そういえば妻でした
まず、東宮に報告すると決まった。そして当たり前だけど、No.15は紅茶のお土産を配らない。紅茶は証拠品として保管。
「報告するのに、また何日もかかっちゃいますね。不便。その場で連絡できればいいのですが」
そう言うと、No.15は「誰か報告してきて」と仕事をパス。
「なりません。東宮は心身共に疲れ果て、珊瑚様の様子を知りたがっておいでです。一刻も早くお知らせすべきです。紅茶の件も」
「星輝が元気っつってたからいーじゃん。基本、オレは来ただけじゃん。紅茶のことも誰が言ったって変わんねーじゃん」
No.15は我儘を炸裂させた。
「船で知らせに行くことになります。足がなくなりますよ」
「いーし。馬買う。か、迎えに来て」
「護衛が手薄になった状態で、皇子をこちらに置いて行くことなどできかねます」
お付きの人は、めっちゃ早く帰りたがっている。
「じゃ、行って来て。だったら護衛、減らない」
No.15はお付きの人に仕事を丸投げ。
「私がいなくて大丈夫ですか? 日々の細々したことや、皆様へのご迷惑の謝罪、その他……」
「あーっ。もう。大丈夫だって。戦にはついてこないじゃん。ちゃんと1人でできるの」
なんか、5歳児と喋ってるみたい。日頃のご苦労をお察しいたします。腰痛持ちなのに。
結局、No.15は我儘を通し、お付きの人を船で都へ帰らせると決めた。腰痛を気遣って、護衛1人と共に。あれ? だったら、護衛が1人、報告に帰ればいいだけなのに。
「皇帝御用達の印の配布先、調べといて」
見送りのとき、まあまあ大変な仕事を言いつけるNo.15。
「あの方は、そーゆー記録にアクセスできるの?」
尋ねると「優秀だから大丈夫」だって。
私は、杏、母、第3側室ピンク芍薬&第4側室紫陽花への文を託す。
「あのさ、異母兄に書くのが筋だろ。金貰うんだから」
とNo.15。
「え? お金?」
「あ、喋るのに夢中で忘れてた。不自由してるだろうからって、異母兄から預かってきてんだ。他にもいっぱい。後で渡す」
そういえば、私って妻だった。お金のことがなくても、夫の東宮へ文を書くのは義務だよね。
その場で、お付きの人から紙を貰って筆を借り、文を記す。紙は旅のせいかちょっと濡れた跡があってヨレっとしている。なんだか、1番小さくてありがたみのない文になっちゃったわ。すみません、東宮。
見送りのとき、お付きの人は「しっかりと四書五経を読むのですよ。勉学を怠ってはなりませんよ。お腹を出して寝てはいけませんよ。皆様に……」と、船が遠のいて声が聞こえなくなるまで叫んでいた。
「あー。やっと行った。あれもダメこれもダメ。たまには離れたい。星輝だけ、珊瑚や麗と一緒に暮らして楽しんでさ。オレだって「なりません!」
お付きの人がいなくなっても、護衛に止められるNo.15だった。
No.15と護衛は、街1番の高級旅館に滞在することになった。それはメインストリートにある度氏様が宿泊しているところと同じ。
度氏様とNo.15は面識がないらしい。
「お気をつけください。正体がバレれば、瞬く間に情報が拡散されます」
麗様は、身をもって感じたことを警告した。
南自治区の人達はお喋り雀。過去を詮索しない文化があるのに、現在にそれを適用しないところが謎。
東宮から渡される生活費は、翌日、家まで運んでもらえることになった。地図を渡した。
帰り道、麗様と話す。
「白骨死体のこと、星輝は黙ってたんだね。だから、私が皇室御用達の印を持ってること、話さなかったよ。家や書店のバックヤードにある蓋付きの器のことも」
「珊瑚、言わない方がいいって。白骨死体なんて言ったら、すぐ引っ越せって言われる。せっかく星が狩りできる山があるのに」
「麗も畑あるもんね」
ときどき麗様と畑仕事を一緒にする。腰にくる。
