誰の子
私は憶測でしかないストーリーを語った。
5〜6年前のこと。
青峰さんはボコられて露店で品物を売るようになった。そして、度氏様の目に留まり、蓋付きの器を造ることになった。
皇室御用達の印を入れるよう指示された。100個納品。恐らく、この家のキッチンの扉付き戸棚にあったのは、余分に造ったもの。報酬を受け取り、ベッドの下に置いた。
追加注文が入った。「窯元の落款も必要だから、皇室御用達の印を横にずらせ」と依頼された。青峰さんは、横=器の側面という意味に受け取った。
「青峰さんは、言葉の意味を間違えて、横ってのを器の横のことだと思っちゃったんじゃないかな」
皇室御用達のマークを器の側面までずらして配置し、模様の一部にしてしまった。注文と違うとクレームが来て、仕事はなくなった。
青峰さんは、皇室御用達の印を取り返しに来た者に殺された。
「皇室御用達の印は偽物だと思う。だって、密輸なんだもん。そのことを隠蔽するために青峰さんは殺された」
「あのマークってそんなすげーの?」
「お値段が5倍くらいに跳ね上がるんだよ」
青薔薇磁苑に追加分を造らせようとしたが、希望の作品ではなかった。
「なーるほど。珊瑚、そんな感じなんじゃね? 別棟の片付けんとき、変だと思ったんだよね。引き出しが全部開いてんの。だらしない人だなって思ってた。ちげーし。荒らされたんだな」
「麗、私ね、別棟が殺人現場だと思うんだけど」
「100%そうっしょ」
「えーっ」
「口ん中に入れてた物が残ったままだったし」
「?」
「人の口って、死ぬと開く。川から死体が上がったとか人が死んでたとかって、口開いてるよ」
「なんで、そんなの知ってるの?」
「みんなで見に行くってたから」
「えーっ」
「さらし首とか、さらし死体とか」
「……」
「遠くの場所で殺したんだったら、口が開くから、運んでるときに探してる物に気づく」
「家の方は荒らされてなかったね」
「離れてっから。別の人の家だと思われたんだろ」
想像したことが合っていようが間違っていようが、ベッドの下の大金が青峰さんのってことは確か。
2人でお金を数えた。銀子が1つだけ遣われていた。1999個ある。
窯の前に梨をお供えした。それくらいはしたかった。
次の日、何かに食べられて、食べかすに蟻がうじゃうじゃ群がっていた。
「これで心置きなく遣える」
なんて麗様は言うけど。
「お金に不自由してる?」
「ぜんぜん」
「だよね」
隠密のはずなのに、麗様と私は遊び歩いていた。
麗様なんて、畑まで耕し始めて、この地に根を下ろす気満々。私は、バイト、家事、武術の稽古に勤しむ日々。
バイトの納品で街へ行くのは、楽しみの1つ。
本日は、納品後、港で異国情緒を味わっている。港の見えるレストラン。ここではパンというものを食べられる。
「珊瑚、麗、久しぶり」
席に案内された直後、声をかけられてびっくり。No.15だった。お忍びでやって来たらしく、店内の少し離れた場所に、お付きの人と平民姿の護衛が2人いる。武術の鍛錬のときにお世話になった方々。ごぶさたしております、とこっそり会釈し合う。
「ここじゃ、あんま、いろいろ話せなくてさ。どっか、ゆっくり話せるとこあればいーんだけど」
「じゃ、ウチ来る?」
「行く行「なりません!」
いつの間にか、お付きの人が私達のテーブルのところに立ち、止めに入る。
「良いですか。かりにもこの方は東「なりません! それ以上喋っては」
今度は護衛の1人が来て、お付きの人の言葉を遮る。
なんか、メンドクサイ。
密談ができる個室へ移った。お付きの人と護衛が部屋の外に立つ。目立つと思うんだけど。
No.15は東宮の依頼で、私の様子を見に来たのだった。
「東宮、すっげー心配してる。杏なんて泣いちゃって。『珊瑚様はどんなに辛い思いをしておいででしょう』って」
「けっこう、楽しく過ごしてるよ。ね、麗」
「はい。珊瑚様は今では洗濯もご飯を炊くこともできます。武術の稽古も怠っておりません。弓矢は道具がないので省略しておりますが」
「元気ならよかった。なぜか、珊瑚が逃げたことは公表されてなくてさ」
「え? では、珊瑚様は囚われたままということになっているのですか?」
「逆。捕まってないことんなってる」
「「は?」」
麗様と2人で驚いちゃったよ。
「何があったのか皇帝は話そうとしない。東宮が聞いても、『知らん』の一点張り。第3側室と第4側室からの知らせで、東宮自ら宮廷に乗り込んだのに。って聞いてる。オレは、都の外で足止めくらっててさ」
「そっちは無事解放されたんだね」
「一応、疫病の疑いってのが建前だったから、何日か拘束されて、それ以上は引き伸ばされなかった。話変わるんだけどさ、東宮の正室がおめでた」
ぱちぱちぱちぱち
思わず拍手。よかったよかった。なーんだ、東宮。やることやってるじゃん。
「「おめでとうございます!」」
東宮は、正室のおめでた騒動で身動きが取れず、No.15をに私の様子を見にこさせたのだった。適任。周りになんの疑いも持たれず、出発できたらしい。放蕩皇子の成せる技。
「で、東宮が正室を廃妃(妃ではなくすること)にするって」
「どうして?」「え、なんで?」
驚きのあまり、思わず敬語を忘れる麗様。
No.15は傍によれとジェスチャー。大きな声では言えないことがあるらしい。
「これ、ここだけの話。東宮の子じゃない」
「まさか」「それはないでしょう」
「東宮は、正室と子供作ってないってさ」
「まさか」「それはないでしょう」
「本人が言ってんだから、マジだって」
第3側室ピンク芍薬と第4側室紫陽花によれば、顔も忘れるほど会わないとのこと。けれど、正室は違う。月の初めと長期出張の前は必ず、東宮が正室と過ごすことになっている。
「周りは大喜びでしょうね」
待ちに待ってたのだから。
「それなんだよ。デリケートな問題だから東宮も言い出せなくて。しかも、子作りしてないなんて、もっと言えないことじゃん」
そこで麗様が質問した。
「殿方は、一晩過ごしてセックスしないって、我慢できるのですか? 布団も一緒ですよね?」
ぼっとNo.15の顔が発火。いくらやんちゃでも正真正銘の深窓のご令息、ストレートなワードに慣れていないらしい。
私も麗様の発言にどきっとしたけれど、バイトで免疫ができているせいか、そこまでの反応はしないよ。
「知らんし。あいにく、未経験だ」
No.15は言い捨てた。
なんか、気持ち悪いこと、思い出しちゃったよ。皇帝に襲われかけたとき、「独寝の寂しさに迫られた」みたいな話。それでも。
「東宮にしかできない1番大切な仕事は、子を成すことだから。もう、いっそのこと、自分の子ってことでいいんじゃない?」
「女だったらいい。男だったらどうするんだよ。皇帝になるんだぞ」
「ダメなの?」
「ダメだろ」
「政治は官僚がやってるじゃん」
「なんのために後宮に妃を閉じ込めてる。正式な血統の皇帝を出すためだ」
「ふーん」
「なんだよ。その気のない返事。側室のなのに」
「……」
そういえば私、側室だったっけ。ここでの庶民の暮らしに馴染みすぎて忘れてた。
「とにかく、緘口令が敷かれてる。東宮殿の側室らはご懐妊のことは知ってる。護衛の任務の人は一部だけ。他の兵士は知らされていない」
「ふーん」
どーでもいい。




