娑婆の生活PART2
なんか拍子抜け。術で呪いを解いてもらおうって思ってた。
今まで私、何の疑いもなく、みんなが自分のことを良く思ってるって前提で接してたけど、勘違いってことじゃん。間抜け。
「麗、どーする? どこで暮らす?」
いつまでも馬宿にいるわけにいかない。
「この街にしばらくいるのもアリか。宦ちゃんと皇子いるし」
麗様はNo.9のことを気に入ってるっぽい。
「じゃ、この近くで、農民になって田んぼや畑するのは?」
提案すると、農民は自分達は飲まず食わずで働いて、収穫した半分を国に税として搾り取られる生き物だから嫌だと言われた。私達はお金を持っているからいいのではと思ったら、周りと違う生活をするのは危険なのだそう。
あまり地方に行ってしまうと、ご近所付き合いが密になって、根掘り葉掘り過去を尋ねられ、日常もプライベートがなくなるらしい。実は、側室の身。縁談なんて勧められた困る。
街の中心は、星が可哀想。街に近い山の一軒家を探すことにした。
不動産屋に行って、それすら難しいと分かった。
「保証人がいないのに貸せないね」
「旅芸人だったから、知り合いなんていないんです」
なんてこと。アラフォーマダムの不動産屋に麗様の色気が通じない。麗様はマダムの手を取って訴えているのに。
「だったら、貸せない。どこ行っても同じさ」
「じゃ、買うってのは?」
「はあ? 金あんのかい? あらら、アンタ、ちょっと太って気づかなかったよ。『刹那落としの麗様』じゃないか。観に行ったよ。あの後、夜は燃えちゃった♡」
「……」
「ふーん。売れっ子だったから金ありそうだね。でも、アンタに売る家を紹介できない」
「なんでだよ」
「旅芸人だったら、戸籍ないだろ? 戸籍がある人間じゃないと」
「くっそう」
「アンタだったら、今すぐにでも金持ちオヤジやBBAのパトロン作れるだろ」
不動産屋のマダムは、さっと手を引っ込め、道ゆく人々をアゴで指す。
麗様は打ちのめされた。「太った」という言葉に。
「南自治区っていいとこだったんだね」
はあぁと私はため息。
「ちくしょう。痩せよ。最近、体が丸くなって困る」
「しょうがないよ。女なんだもん」
「な、珊瑚。宦ちゃんに頼むか? 保証人。今、思い当たるのは宦ちゃんしかいない」
「んー」
第9皇子なんだよね。保証人を頼むなんてとんでもない。
馬宿にお金を払うとき、この辺りか、もう少し山の方に住みたいけれど、保証人がいないという世間話をした。
「おう、早くから出かけてたな」
「住む家を探したのですが……」
「大変だなぁ。小さなころから苦労して」
「妹思いのいいお兄さんだよねぇ。アンタを守るために一座を出たんだろ」
「年ごろの娘は狙われるからな」
「お兄さんに感謝しなよ。綺麗な上に優しいお兄さん」
「家か。知り合いに聞いてみるよ」
「そーよ。山の方だったら、空き家の1つや2つあるから」
「ありがとうございます」
「お前、あの男に色目使ってないか?」
「アンタこそ、綺麗な男だって鼻の下伸ばしてさ」
馬宿の夫婦は、麗様と私を兄妹と思っている模様。にょきにょきと背が伸びた私は、縦長シルエットが麗様に似ている。ところで、不動産屋を通さずに土地や家の貸し借りをするのはアリなんだろうか。世間一般が不明。
2日後、引っ越した。
ハゲ霊山の隣の山。術師だと思っていた男が住むのは東隣の山。引っ越し先は西隣の山の麓。近隣に民家なし。馬宿夫婦の知り合いの祖父母が住んでいたけれど、数年前に他界してそのままになっている廃墟。持ち主は息子が引き継いだものの、管理はしておらず、毎年、土地税だけ払っている。所有者は土地税だけ払ってくれれば、新しい家を建てようが、畑にしようが構わないと言った。
