題に発展する恐れがある。




