ロイヤルな紅茶の葉
「博識の異母兄、第9皇子が言ってたんだけさ。皇帝と東宮の妻達は健康診断を受けてて、月のものが記録されているらしい。皇帝と東宮が、誰を指名したのかも記録されている。だから、それでいつ、その、えーっと」
久々に聞いたNo.9の話なのに、No.15は途中で言葉に詰まる。麗様は単刀直入。
「いつ子種を仕込んだか分かるってことですね」
「……そぅ」
仕込みなの? なんだか作業っぽい。
「それで?」
「第9皇子が言ってるだけで、そーゆーことが考慮されてるのか、だからどーなってんのかは聞いてない。とにかく東宮はめっちゃ落ち込んでる」
あらら。東宮は苦労が絶えないのね。もう既にハゲ散らかしちゃってるかもしれない。
風がカモメの鳴き声と共に舞い込む港のレストラン。恋人達が愛を語らってこそ、このシチュエーションが生きるというのに。いったい何を話しているのやら。
後宮とか東宮殿とかって、恋愛スルー「子作り」で嫌。
「東宮の副業は上手くいってるの?」
塩のことを聞いてみた。塩チケットで、零細の商人にも塩の販売を許可したことはどうなったんだろう。
「利益は横ばい。塩の値段は全体的に下がって来てる。特に地域で独占販売してた塩商は苦戦してる。けど、異母兄んとこは、経費をかけて僻地に塩を売りに行ってた分のマイナスがなくなって、塩が安くなった分をカバーしてる感じ」
「塩が安くなってよかったね。あれ? 麗、安い?」
私、元の値段知らないから分かんない。
「安いですよ。南自治区はもともと、地域の塩商がいませんし、賄賂文化が薄いので。他より安かったのが、更に安くなりました」
「「そーなんだ」」
一緒に南自治区に来て、同じだけ過ごしてるのに。麗様が知ってて私は気づきもしないなんて。ちょっと凹む。
「星輝の知らせがなかなかなくて、すっげー心配した」
「……」
「こちらでの生活が安全と分かるまで、滞在していたのです」
麗様が説明してくれた。
「かかり過ぎ。異母兄が報告受けたの、10日前くらい」
「「……」」
それはない。星輝が去ってから、鶏小屋作って、ひよこがかえったんだもん。私なんて、仕事見つけて何回も納品したよ。麗様はぼうぼうだった畑を綺麗にして大根や青梗菜の種蒔いて、ちょっと育ってる。
何かあったのかな、星輝。
あれ?
「皇子は10日前に報告受けた後、こっちに来たの? 私達、都からここまで2週間くらいかかったよ?」
早過ぎ。
「船だから」
そんなに違うんだ。
「船で思い出しちゃった。東宮殿の武器は皇太后様の船から下ろしたの?」
「まだ」
なかなか強者。皇太后様の船を都合よく使うなんて。
東宮は、皇太后様の船を借りているので、自分の船を皇太后様に差し出したそうな。積み替えのときに秘密がバレる危険があるもんね。
麗様の意識は、会話に1割、食べることに9割。
せっかくだから、味わわなきゃ。
三日月型のパンが美味しい。小麦粉で作ると聞いた。麺やシュウマイの皮とは全く異なる味覚と食感。なんだか優雅になった気分。
運ばれて来た紅茶は高級茶葉だとウエイターが説明する。
「お土産にしたい。売ってくれないか?」
No.15が一言言うと、ウエイターはさっと頭を下げた。
「はい。ご用意させていただきます」
庶民として暮らしているからか、No.15の態度を横柄に感じてしまう。今まで、当然だと思っていたのに。むしろ「特別に心に留めてあげたことは光栄でしょう」くらい。
麗様が釘を刺した。
「皇子、お忍びであれば、身分がバレない行動をしてください」
「え? 身分バレる? めっちゃ平民のカッコしてるじゃん」
皇子は服のそでをぴらぴらとはためかせた。裕福な庶民って感じの服装。
「個室の外に護衛。高貴だとバレバレです。いくら裕福でも、庶民はこんなことしません。それがあったから、ウエイターは皇子に従ったのです。店が仕入れた品を購入しては、場合によっては店側が品薄になります」
「そうか。気をつけよう」
皇子は即、お付きの人や護衛を部屋の中へ入れ、自分でお茶の葉の注文を取り消しに行った。素直。
