別れはリ・スタート
「男が男を見る価値観」を「別れはリ・スタート」に変更しました。内容はほぼ同じです。
章「一休み」に「被契約書偽造詐欺①」「被害契約書偽造詐欺②」の話を挿入しました。No.9の登場場面です。ストーリーの流れは変わっていません。
間に合ってよかった。
杏、貴方が望む人生を生きるために。
小雨が降り、人通りは少なかった。
場所は東宮殿のすぐ傍。侍女の杏は、東宮殿から出ることが許される。
馬が濡れないよう、大きな木の下に荷馬車を停めて待つ。
傘を手に、遠くから歩いて来る凛とした姿は、懐かしい杏だった。
「お元気で何よりです」
杏は荷馬車の中に招き入れる前から泣き出した。
「杏、泣かないで。杏が泣くと私まで」
決壊。どばーっと涙と鼻水が出てきた。
「あの幼かった珊瑚様が、こんなにも逞しくなられて」
やっぱ、日焼けかな。農作業と武術の訓練で全体的に筋肉がついちゃったのもあるよね。
以前、杏は私に仕える者だった。けれど、庶民から見れば、とても高貴な女性。皇族に側仕えできるのだから。立ち振る舞いから滲み出る品格がハンパない。荷馬車が似合わなさ過ぎる。
「杏、お別れを言いに来たの。だから、もう、私を待たないで。お嫁に行って」
杏は20歳で私と共に東宮殿に入った。もう23歳。
杏の身分なら、普通10代に嫁ぐ。そうならなかったのは、仕事ができすぎたせい。しかも20歳には東宮殿に。杏の両親としては、美しい娘が東宮に身染められるという可能性を考えていたのだろう。側室の侍女が身籠るのはよくある話。
「実は、」
杏はプロポーズされていた。
「え? いいお話があったのね」
相手は武術の鍛錬のメンバー。私が東宮殿からいなくなったとき、会えなくなって、お互いが自身の気持ちに気づいたのだとか。あの事件でロマンスが芽生えていたなんて。いつでもどこでも発生してしまうものなのね。
「その方は、私を待ってくれていたのです」
塩官をしながら科挙の勉強をし、4回目にして、ついに合格したのだとか。(科挙は官僚になるための試験)
「すっごい!」
歳は杏と同じ。
科挙に合格したとたん、縁談が山のように舞い込み、親から「いくら心があっても」と、杏以外の人との結婚を勧められていた。科挙の威力って凄い。
「珊瑚様が自由をお選びになるのも、何かの運命なのでしょう。ですが」
杏は、もしも東宮殿に私が戻るなら、世代が変わって後宮に入るとき、必ずついていくと言った。そのころには子育てが終わっているだろうと。後宮は魔窟。その予定はないから安心してほしいと伝えた。
「杏、教えてほしいことがあるの」
私は、自分に呪いをかけた術士について聞いた。
当時23歳、代々官僚を輩出していた政治家一族の男。母との結婚は親に決められたものだが、2人は一目で恋に落ちた。術師の父親が罪を犯して焼身自殺。そのとき、屋敷も家族も燃えてしまった。一家が滅ぼされ、男は北東の街の北にある寺に入った。そこで不審火があり、隣の山に逃れた。
約1年後、母の嫁ぎ先に現れ、父を罵り、私に呪いをかけた。
「一時身を寄せたのは、山の上に建っていたお寺で、山火事だったのですよ。旦那様とは全く違う……背の高いイケメンでした。あのお美しい奥様が一目惚れしたくらいですから」
父は、低身長で人の良さそうな狸顔。
情報を得た後は別れ。
お互いにこれからのことを祈りあった。
涙と小雨で杏の後ろ姿が見えなくなった。
これから、別れPART2。
「麗、もう、麗は十分過ぎるくらい仕事したよ。だから、解散しよう」
提案した。
「へー。珊瑚はどーすんの? 北東に行って術士探す?」
「うん」
「女が旅するのは危険」
「麗だって女じゃん」
「私は男に見える」
「だね」
「だから、一緒に行く」
「え。私は嬉しいけど。いーの?」
「珊瑚がいーなら。おもしろそーじゃん」
「本当に?」
「こっちだって、いきなり解雇されても困る」
「解雇って」
「もっと強くなってからでいーじゃん」
今後は授業料なしで武術を教えてくれるとのこと。
