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気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
乙女心

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月が知る寂しい夜①


大丈夫。No.15は無事。きっと。

塩商(えんしょう)が兵糧を運ばなくても、軍が運ぶはず。東宮は絶対にNo.15を見捨てない。

南自治区でさえ寒い日、極寒の北の国境で、No.15はどうしているだろう。



珊瑚(シャンフー)、芋。焼けた」

「ありがと。(リー)

「仕事、(はかど)ってる?」

「やらなきゃね。なんか、頭ん中で、ぐるぐるぐるぐる同じこと考えちゃって」



寒い冬になって、私は自室ではなく、火鉢がある居間で書写の仕事をしている。



「皇子が心配?」

「うん。まだ14なのに」

「15」

「あ、そっか。15歳になったんだ」



新しい年に一斉に年を取り、麗様は17歳、私は15歳になった。それはもう、先月のこと。

(セイ)は2歳。狼なのに暖かい部屋が好き。部屋の中は、掃除しても星の毛が舞っている。獣臭もなかなかのもの。慣れた。


前年冬から戦に行ったNo.15の知らせは、全くないまま。

東宮の正室になる話は断った。現在、正室ナシなのだそう。

人々は、東宮がEDという噂にとっくに飽きてしまった様子。世継ぎ問題がどうなろうと、庶民の暮らしはさして変わらない。

人里離れてひっそり生きる、麗様と私の生活はもっと変わらない。



冬が過ぎ、菜の花が咲くころ、北部の終戦の一報が届いた。



「星、星、星! よかったね。終わったんだよ」



No.15は活躍したらしく、皇帝から称号を賜った。

文を持って来た人が自分のことのように嬉しそうに語ってくれた。



「上官が腑抜けだったんです。こっちで内勤してて飛ばされた人で、戦なんてド素人。あんまり酷かったんで、代わりに第15皇子が指揮することになったそうです。攻める前に、大量の猪を敵地に放して、穀物庫を襲わせた。米がなくなった敵は戦意喪失。そこへガッと攻め入った。本当に精悍なお顔立ちになって凱旋されました。いずれは大将軍ですよ」



東宮への文を書きながら、No.15への文も託そうと思った。

それを察した麗様は、私の肩に手を置き、首を横に振った。困った顔で小さくため息を吐く。



「珊瑚様、私は文字が書けません。武術の鍛錬でお世話になった第15皇子に、代わりに文を書いてくださいませんか? 『ご無事で何よりです。ご活躍が認められたことお慶び申し上げます』と」

「分かりました!」



麗様の言葉に「またお会いする日を楽しみにしております。お体を大切になさってください」と加え、差出人を麗様にした。文には、東宮殿でチェックが入る。本当は「大丈夫だった? よかったね。また遊びにきて。元気でね。麗&珊瑚より」って書きたいところ。




No.15から返事が届いたころ、本人は北東にある大きな都市の学院へ通っていた。

文には「息子にとって戦よりも辛いこと、を皇帝が考えた結果だろう」と書かれていた。No.9も一緒に学んでいるらしい。皇帝の目的は、東宮から他の皇子を遠ざけること。見え見え。







南自治区に来て1年と少し経ったある日、美しい貴人が私を訪ねて来た。



菊蘭(ジュェラン)様!」



東宮の元正室、菊蘭様だった。少しやつれた顔は酷く美しく、ぞっとするほどの色香を感じた。お腹は平ら。左側、耳に近い頬の下から首にかけて一直線に傷が残っている。



「珊瑚、元気ですか? この近くの湯治場に来たので会いに来ました」



どーしよ。どーしよ。この家に入ってもらっちゃっていいんだろーか。庶民の暮らしなんてご存知ない方。しかも、いくら掃除してても、星の毛と獣臭。それに、どーやっておもてなしすりゃいーの。高級なお茶菓子なんてないよ。だいたいお菓子って、置いておくと片っ端からなくなっちゃうんだよね。麗様と私が競うように食べるから。

