暴力は好みませんし
「そーだったのか。そんなことが」
No.15は、窓から窯のある方を眺める。木々の葉が風にそよぎ、鶏が鳴く。事件があったなど想像できないのどかさ。
高級旅館での話を聞いた。
「度氏ってじーさん、すっげー目立つ。1番いい部屋泊まってんだ。イカツイ護衛連れてさ」
「2人とも岩石の塊みたいな男でしたね」
「「2人も」」
「あの2人は、度氏が何やってんのか全部知ってんだろーな。どっちかは青峰って陶芸家殺した実行犯かも」
「2人ともかなりの使い手でしょう。隙がありませんでした」
「見れば分かるよな。劉だったらイケるんじゃね? 捕まえて吐かせるの」
護衛の姓は劉。劉氏は武官。妻子ありのおじさん。
「どうでしょう。自信がありません。麗ならできるだろ?」
「私も自信などありません。必要以上の暴力は好みませんし」
あれ? そーなんだっけ???
「そうか。万が一、向こうが上手だったら、ことがことだけに命が危ない。女性にそんなことはさせられない」
と劉おじさん。麗様って何気に東宮殿の兵士達から大事にされてるんだよね。アイドル的に。
「じゃ、正体を明かして、オレがサシで話するとか」
「なりません!」「ダメです」「殺されるよ」
3人から一斉ダメ出しを喰らうNo.15。
「取り敢えず、度氏ってじーさんがあの旅館に泊まってる間は様子見とく」
ということになった。次に会うのは、私のバイトの納品日。
見送るとき、No.15の声が風に乗って聞こえた。
「オレって、自分で思ってるより雑魚キャラなんだな」
「いえ、そんな。なに分、まだ、お若いですし」
フォローに必死な劉氏の声も。
数日後、No.15、劉氏と会うために港へ向かう。
港は、多くの人が忙しなく行き来する場所。会話は風の音にかき消されるだろう、という理由でチョイスされた。
潮風に混じる、浜焼きの匂いに誘われて、麗様と屋台前で足を止める。
「麗、時間あるし、食べる?」
「イカ1つ」
返事の前に注文してるし。
「私はホタテをお願いします」
「あいよ。熱いから気をつけな」
ぶらぶら歩きながら食べ始める麗様。ちょっとマナーが気になったけれど、郷に入っては郷に従えというもの。歩きながら、丁寧に帆立の身を箸で貝殻から外していく。
いつものように、港は活気に満ちていた。大きな帆船が並ぶ景色は圧巻。幅の広い桟橋の海ぎりぎりのところまで行って、帆船を横から眺める。
カモメが遊び、遠くからは港らしい喧騒。
貝殻に溜まっている汁をじゅっとすする。
「美味しい」
ちょっと感動。麗様を向いて笑った瞬間、何かが視界を横切った。カモメ!
「珊瑚、取られてる」
「ああーっ」
カモメはホタテの身だけを持って行ってしまった。酷い。火傷しちゃえっ。
ばさばさ ばさばさ
1羽のカモメがイカを狙って飛び回る。麗様はイカを守るためにカモメに鋭い視線を飛ばした。
ひゅるるる ぱしゃっ
なんと、カモメが海に落下。うそ〜ん。刹那落としの麗様。目力、恐るべし。
どん
今度は後ろから走ってきた人にぶつかられ、麗様のイカが地面に落ちる。目にも止まらぬ速さで、イカが別のカモメに掠め取られた。
「……私のイカを」
ヤバい。麗様が怒りの青い炎を発している。
次の瞬間、麗様は、私の手に残っていたホタテの貝殻をひゅんっと宙に投げ、自分にぶつかった男に飛び蹴り。
ぱしゃ
どかっ ザッブーン
イカを咥えたカモメと貝殻、男が海に落ちる。男の仲間らしき数人が走ってくる。荷物を抱えたり、剣を持ったりした男達。剣? え、こっちに向かってくる。
避けて道を開けた。
のに、剣を持った男が私の腕を掴む。
「この女がどうなってもいぃ、、、」
私はとっさにしゃがんだ。自分の首に剣を突きつける形になった男の片脚に体重をかけて転ばせる。