「私、術士に呪いを解いてもらった後のことは、考えてないよ?」
「試しに東宮に会ってみるとか」
「ええーっ」
「第3側室&第4側室、杏様よりも会わなきゃいけない人っしょ」
「……分かってるよ」
「呪いを解いた後だったら、珊瑚への気持ちがなくなって、あっさりバイバイしてくれるかも」
「そっか」
「だいたいさ、星をどーするつもりだった」
「星は私が飼い主だから」
「私の方が星のこと分かってるし」
「ん? それはどーかな」
喧嘩になりそうなので、星を取り合うのはやめた。
「とりあえず、北東の街目指そ」
季節は初夏。本格的に暑くなる前に北東に到着したい。星は夏が苦手だから。
なるべく炎天下での移動は避け、涼しい時間に動いた。
何日か後、北東の街に着いた。
舐めてた。街まで行けば、北に山が2こあると想像していた。違う。小高い丘くらいのものから遠くにそびえ立つ山々までいろいろ。街がどこからどこまでを指すのか、どれくらい離れた北の山なのか、隣の山といっても大抵は繋がっていて、どこからどこを1つの山として見ている話なのか不明な点だらけ。
「珊瑚、なるべく街の北の方の宿にしよ」
「そーだね」
食堂で宿や山、術士について尋ねてみた。宿だけ見つかった。
それは馬宿で、納屋なら使ってもいいと案内された。そこはときどき人を泊めているらしく、土の床にベッドが3つ、使い古したテーブルセットが1つ置かれていた。風呂釜まである。困ったのは風通しが悪いこと。暑い。
すぐ近くに安い飲み屋があり、学生寮の人達がよく通ると聞いた。
「皇子とタマナシ、じゃなかった。宦ちゃんって、この街にいるんだろ?」
「うん。でも、この街は、学院、いっぱいあるから。皇子が通ってるのはどこだろ」
「学生寮?」
「違うんじゃないかな。お付きの人も一緒に行ってるし、学生寮だったら毒味とか護衛できないから」
私は頭の中で、No.9とNo.15のそれぞれのお付きの人と護衛を思い浮かべた。けれど、麗様の前では、メガネ男のNo.9はNo.15のお付きの宦官設定。ボロが出そう。喋るのやめよ。
学院側、皇子を2人も迎えるとなると大変だと思う。護衛って、授業のときどーしてるんだろ。友達と飲み歩くのもできないよね。
それとも、南自治区に来たときみたいに、No.9がNo.15のお目付け役、No.15がNo.9の護衛をして2人でいるのかな。
星を風通しのいい荷馬車に寝かせたら、寂しがって遠吠えをした。もうすっかり大人。やたら響く。しかも、近隣わんこの遠吠えまで始まってしまった。納屋より荷馬車の方が涼しいのに。
どんどんどんどん
納屋の扉を叩く音がする。
「苦情だよ」
仕方なく、ベッドから出て扉を開ける。と、そこには。
「珊瑚! え、珊瑚じゃん」
星を抱っこしたNo.15が、目をまん丸にしていた。No.15の後ろにはメガネをかけたNo.9。
麗様も起きてきて、No.9に「よ、宦ちゃんじゃん。元気?」なんて挨拶している。
遠吠えの声に聞き覚えがあったのだそう。まさかと思って音源を探したら、やっぱり星がいて、見たことのある荷馬車があった。麗様がいると確信したのだそう。
「皇子の耳は人間とは思えない高性能ですね」
麗様の言葉に、一緒にいたNo.9が「ぷっ」と笑う。
星は「ぐーぐーぐーぐー」甘えた声を出して、No.15に抱っこされたまま。重いとかってレベルじゃないよ。抱っこしてるのが不自然すぎ。No.15の体半分は星で見えない。
そしてどうやら、2人だけで出歩いている様子。
「私のことは、黙っていてください。東宮殿に戻らないことにしました」
No.9にお願いする。しまった。No.9はNo.15のお付きの宦官設定。言葉が丁寧すぎたかも。振り返ると、麗様は何も気にしていない。セーフ。
No.9は、珍獣を見るような目をした。
「え。あれほど東宮のご寵愛を受けていらっしゃるのに?」
あれほどがどれほどなのかはさっぱり。
読んでくださってありがとうございます。
よくないと思いながら、過去に書いた部分に修正を加えております。未熟です。