「麗、すごーい」
「ここで暮らしてるのは珊瑚様です。特別な人間だと気づかれては、珊瑚様に危害が及びます」
ただ、着席したお付きの人と護衛は、慣れていないのか肩身が狭そう。
戻って来たNo.15はお使いに行った子供状態。
「麗。茶葉を売ってる店、教えてもらったぞ」
ちゃんとできたよって報告する。
No.15が着席すると、もう密談ができない状態が出来上がっていた。塩についてはOK。おめでたはNG。ところで。
「星輝からの報告ってどんな?」
「なんとか南自治区に辿り着いて、偽名で入った。不動産屋から人里離れた場所の1軒家を紹介されて住んでる。珊瑚も麗も、周りに素性はバレていない。星も一緒。とても元気。くらいかな」
窯に白骨があったこと、私がアルバイトをしていることは話していない模様。さっすが星輝。口が堅い。
一通りの報告を終え、お茶の葉を買いに行った。
港の倉庫へ足を運ぶ。「Do」と焼印を押された木箱を運ぶ人々が行き来している。
皇子は、お茶の葉を木箱ごと購入。
「みんな、緑茶とかは第1側室のおかげで飲み放題だからさ。紅茶。いつも武術の鍛錬んときにお世話になってっから。ほい、ほい」
その場で、麗様と私にお茶の葉が入った袋を1つずつくれた。
「ありがとう」「ありがとうございます」
木箱を開けたので、心地いい香りが辺りに広がる。
国が違えば香りが違う。それでも人がいいと感じるものは万国共通なのだろうか。
そんな風に思いながら、お茶の葉の袋を見て、足が止まった。
「麗」
麗様の服をつんつん引っ張って、袋の1箇所を指差す。そこにはまぎれもなく皇室御用達のマークがあった。大きさは、白骨となった青峰さんの口から見つかったものと恐らくは一緒。
これは輸出用のお茶の葉。国内のお茶は緑茶やウーロン茶、プーアール茶。私たちの国に紅茶を飲む習慣はない。
そして、我が国は鎖国。表向きは貿易禁止。
南自治区で密輸が行われていることは暗黙の了解。百歩譲って「紅茶のお土産」は許されるだろう。
けれど、密輸の紅茶に皇室御用達の印が押されていることは、ダメでしょ。
「皇子、これ、配っちゃダメなやつ」
皇子に皇室御用達のマークを見せた。
「マジか?!」
お茶の葉の木箱をNo.15の船に積むのに同行し、場所を変えて考えることになった。
No.15が乗ってきたのは、小さな船だった。内装もシンプル。
東宮の船は皇后様と同じ大きさと聞く。恐らくは、皇太后様が塩将軍の怪演をなさった帆船。長男とそれ以外で、ここまで差がつくなんて。ちなみに、No.15専用の船ではなく、皇子達で使う共同の船とのこと。ますます差。
お付きの人と護衛も一緒に考える。
「これでイーブンですね」
と麗様。
第1側室は、東宮殿でお茶の葉を配ることによって、恐らく、東宮の私軍の規模を把握している。皇族にとって妻はスパイ。第1側室の実家、度家には知らされているだろう。
こちら側は、第1側室の実家の弱みを握った。暗黙の了解ではあるが、南自治区の密輸の証拠。それだけでなく、皇室御用達の印を用いている。これでお互いに弱みを握り合ったことになる。
どっちも弱み握りながら黙ってるの? ダーク。
「偽造でしょうか」
護衛の1人が問う。ん? そーいえば。
「東宮から、第1側室は皇帝の推薦でお輿入れされたと聞いています」
「では、印は偽造ではなく、皇帝が許可した可能性もあるのですね」
No.15のお付きの人は、私が怖くて口に出せないことを言ってくれた。
もう1つ、気になることがある。度氏様の商いはお茶の葉を売ること。なぜ陶磁器が必要だったのだろう。100個以上も。
ネットで調べても分からないことだらけです。中世の中国文化圏で、お茶や塩はどのように包装されていたのか。二頭立て馬車は何人乗れるのか、船は何トン積めるのか。東宮の広さは? 庶民の家は? 中国時代劇を見るなどしております。後宮が舞台のものは多いのですが、庶民の生活はなかなか登場しません。