「そう言うわけには参りません」
麗様は、相場の賃料の8割くらいの金額を所有者に、1割を馬宿の夫婦に支払った。といっても、街から離れているのでめっちゃ安い。南自治区の窯つきの家をタダで借りたことに懲りたんだね。
「星、新しいお家、どお?」
そこら中をくんくんする星が可愛すぎる。
南自治区にいたとき、麗様は私の護衛だった。もうその必要はない。私は庶民。
2人で仕事を見つけることにした。私は、書店を巡る。大きな街だから書を読む人が多く、書き写す仕事がすぐに見つかった。
麗様はカフェ店員をして、店が回らなくなるほど集客。クビ。
居酒屋で働いて、行列ができ、近隣の店から営業妨害と苦情。クビ。
金貸屋の警備をし、他の者達にセクハラされてぶちのめした。クビ。
「社会不適合者かも」
と落ち込む麗様。
「麗は悪くないじゃん。社会が麗に不適合なだけ」
なんか、あまりうまく慰められなかった。
仕事を探しながら、麗様は家の修繕をしていた。だんだん腕を上げている。
そんなころ、No.9とNo.15が北東の街へ戻った。
来訪。街から離れているせいか、2人は警戒心0。庭へ堂々と入ってきた。護衛はいない。
「よ、宦ちゃん、元気か? そこ押さえて」
「ここか?」
「ありがと」
麗様は、とんてんかんてんとバルコニーを造っている。No.9をこきつかってるし。
「若宮殿の火事はどうっだったの?」
No.15と私は、家の中から2人を眺めながら報告会。
「Doのお茶の箱が出火元。そこ中心に燃えてた」
「蔵なのに中から燃えたんだね」
蔵は、密閉すると空気がなくなり、火災は起こりにくいとされている。
「見つかったときは、扉は全開だった」
「放火じゃん」
「その前の日に蔵ん中の物、虫干ししたらしい」
「じゃ、それを手伝った人の中に」
「自殺した」
「え」
「虫干しメンバーの1人が部屋で首吊ってた。遺書あったのに足場がなくてさ。実は殺されたって見解」
「……」
「Doの紅茶の証拠がなくなった」
「南自治区の港に行けばあるよ」
「もうないだろ。情報が届いたら終了。そーすると、皇室御用達の印が貴重になってくる。ほら、珊瑚が死体から取ったやつ」
「言い方。渡した方がいい?」
「持ってて。その方が安全。でさ、異母兄、アイツじゃない方」
No.15はNo.9を視線で指す。
「うん。東宮?」
「南自治区に珊瑚がいないかって、屍んなってた」
「東宮、南自治区に行ったの!?」
「おう。迎えに」
あっぶなー。逃げてよかった。
「大丈夫。他の側室とうまく行ってるみたいだから」
「すっげー痩せた」
「お忙しいだけじゃない?」
「文くらい書けば?」
「え”ー」
嫌。
「呪いは関係ないってことは、本気で珊瑚のこと好きってことじゃん」
「……」
「あのさ」
「……」
「星輝となんかあった?」
「はあ?!」
「都行ったとき、星輝に会った」
「……」
「珊瑚が北東にいるって話したら、冗談っぽく『ふられた』って」
「……」
「あんま、そーゆー冗談ゆーヤツじゃないから」
星輝、過去形で告ったくせに。拷問されても私の居場所言わなかったくらい口堅いのに。No.15に。
「他に何か言ってた?」
「なんも」
「うん。なんもないよ」
「あの言葉だけ浮いてた。不自然だったんだよ。元気ねーし」
「そーなの?」
「なんかあったんだな」
No.15は、星輝が役人に捕まったことや罪人の焼印を押されたことを、知らないはず。
私を南自治区へ連れて行ったとき、都への知らせが遅かったことを「遅過ぎ」とだけ言っていた。