「どいて」
麗様の声に反応して、地面を這うように男から離れた背後で、
どかっ ザブーン
男は海の中に吹っ飛んだ。
「麗!」
怖かったよー。泣きつくつもりだったのに、麗様の視線は私を素通りしている。
「体、鈍ってたんだよね」
と、それはそれは目をきらきらと輝かせて、逃げている数人の男の1人に回し蹴り。男の持つ大きな袋をすかさずキャッチ。ザブーン。袋を私にパスし、別の男に顔面パンチ。バランスを失った男は海にザブーン。今度は後ろから来た男を海に向かって背負い投げ。ザブーン。
恐れをなして逃げる男を追いかけ、片腕を捻り上げる。
「私のイカが台無しになった。弁償しろ」
男は片腕を捻りあげられたまま、情けない顔でこくこくと頷き、自由になる方の手で懐から財布を出す。麗様は片手で財布の中から銅銭を取り出し、男の懐に財布を戻す。器用。
派手すぎるアクションに集まった見物人の中へ、麗様は「もう用はない」とばかりに男を放り投げた。
「おおーっ。兄ちゃんらか。ありがとう。助かった」
人垣をかき分けて現れたのは、青薔薇磁苑の経営者。
逃げていた男達は、船の積荷を狙った泥棒で、この後、人相書きを作られて南自治区を追放されるらしい。
乱闘中、私が麗様から投げられた袋に入っていたのは、青薔薇磁苑のいくつもの磁器だった。
「ちょろっちょろ、ちょろっちょろっと品数が減ってな。商売相手はこっちがごまかしとると思って怒ってくるし、何喋っとるか分からんから見張りに来とったんや」
泥棒は、南自治区の港に役人がいないのをいいことに、船でやってきて、あちこちの船から積荷を盗むということを繰り返していたらしい。
見れば、海から引き上げられた男達と共に、少し離れた場所に係留してあった船から縄をつけられた男達が出てきて、見物人が群がっている。
「この磁器は、見せてくださったのと、同じ形ですね」
袋に入っていたのは、いくつかの大きさ5寸の蓋付きの器。青い花の絵が描かれている。模様は先日の物と違う。
「今、西洋で人気があるらしくて、高ぅ売れるんや」
「まあ! 西洋で。それはスゴいです」
「前に白髪の杖の方が青峰のと同じの造れって言ったとき、詳しくは教えてもらえんだ。でもな、オレんとこに追加注文をしたかったってのは分かった。追加注文が入るっちゅーことは、売れるってことや。これやってピンと来たわ。柳の下にはな、2万匹のどじょうがうようよおるもんや」
青薔薇磁苑の経営者は親指と人差し指で円を作った。お金。
「まあ」
私はぱちぱちぱちと拍手した。
「お、あの外国人に文句言わんと。こっちが数ちょろまかしとるって決めつけておって」
星輝と同じような西洋の服を着た外国人が、こちらに向かってくる。
経営者は、怖い顔で肩をいからせた。
「泥棒のせいやったんや! 調べもせんと、勝手にこっちのせいにすんなや、ボケ」
「ペラペラペーラペラペラペラペラ。ペラペララ」
「そっちの管理不行き届きやないか!」
「ペラペラペラペラペララペラ」
「よーも支払い減らしてくれたな」
「ペラペラペーラ」
「あの分も払えや。そっちのせいなんやから」
「ペラペラペラペラペラペラペラペラ」
え。通じてるの?
いつの間にか、No.15と劉氏が傍に立っている。
「悪かったって謝ってるよ」
とNo.15。
「お、兄ちゃん、言葉分かるんか? やったら、未払いの分、請求してくれ」
どうしてこれで、商売が成り立っていたのか不思議。
「ぺらぺらぺーらぺらぺら」
「ペラペラペラララペラララ」
「嫌だって。港を管理してないお前らが悪いってさ」
「なんやと! このど腐れ野郎」
「ぺ「兄ちゃん、訳さんでええ」
「ペラペラペラペラペラペラ」
「お詫びも込めて、その袋の品を倍の値段で買うって」