「畑、やめよっかな」
「麗、ハマってるのかと思った」
「楽しいんだけど、日焼けするんだよね」
「しょうがないよ」
「日焼けって、歳取るとシミんなるんだよね」
「そーなんだ」
「SPF50(?)の日焼け止め使ってても汗で流れちゃってさ」
次の朝、麗様は目以外の部分を布で覆い、夜明け前の薄暗い時間に農作業をしていた。私は朝ご飯の用意担当。
「星、今日ね、皇子が来るよ。ときどき遊んでくれたおじさんも」
賢い星は「皇子」の響きにしっかり反応して尻尾を揺らす。
「分かるの? 分かるよね。えらいねー」
ふりふりふりふり
モフモフの尻尾が可愛すぎ。
No.15と護衛が来たのは昼過ぎ。
馬を買い、荷車を借り、馬宿を探すなどしていたらしい。
No.15と星は恋人同士のように激しく喜びあって、床を転げ回っていた。
私は、運ばれてきた品々にドン引き。
衣類、靴、化粧品、手鏡、櫛、髪飾り、書物、食器など。どれも華美すぎて使えないものばかり。書物は大丈夫かな。持って帰って欲しいと思ったけれど、私のことを思っての品々。
麗様の目は、$_$。
洗濯用の石鹸や鍋を送ろうって発想はなかった模様。
野菜と鶏を持って来てくれた青薔薇磁苑の経営者がいかに有能かが分かるわ。
お金は、銀子300個。
「周りから大金持ってるって思われると危険だから、銀子は少なめ。来月、また誰かが持ってくる」
No.15に言われて断った。
「ぜんぜん不自由してないから大丈夫。ここでの暮らしって、そんなにお金かからないから。今回はありがたくいただきます。でもね、これ、1ヶ月じゃ使いきれないよ」
麗様の視線が少しだけ気になったけど、分かってくれるよね、私の気持ち。
旅をして知った。私が身につけていたものは、庶民が何日も働いてやっと買える値段。生活にお金が必要だから、庶民はそんな物は買えない。
そして、庶民が贅沢せずに暮らして税を収め、その一部が私の身につける絹や金色の髪飾りになっていた。
「薪割りをします」
申し出てくれたのは護衛。素晴らしいわ! 何が必要なのか、ちゃんと分かっていらっしゃる。
「ありがとうございます。薪割りは力が要りますし、手の皮が硬くなってしまうので困っていたのです」
私の言葉に、世間知らずNo.15は宣う。
「割ったのって売ってねーの? だったら、人雇って割らせればいーじゃん」
これだから、ぼんぼんは。って私も最初、同じこと思ったんだけどね。麗様は私に言ったことを再現。
「男手のない家だと分かってしまいます。狙われます」
「へー」
No.15も薪割りをしてくれた。途中、外から家の中を覗く。
「ここが星輝が使ってた部屋?」
風を通すために窓は全開。外から入ることができる扉状の大きな窓。
「うん」
No.15は部屋に入り、カビの生えたベッドを見下ろす。カビの生えていない隅に、星輝が置いていった布団が置いてある。
? どーしたんだろ。立ったまま、しばらく動かないでいるNo.15。
「床に動かした跡がある。なんで? カビ生えてるのに捨てない?」
ああっ!
傍にいた麗様と私は、驚きに目を丸くする。
それを見たNo.15は、「何かある」と勘づき、ベッドを1人で持ち上げてしまった。ずるっ、すとん、と布団がずり落ちる。
「何、この箱」
「……ぇっと、その」
戸惑う私に見かねて、麗様が大きな声を出した。
「生理用品です!」
外で薪割りの音が止む。護衛に聞こえてるじゃん。
麗様は不敵な顔をした。『さあどーだ、これで手出しできまい』という心の声が聞こえる。
が、なんと、空気を読まないNo.15は、箱の蓋を開けた。
「そーゆーのは自分の部屋に置くも、、、何これ」
見つかっちゃった。薪割り中断。
全てを白状シマシタ。
白骨死体、青峰さん、蓋付きの器、皇室御用達の印。