あ! プラム。ウチにはこれがあるじゃん。青峰(チンフォン)さんの器もある。皇室御用達マーク付きDoの紅茶も。ああ、よかった。


客間にはテーブルとイスがないので、リビングに招いた。ああ、星の毛が美しいお召し物に。



(つつが)なく過ごしております。菊蘭様、湯治場にいらっしゃったということは、どこかお体が? お痩せになられました」


「いろいろあったのです。珊瑚はどこまで聞いていますか?」


「東宮は世継ぎを望めない方なので、菊蘭様は皇帝の妃となられたと伺いました」



ご懐妊の話は伏せた。生まれたという話が伝わっていないから、流産なさった可能性がある。



「そうです。表向きは」

「表向き……」

「どこから話せばいいのでしょう」



一呼吸分悩んだ菊蘭様は、大きく遡って、自分が生まれたときから話し始めた。


いくつもの銀山を持ち、帝国内の銀を一手に扱う家に女の子が誕生した。その2ヶ月前、後宮では男の子が生まれていた。年齢がマッチ。銀の一家は、娘を国母にしようと考えた。

厳しく躾け、教養を身につけさせ、東宮の妃になるのだと刷り込みした。



「皇后様は母の親戚なので、私は後宮によく連れて行かれました。そして、東宮と小さなころから遊びました。東宮の妃になるべく育てられた私は、東宮以外の男の子を知りません。兄や弟の友人にも会わせてもらえないという環境でしたので。それが理由なのか、ただ私が単純だったのか、私は東宮に恋をしました」



美丈夫の東宮と気品のある正統派美人の菊蘭様は、絵に描いたようなご夫婦。2人とも雰囲気が似ている。世俗から一線を画す高貴さ。外見も中身も。



「私の頭は本当におめでたく、東宮も自分と同じ気持ちだと、何の疑いもなく思っていました」



けれど、東宮は大人になるにつれ、そっけなくなっていった。それは些細な変化で、表面上はとても優しかった。見つめると目を逸らされる、手を取るべきときに手を差し出されない、触れようと近づくとさりげなく離れてしまう。それは菊蘭様の心の中で、透き通る水にぽたり……ぽたり……と落ちる墨のように広がっていった。

殿方のことなど誰にも相談できず、菊蘭様は秀女試験にパスして正室となった。2人が17歳のときだった。


初夜は『私達はまだ幼過ぎる』と言われ、並んで眠っただけだった。



「17歳なら大人です。思っていても、はしたないのではないかと口に出せませんでした。その後は、今の通り。毎月1日と長期不在になる前日、恒例で夜を共にしました。けれど、18歳になっても19歳になっても、夜は変わりませんでした」



菊蘭様は、実家&親戚一同から子を産めと矢のように催促された。男の子。それがダメでも女の子。女の子だったら次は男の子を、と。

菊蘭様は、自分は女としての魅力に欠けているのではないだろうかと悩んだ。

あまりに子ができないので、第3側室が嫁いできた。知的で美しい人だった。けれど、初夜以外、東宮は第3側室のもとを訪れなかった。菊蘭様は安心した。


その後、第2側室、第4側室、第1側室の順で東宮殿に妻が増えた。けれど、東宮は初夜以外を共にしなかった。

そのことにほっとしながらも、東宮は、大人になってから迎えた側室とは、実は、実質的な初夜があったのではないかと想像した。



「嫉妬です。それはそれは醜く、自分の力で制御できないものでした。特に第4側室は、殿方が二度見する悩殺ボディ。グラビアアイドル並。寝所に乗り込んで妨害したいと思ったほどです。そのとき気づいたのです。子を産むためではなく、自分は東宮に抱かれたいのだと」



そこで、菊蘭様はプラムを一口食べ、「美味しいプラムですこと」と微笑む。

いつもなら、プラムは丸ごと食べる。けれど目の前にあるプラムは4つに切られ、種が取り除かれ、皮まで剥かれている。VIPだから、麗様が頑張った模様。


まだ序章。これから始まる展開に備え、私もプラムを品よく食した。


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