はげしかれとは祈、
だらだらと月日が過ぎる。それはとても心地よかった。
冬、初潮を迎えた。とうとう子供を産める体になってしまった。自分が汚れてしまった気分だった。
「星、どーしてくんくんするの? やめてよ」
血の臭いに反応して、星が露骨に私のお尻を嗅ぐ。
「しょーがないよ。私んときも」
と麗様。
ふと、女としての麗様の身を考えてみた。
「麗って、定住と家族の夢はどーするの? 叶えるなら、そろそろお嫁に行くこと考えなきゃじゃん」
「定住は、ここにいるから半分叶ってるんだよね。家庭には憧れるけど、色恋は今一つピンとこなくて。子供のときから大人のエロい芝居見て演じてきたから、なーんか、恋愛が陳腐に見えてさ」
「チンプ?」
「1銭にもならんことに労力使うって、どーよ」
「ロマンチックに憧れないわけ?」
花も恥じらう17歳じゃん!!
「よーするに、ヤルためのバリエーションっしょ?」
「なんてことを」
その発言に花、枯れるし。
「最低でも、自分より強い男」
「いないって」
「珊瑚こそどーすんの。私としては、このままバックれるのもあり」
「んー」
「星輝?」
「なっ」
「もう忘れろ忘れろ。文1つよこさない」
「……」
はっきり言わなくても。
「あのさ、早くしないとお迎え来ちゃうよ? 元正室が言ってたじゃん。もう戻っても皇帝の方は大丈夫って」
「お迎え?」
「東宮がじきじきに連れ戻しに来るんじゃね?」
「げっ」
来そう。
「どーすんの。複雑な問題とやらは片付きました。皇帝と元正室の子が生まれたこともとっくに発表されました。東宮の正室は空いています。元正室までこちらに来ました。東宮の訪問もありました。ってことで、次は」
麗様は掌を上に向けて私に差し出した。
「はー。分かってる。でも、バックれる前に第3側室と第4側室にお礼をしたい」
「宝の持ち腐れペアね」
「?」
「あの美貌で処女とか、もったいない」
「確かに」
「東宮、マジでEDなんじゃね? 珊瑚の親父さんが噂流した通り」
「ありうる」
「杏にもね、私のこと待たないでって伝えなきゃ」
「杏様もねー。お綺麗なのに、周りは女と宦官ばかり」
「杏こそお嫁に行かなきゃ。ご両親はきっと心配なさってる。ちゃんと会って話したいな」
「珊瑚、ここから逃げよ」
「だね」
「暖かくなったら」
今は寒い。外で食事を作ったり洗濯したりが辛い季節。荷馬車の中で寝ることもあるだろうから、春かな。
「麗。馬、もう1頭買おう」
もともと2頭立ての荷馬車だった。星輝が1頭乗って行って、今は1頭だけ。
「だな。銀重いし」
麗様はちゃっかり、青峰さんの銀の箱を持って行くつもり。
春を待つ間に、麗様は18歳、私は16歳になった。
8羽に増えた鶏は、欲しいと言われたので、かな〜り離れたお隣さんに渡した。バイトを終了して、不動産屋へ行って、様々な手持ちの物を売って、最小限の荷物にして準備を進める。
「ねー、麗。銀の箱置いてこうよ。重いって」
No.15が届けに来た私の豪華絢爛な荷物を換金したら、結構な金額になってしまった。古道具屋の店主が「いったいどこでこんな高価な品々を」と驚いていた。銀子ありすぎ。
「絶対持ってく。青峰の器も換金したいくらい」
「もう」
麗様の強突張り。
青峰さんが造った器は、皇室御用達のマークが裏底にあるものだけ持って行くことにした。旅で使うのは木の器。軽くて割れない。
2人で、荷馬車の床を2重底に改造。銀子の袋や金目の物を置いて上に床を被せてある。
「早くずらかろ。古道具屋のオヤジが言いふらして泥棒が来る前に」
「うん」
全ての窓と雨戸を閉めて、青峰さんが眠る窯の方に手を合わせてから出発。
先のことはあまり考えていない。どうにかなるって思えるようになった。日焼けして逞しくなって東宮の側室に見えないなら、どこでだって生きていけそう。
上手くいくことしか想像できない私って、やっぱり甘っちょろいんだと思う。
都への旅は順調だった。
南自治区の家から出てしまえば、気ままなもの。到着日など決まっていない。銀子はたんまりある。どこで豪遊しようが自由。
「うまいもん食うぞ1」
「おーっ!」
「わん」
「遊ぶぞー!」
「おーっ!」
「わん」
意気込んでいたけれど、B級グルメで大満足。豪遊には至らなかった。
お金をかけて遊びたいことが思いつかなかった。お金がかかる博打も女も男の遊び。
私はうっすらと、第3側室ピンク芍薬と第4側室紫陽花に会った後のことを考えていた。麗様と別れることになる。
麗様は、報酬分働いているだけ。どこかで区切りをつけて、解放しなければ。
麗様と別れたら、ひとりになる。それを想像すると、心が小さく固く縮こまる。
気づいたときには路上で生活していたという麗様。尊敬。私にできるだろうか。
もうすぐ都という場所で、私は麗様に申し出た。
「ちょっとだけ行きたいところがあるの」
麗様は呆れたように下唇を突き出す。
「忘れろっつってんのに」
場所も告げていないのに、馬車は街道を折れた。円い要塞が姿を表した。
「寄るだけだから。歩くだけ」
「珊瑚、ガキ臭いくせに、こーゆーとこはしっかり女じゃん」
南自治区へ行くと決めた場所。円い要塞には星輝と父親の定宿がある。
「別に。どーせ仕事で留守だろうし」
「もう2年近く前か。星輝、大人んなってるだろーな」
13歳のときに出会った。気づいたら心に棲みついていた。なのに、南自治区から都に向かう姿を見たのが最後。
「……」
絶対ステキになってる。きっと姿を見たら、また好きになる。
「ま、イケメンではあるよな。私の次に。でもさ、珊瑚、免疫なさすぎ。ちょーっと一緒にいたくらいで好きんなるとか。何かしてくれたわけでもないのに」
してくれたよ。万が一私になにかあったら「オレ、気が狂う」って言葉。東宮と一緒に過ごす羽目になりそうな夜、2度もフランクフルトみたいな花火で助けてくれた。それに。
「別れるとき、ぎゅってしてくれたもん」
「あ”ー。あったね。悪い男だと思って眺めてたよ」
「ワルイオトコ?」
「その気にさせるテク」
「テクじゃないよ」
「天然な分始末が悪い。珊瑚、あれはハグだ! そう思え」
「ハグ」
「西洋風の挨拶」
「麗にはしなかったじゃん」
「させるかっ」
体が軋むほど抱きしめられた。あのとき、星輝は私のこと、特別大切に想ってくてたよね?
喋っているうちに、馬車は1番端の円い要塞前に到着した。
場所を覚えていたのか、星は馬車から飛び降り、中へ入って行ってしまった。星輝の匂いがしたのかもしれない。
外から見るとのっぺりとした巨大な円い壁。内側は壁に沿って部屋がある。広場を中心にぐるっと円く連なる建物を見上げる。上はすかーんと青空。
広場に面した1階に、南自治区へ行く時、庶民の服を買った店があった。
「麗、たまには女の服着てみれば?」
「だな」
「お化粧も」
「珊瑚、化粧はしてねーじゃん」
「メンドクサイ。紅くらいは引くよ」
「いらっしゃい」
店番をしていたのは、前と同じ見覚えがある人だった。私と同じ歳くらいの女の子。その子は私を穴が開くほどじーっと見る。
「あの……」
私の顔に何か? と聞きたくても、続きが出てこなかった。
「星輝の知り合い? 2年くらい前、綺麗なカッコしてここ来た」
そう言われ、微笑み返す。
「覚えていてくださったのですね」
ばしっ
いきなり頬を叩かれた。あまりに突然で、ぽーっと女の子を眺める私。
「アンタのせいで、星輝は。出てけ。ここへ来るなっ。クソ女!」
麗様に手を引っ張られ、逃げるように店を出た。




